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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第十章
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第三百二十五話 『できること』

 「……なんなんだよ……お前……」


 身体中を震わせながら、迫る少女を見上げる翔英。


 思わず口に出てしまったが、とっくに分かっていたことだろう。

 こいつに常識なんてないことなんて。

 こいつが本当のことを言うはずがないことなんて。


 なのに、簡単に騙されてしまった。


 まだミネカだったことが、『動けない』証明だと思ってしまった。 


 完全に一歩目の心を粉砕された翔英を、ジャーザンスは嬉しそうに見つめている。


 「そうだよ……。その顔が見たかったんだあ。ずっとさあ。いやーよかったよかった」


 「……………………」


 「あの時からさあ、ずっと頭の中に、この女の声が響くんだよ。『ショウエイさんを傷つけないで』『ショウエイさんを苦しませないで』ってさァ。だがらどうしても、この女の身体でお前を殺したかったんだよね!!!」


 「…………クソが……」


 「苦労したぜえ……。中々頑固な奴でさ。こんなに抵抗されたのは初めてだったよ。だが今は……!! こうして……!!! お前を自由に嬲ることができる……!!!」


 「うあっ……!!」


 敵の拳が頬を叩く。

 翔英は衝撃に身体を浮かせ、バランスを崩した。


 すぐに体勢を立て直し、敵の首に狙いを定めるが、

 剣を振る事はできない。


 「……くっ……」


 「うんうんうんうんそうだよねえ。攻撃できないよねえ。それも期待通りだよ!!! お前が弱いことは分かってる。生半可な覚悟でここに来たってこともね。この女とどういう関係なのかは興味ないけど、君じゃあ絶対に、私には勝てないよ!!」


 攻撃をキャンセルした翔英の隙を突き、ジャーザンスが膝蹴りを喰らわせる。

 痛みに悶えてる間に、更に叩く、叩く。


 「(……こいつ……!! すげえ力だ……!!)」


 その威力は、仮にもミネカの肉体から放たれている物とは思えない。

 確実に、翔英に重いダメージを蓄積していく。


 「(ダメだ……!! このままじゃ……!!)」


 彼女を傷つける覚悟を決め、反撃に転じる翔英。

 ジャーザンスの攻撃を退け、勢いのままに殴り掛かる。


 「はっ……!! 遅い遅い!!! そんな攻撃……!!!」


 「ぐあっ……!!」


 「当たるはずがない」


 攻撃の威力だけではなく、そのスピードも人知を超えている。

 翔英が攻撃を決める前に、逆に肘打ちをお見舞いした。


 ――――勝負にならない。


 元の実力は翔英だって負けちゃいないが、相手の姿が悪すぎる。

 

 例え彼女のためとし、力をぶつける覚悟を決めたとしても、その姿を瞳に映せば一瞬動きは鈍る。

 そんな隙を生んで打ち勝てる程、ミネカを纏ったジャーザンスも甘くない。


 勝ち目は、見えない。


 「こいつで吹っ飛びな!!!」


 ジャーザンスの一撃。

 顔面にクリーンヒット。

 景色が回る翔英の身体を破壊しに掛かる。


 「おー来たか」


 だが後ろから攻撃が入り、ジャーザンスの猛攻にストップが掛かる。

 ロジェだ。


 「すまないショウエイ。遅くなってしまった。任せてと言っておきながら、本当にごめん」


 「……いや……ありがとうロジェ……助かった……」


 「今度こそ、僕に任せてくれ。君に、ミネカ・ベルギアは傷つけさせない」


 翔英の前に立ちはだかるロジェ。

 友の心を痛ませまいと、代わりに戦闘に入る。


 「さすがはロジェ様だね。あれをもう克服するなんて」


 「……いや、僕のこの身体にも有効な毒。……そんなものを用意してたってことの方が驚きだよ」


 「いつか君たち親子も殺そうかなって思ってたからね。その点は抜かり無いよん」


 「……じゃあ、丁度いいって訳だ。僕が今、ここで君を倒すのは」


 ジャーザンスの魔能の一つは、身体の動きを奪う毒を体内から形成するもの。

 翔英との痛み分けに終わったあの日から、ジャーザンスは魔能の強化を試みていた。


 毒を破られあの結果になったこと。

 ジャーザンスは強い怒りを感じていた。

   

 先程の不意の一撃、ジャーザンスは放った拳に強化された毒を集中させていた。

 それを直接体内に流し込まれたロジェは、復帰が遅れてしまった訳だが。


 それでもこの短時間で毒を調和し、負傷を治療し、戦線へと戻ってくるのは、彼の特殊な生まれだからこそ成し得る凄技だ。


 「来なよロジェ。俺の敵はそいつではなくお前だ。お前を殺せば、この戦いは片がつく」


 「……うん。それじゃあ、行かせてもらう……!!」


 ロジェが仕掛ける。

 武器を翔英と同じ形に変形させ、少女の姿の魔物に斬り掛かっていく。


 対するジャーザンスは、素手で迎え撃つ。

 その見た目からは想像もつかない、パワフルな戦い方だ。


 「(……この動き……。妙だな……)」


 「はあっ!!!」


 ジャーザンスのローキックが入る。

 そのまま華麗な回し蹴りへと繋いでいき、ロジェの身体を吹き飛ばす。


 「……ジャーザンス。その子に何かしたのか?」


 「おお、分かるかい? その通りだよ」


 「……!! なんだと……!!!」


 ロジェとジャーザンスの会話。

 嫌な言葉を耳にした翔英は一人声を荒げる。


 「……やっぱり。おかしいと思ったよ。僕はその子と一度会ったことがあるけど、特殊な力を持っている以外は普通の女の子だった。いくら中身が君だとはいえ、その子ができる動きの限界を超え過ぎている」


 「うん、お前の考えは正しいよ、ロジェ。私はどうしても、この肉体でショウエイ・キスギを殺したかった。――――だが、奴は強い。あいつをこの身体で殺すには、この肉体を強化する必要があったのよ。だから、その『特殊な力』を調べがてら、人間以上の力を出せるようにしたってわけさっ」


 「……そうか……」


 再開するロジェとジャーザンス。

 

 毒を撒きながらの仕掛け。

 殺す気では戦えないこともあり、ジャーザンスにやや分がありながら戦いは進んでいく。


 そんな戦況を見つめる翔英は――――


 何度目か分からない憎悪の感情を抑え込んでいた。


 目の前では、自分の代わりにロジェが戦っている。

 戦っている相手の姿は、始まりを告げた女性。


 そんな自分がただ見ているだけなんて、許されるのだろうか。


 かといって、参戦した所で……。

 あいつの言う通り、生半可な覚悟じゃ戦えない。


 「…………いや、もしかしたら……」


 思い悩む翔英は、剣を見つめながら、自分にできることを考える。

 すると彼に、一つの予想が生まれた。


 このままでいいはずがない。

 翔英は深呼吸を挟むと、もう一度戦うために立ち上がった。

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