第三百二十四話 『悪意再び』
「……!! こいつ……!!!」
浴場に沈んでいるように、死角に隠れていた。
液体を抜いたことで、ジャーザンスが起き上がった。
その姿を見た翔英。
一瞬だけ心からの安堵を滲ませるが、すぐに激しい憎悪の対象として彼を睨み付ける。
格好も含めて、あの頃の、ままだ。
ミネカ・ベルギアの姿をしている。
「!! ……本当に……」
その姿を見たロジェも驚きを露にする。
翔英の言葉を信じていなかった訳ではなかったが、まさか本当にミネカの姿をしているとは。
翔英が怒りを全面に出しているのも当然だ。
だが、この戦いの主役はあくまでも翔英。
自分の役目は、彼に出来ないことをすること、サポートをすることだと心得ている。
翔英がまだ動かないのなら、自身も戦いを始めない。
そして、その、ジャーザンス。
隠れ家に侵入してきた挙げ句、ゆっくりと浸かっていたお湯を抜かれてしまった。
怒り爆発で文句を言ってやろうと思っていたが、侵入者の姿を見て目をびっくりさせている。
「……なんで……? なんで? なんでいんの?」
「久しぶりだな。ジャーザンス……!!!」
「ええええ!!? なんで、お前たち二人が、ここに!!?」
「お前を倒して、ミネカを助けるためだ……!!!」
「いやいや。いやいやいやいやいや。そっちじゃないよ。どうやって、ここに? なぜ、ロジェとお前が一緒に? それを聞いてるんだよ」
すっとぼけた様子で言葉を返すジャーザンス。
そのおちょくるような喋り方は、ただでさえ怒りを抑えるのに必死な翔英のフラストレーションを更に強めていく。
そんな彼を心配そうに横目で見るロジェ。
翔英が口を開く前に、ジャーザンスの前に出る。
「僕が彼に教えたんだ。僕がショウエイと一緒にいる理由は、僕自身の意思で、彼に協力したいと思ったからさ」
「……ロジェ……」
ロジェが前に出てくれたおかげで、普段の冷静さを取り戻す翔英。
そうだ。こいつのペースに乗っかってしまってはダメだ。
「ふーん。……ってェ!! 答えになってねえよ!! なァロジェ!!! …………いやあ、確かにこの場所が漏れていてもおかしくない。お前が心変わりしてもおかしくないか。ごめん、答えになってるわ。ごめんね、ホント」
と、思っていても、吐き気を催す程のヘイトが込み上げてくる。
今すぐにでも、こいつをぶっ殺したいほどに。
「…………クソ野郎……。ミネカの顔で、ミネカの声で、それ以上喋るな……」
「はっ、いい顔だね、ショウエイ・キスギ。でも願ってもない話だよ。僕もね、君を殺したいとずっと思っていたからさァ。…………ぶっ殺してやるよ!!!」
一気に戦闘の雰囲気になる両者。
翔英は宝石を変形させて、剣を握り締める。
対するジャーザンスは、両手を挙げた。
「……!! ちっ……。何の真似だ……!!」
「いやね。本当だったらさ、この身体で動けるようになったら、お前のとこに行こうと思ってたんだよ。……でも、この女は非常に頑固でね。俺の意思では動かせないんだ。自分で動こうとすると、ミネカ・ベルギアの意思が暴れ出し、肉体を殺そうとする。自分の肉体なのにね」
「……何が言いたい……!?」
「話は最後まで聞いて欲しいな。つまり、まだ私はこの身体では戦えないという事だよ。今は回復液に浸かったばっかりだから何とか動けるけど、数分後にはまた動けなくなる」
「……なら、どうする気だ……!!」
「うん、だから今日は帰ってくれないか!? 戦うのはまた今度にしよう」
「……なんだと……」
何を言っているんだこいつは。
さっきまで殺してやるとか息巻いていたのに、いきなり帰ってくれだと。
言っていることが滅茶苦茶すぎる。
……どうする?
こいつの言う事を聞くか?
……いや、何を考えてんだ。
帰れるわけないだろう。
こいつは絶対、今ここで倒さなければ。
決着をつけなければ。
戦うしか、ない。
「……あれ? 帰ってくれないの? ……そっかァ。残念だよ。じゃあじゃあじゃあ、動けない僕を好きにするがいいさ。――――おっとォ。そろそろ動けなくなってきたねえ」
ジャーザンスは、座り込んだ。
翔英は彼に近づき、剣を向ける。
だが、
「…………ちいっ……!!」
こうなることは分かっていただろう。
ジャーザンスがまだ、ミネカを着ていた時点で、こうなることは。
どうやって奴を取り除く。
一番現実的なのは、他の肉体に移動せざるを得ない状況を作る事だ。
あの時のように。
だがそれは、ミネカの肉体を傷つけることを意味する。
生半可な覚悟では、ミネアの美しい身体を傷つけることなんてできない。
……分かっていたのに。
もうミネカの中にはいないと、勝手な期待を抱いていてしまった。
「……ショウエイ…………。大丈夫だ、そのために僕がいる」
ロジェが近くに来る。
彼も、翔英と同じ剣を手にしている。
違うのは、ミネカとの繋がりだ。
「安心してくれ。勿論、僕は彼女を殺さない。助けるために、彼女を傷つける。……そりゃ、君には無理だよ。だから君は、僕に任せてくれればいい」
「……ロジェ……。……ありがとう……。じゃあ…………」
本当に情けない。
そして悔しい。
でも、何の罪もないミネカを傷つけることなんてできない。
例え精神が別の者であったとしても、この身体はミネカの物だ。
かといって、ミネカを助けるためには、彼女を傷つけることを避けられない。
……任せられる友が近くにいたことを、幸運に思おう。
ミネカを助けるためだ。しょうがない。
許してくれ、ミネカ。
「……たの…………っ……!!? ロジェ!!!!」
「えっ……!! ……なっ……」
彼女を傷つけることをロジェに頼もうとした瞬間。
ジャーザンスが、動いた。
「ハハハハハハハッ!!! あれあれあれあれ? 油断しちゃったかなあ?」
ジャーザンスの手刀が、ロジェの胸を貫いている。
翔英に意思を伝えていた最中、動きを止めていたロジェの隙を突くことは、容易だった。
そのまま痛みに震えるロジェを、思いっ切り殴り飛ばす。
「ロジェ!!! ……なんだよ……お前……動けないんじゃあ……」
「いやいや、信じないでしょ普通。え? 何? 本当だと思ったの? もしかして」
「……嘘だろ……じゃあお前なんで、まだミネカなんだよ……」
「ああ、それ? 決めてたんだよ。お前を殺すまでは、この姿でいようってなァ!!!! ショウエイ・キスギィ!!!!」
立ち上がったミネカ。
絶望に震える翔英に手を伸ばす。




