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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第十章
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第三百二十三話 『ご対面』

 ケバローとザラボラス。

 頂上に君臨する二人が最後の衝突をする、少し前。


 少女から伝言を受けていた魔物、ロジェ。

 そして、ミネカ・ベルギアを救出するためにこの場所へと飛んできた、ショウエイ・キスギ。


 二人が、魔鳳軍本部の東口に隠された、地下へと続く階段に着いていた。


 「……ロジェ。この先に、あいつがいるのか……?」


 「……うん。こんなところに入り口があったなんて知らなかったし、身を隠すにはうってつけの場所だ。きっと、ジャーザンスはここにいる」


 「……そうか……」


 ――――やっと、辿り着いた。


 あの日からずっと、後悔し続けていた。


 何で俺だったんだろうって。

 何であの子だったんだろうって。


 俺がこの世界に来なければと、考えなかった日はない。


 ミネカがいなくなってからも、ミネカが出来なくってしまった彼女の未来の分も含めて、仲間と共に戦い続けた。


 それが、せめてもの罪滅ぼし。

 生きている意味。


 でも、俺が来た『意味はあった』と、皆がそう思わせてくれた。


 共に戦った仲間たちが。

 そして、拳を交えて、隣に並んでくれている彼の姿が。


 これで、ミネカさえ戻ってくれれば、彼女さえ無事に生きてくれれば、全てが報われる。


 ――――最後の戦いだ。


 「行こう……!! ロジェ……!!」


 「ああ……!!」


 覚悟を決めた翔英とロジェ。

 決戦の地へと続く階段を下り始めた。


 「……!! 待って、ショウエイ……!!!」


 「!! どうした!?」


 「そういえば、途中にトラップがあると言っていた……!! 多分、あれがそうだ……!!!」


 ロジェが指差す方向。

 天井に蜂の巣の様な穴が空いている。


 ロジェは落ちていた石ころを投げた。

 すると、穴から毒針のような物が降り注ぎ、瞬く間に石を溶かした。


 スリーラから情報を貰っていて良かった。

 何も知らずに行けば、ここで死んでいたところだった。


 「……ありがとう、ロジェ。こんなもんがあったとは……」


 「でも逆に言えば、間違いなく奴はこの先にいる。それに、ここを無事に通る方法だってあるはずだよ」


 「……おお、そうだな……!!」


 迷いの無い彼は、強い。

 ロジェが隣にいることは、想像以上に大きい。


 「……それで、どうする? ロジェ。この狭い道じゃあ、どこを通ってもさっきのを喰らっちまうけど」


 「…………そうだ。こいつを使おう」


 手に持った武器を見せるロジェ。

 先刻、翔英との戦いで使用していた、相手の力を吸い取る「クレイジーグロウサー」だ。


 「……それでどうやって……あっ……!! なるほど……!! 盾を頭にするんだな!!」


 「いや、それじゃあ全てを防ぐのは無理だ。歩いていたら確実に当たってしまう」


 「……じゃあ、どうやって……?」


 「新しく作ればいいんだよ。この場に適した物をね」


 力を込めていくロジェ。

 既に、翔英の力は物にしている。

 翔英がまだ作ることの出来ない、先の力までロジェには備わっている。


 ロジェは、剣を大きな傘に作り替えた。


 「……!! すげえ……!!!」


 「これなら大丈夫のはずだ。さあショウエイ、入ってくれ」


 「……ああ、ありがとう……!!」


 道ギリギリまで広がる大きな傘。

 毒を遮断し、トラップをすり抜ける。


 ――――ロジェの判断は極めて正しかった。


 ジャーザンスの隠れ家であるこの場所。

 もし見つけられたとしても、彼が自身の魔能で作った罠が行く手を阻む。


 だが、この場所を知っていたのはジャーザンス本人だけではない。

 時には、彼に招かれたり、契約を交わすために訪れる魔物もいた。


 その筆頭はレウラ軍だったが、彼らここに来る時には、毒液をカットする専用の傘を貸し出されている。

 ここを無事に通るためだ。


 「……!! ショウエイ、あそこ……これまでと違う。おそらく、あの先に……」


 「ああ……。そうらしいな……」


 進む二人の前に、通路と部屋を分けている、厳かな扉が見えてきた。

 奥からは、魔の気配を感じる。


 「準備はいいね……? ショウエイ」


 「…………うん」


 「……ショウエイ……」


 決めたはずの覚悟。

 扉の前に立つ足は震えている。


 そうだ。怖いんだ。


 今、二人がどうなっているのか分からないから。


 あれから、しばらく時間が空いてしまっている。

 敵は、全く理解できない狂気の中の男だ。


 ここまで来て、あの子の顔が見られなかったら。

 既に、終わってしまっていたら。


 ……いや、ダメだ。よそう。


 今は、前だけを見なくては。

 ただ、希望だけを見据えなくては。


 「いや、大丈夫だ……!! ロジェ……!! 扉を開けてくれ……!!!」


 力強い目を取り戻した翔英は、ロジェに勝負の声を掛けた。

 それを見たロジェは安心した顔を覗かせ、少し笑顔を見せながら扉を開いた。


 「……ここが……」


 扉の中に足を踏み入れる二人。


 まず目に映るのは、散らかりまくっている道具か何か。

 あちこちに容器や液体が乱雑に散らばっている。


 さらに漂う刺激臭。

 扉を開いた瞬間に、顔を背けてしまうような匂いが飛んでくる。


 一番目立っているのは、部屋の中心にでかでかと置いてある何かの装置。

 その中には、緑色の液体が溢れている。


 「……ここにジャーザンスが……。確かに、あいつっぽい部屋だけど……」


 「……いないのかな。ここには……」


 「……そうか。でも、ここで待っていれば……あいつはきっと……」


 入り口からは誰の姿も見えない。

 しょうがないので、翔英とロジェは部屋の捜索に入る。


 ここは間違いなく、ジャーザンスへの最大の手掛かりだ。


 「……ねえ、ショウエイ。この装置、何だろう?」


 ロジェは中心にある装置に興味を示した。

 それを見た翔英は、


 「……多分だけど、治療する機械だと思う。こんな感じのを見たことがある」


 と、予想する。


 翔英の言葉を聞いたロジェは、


 「やっぱり? 僕もそう思うよ。多分ジャーザンスは、こいつで身体を癒している。――――だから、これはどうにかした方がいいと思うんだけど」


 と、提案した。


 さらに、ロジェは装置に付いているボタンを指差し、


 「このボタン。機能を停止するものみたいだよ。押していいと思う?」


 と、翔英に尋ねる。


 翔英は、無言で頷いた。


 「よし、じゃあ押しておくよ」


 ただ、ジャーザンスの回復手段を潰そうと思っただけだった。

 これを潰しておけば、戦況が有利になると思っただけだった。


 ロジェがボタンを押したことで、装置の中の液体が抜けていく。


 そこには、


 「誰だよ!!!? ここに入ってきやがったのは?」


 標的が、隠れていた。

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