第三百二十三話 『ご対面』
ケバローとザラボラス。
頂上に君臨する二人が最後の衝突をする、少し前。
少女から伝言を受けていた魔物、ロジェ。
そして、ミネカ・ベルギアを救出するためにこの場所へと飛んできた、ショウエイ・キスギ。
二人が、魔鳳軍本部の東口に隠された、地下へと続く階段に着いていた。
「……ロジェ。この先に、あいつがいるのか……?」
「……うん。こんなところに入り口があったなんて知らなかったし、身を隠すにはうってつけの場所だ。きっと、ジャーザンスはここにいる」
「……そうか……」
――――やっと、辿り着いた。
あの日からずっと、後悔し続けていた。
何で俺だったんだろうって。
何であの子だったんだろうって。
俺がこの世界に来なければと、考えなかった日はない。
ミネカがいなくなってからも、ミネカが出来なくってしまった彼女の未来の分も含めて、仲間と共に戦い続けた。
それが、せめてもの罪滅ぼし。
生きている意味。
でも、俺が来た『意味はあった』と、皆がそう思わせてくれた。
共に戦った仲間たちが。
そして、拳を交えて、隣に並んでくれている彼の姿が。
これで、ミネカさえ戻ってくれれば、彼女さえ無事に生きてくれれば、全てが報われる。
――――最後の戦いだ。
「行こう……!! ロジェ……!!」
「ああ……!!」
覚悟を決めた翔英とロジェ。
決戦の地へと続く階段を下り始めた。
「……!! 待って、ショウエイ……!!!」
「!! どうした!?」
「そういえば、途中にトラップがあると言っていた……!! 多分、あれがそうだ……!!!」
ロジェが指差す方向。
天井に蜂の巣の様な穴が空いている。
ロジェは落ちていた石ころを投げた。
すると、穴から毒針のような物が降り注ぎ、瞬く間に石を溶かした。
スリーラから情報を貰っていて良かった。
何も知らずに行けば、ここで死んでいたところだった。
「……ありがとう、ロジェ。こんなもんがあったとは……」
「でも逆に言えば、間違いなく奴はこの先にいる。それに、ここを無事に通る方法だってあるはずだよ」
「……おお、そうだな……!!」
迷いの無い彼は、強い。
ロジェが隣にいることは、想像以上に大きい。
「……それで、どうする? ロジェ。この狭い道じゃあ、どこを通ってもさっきのを喰らっちまうけど」
「…………そうだ。こいつを使おう」
手に持った武器を見せるロジェ。
先刻、翔英との戦いで使用していた、相手の力を吸い取る「クレイジーグロウサー」だ。
「……それでどうやって……あっ……!! なるほど……!! 盾を頭にするんだな!!」
「いや、それじゃあ全てを防ぐのは無理だ。歩いていたら確実に当たってしまう」
「……じゃあ、どうやって……?」
「新しく作ればいいんだよ。この場に適した物をね」
力を込めていくロジェ。
既に、翔英の力は物にしている。
翔英がまだ作ることの出来ない、先の力までロジェには備わっている。
ロジェは、剣を大きな傘に作り替えた。
「……!! すげえ……!!!」
「これなら大丈夫のはずだ。さあショウエイ、入ってくれ」
「……ああ、ありがとう……!!」
道ギリギリまで広がる大きな傘。
毒を遮断し、トラップをすり抜ける。
――――ロジェの判断は極めて正しかった。
ジャーザンスの隠れ家であるこの場所。
もし見つけられたとしても、彼が自身の魔能で作った罠が行く手を阻む。
だが、この場所を知っていたのはジャーザンス本人だけではない。
時には、彼に招かれたり、契約を交わすために訪れる魔物もいた。
その筆頭はレウラ軍だったが、彼らここに来る時には、毒液をカットする専用の傘を貸し出されている。
ここを無事に通るためだ。
「……!! ショウエイ、あそこ……これまでと違う。おそらく、あの先に……」
「ああ……。そうらしいな……」
進む二人の前に、通路と部屋を分けている、厳かな扉が見えてきた。
奥からは、魔の気配を感じる。
「準備はいいね……? ショウエイ」
「…………うん」
「……ショウエイ……」
決めたはずの覚悟。
扉の前に立つ足は震えている。
そうだ。怖いんだ。
今、二人がどうなっているのか分からないから。
あれから、しばらく時間が空いてしまっている。
敵は、全く理解できない狂気の中の男だ。
ここまで来て、あの子の顔が見られなかったら。
既に、終わってしまっていたら。
……いや、ダメだ。よそう。
今は、前だけを見なくては。
ただ、希望だけを見据えなくては。
「いや、大丈夫だ……!! ロジェ……!! 扉を開けてくれ……!!!」
力強い目を取り戻した翔英は、ロジェに勝負の声を掛けた。
それを見たロジェは安心した顔を覗かせ、少し笑顔を見せながら扉を開いた。
「……ここが……」
扉の中に足を踏み入れる二人。
まず目に映るのは、散らかりまくっている道具か何か。
あちこちに容器や液体が乱雑に散らばっている。
さらに漂う刺激臭。
扉を開いた瞬間に、顔を背けてしまうような匂いが飛んでくる。
一番目立っているのは、部屋の中心にでかでかと置いてある何かの装置。
その中には、緑色の液体が溢れている。
「……ここにジャーザンスが……。確かに、あいつっぽい部屋だけど……」
「……いないのかな。ここには……」
「……そうか。でも、ここで待っていれば……あいつはきっと……」
入り口からは誰の姿も見えない。
しょうがないので、翔英とロジェは部屋の捜索に入る。
ここは間違いなく、ジャーザンスへの最大の手掛かりだ。
「……ねえ、ショウエイ。この装置、何だろう?」
ロジェは中心にある装置に興味を示した。
それを見た翔英は、
「……多分だけど、治療する機械だと思う。こんな感じのを見たことがある」
と、予想する。
翔英の言葉を聞いたロジェは、
「やっぱり? 僕もそう思うよ。多分ジャーザンスは、こいつで身体を癒している。――――だから、これはどうにかした方がいいと思うんだけど」
と、提案した。
さらに、ロジェは装置に付いているボタンを指差し、
「このボタン。機能を停止するものみたいだよ。押していいと思う?」
と、翔英に尋ねる。
翔英は、無言で頷いた。
「よし、じゃあ押しておくよ」
ただ、ジャーザンスの回復手段を潰そうと思っただけだった。
これを潰しておけば、戦況が有利になると思っただけだった。
ロジェがボタンを押したことで、装置の中の液体が抜けていく。
そこには、
「誰だよ!!!? ここに入ってきやがったのは?」
標的が、隠れていた。




