第三百二十二話 『頂上決戦』
「……これが、たった一人の人間の力か……」
上空から見下ろすザラボラス。
自身の攻撃をこうも受け止められるとは。
魔王に打ち勝つ程の近接戦闘スキルに加えて、十分な遠距離攻撃を備えている。
ケバローを、最強の人類と認めざるを得ない。
「軽く放ってこの威力か……。確かに、魔物の頂点だと言うだけある……」
対するケバローもまた、ザラボラスの類い稀なる強さを実感していた。
ザラボラスとリュノンの目には、彼が軽く掻き消した様に見えていたが、防御に全てを捧げてやっと受け止めることが出来ていた。
何発も喰らってしまえば、腕が使えなくなる程のダメージは受けている。
「寧ろ離れていた方が不利だな」
だが、ザラボラスは接近戦の方が良いと考える。
一気に翼を解放し、地上へと急降下していく。
「!! 向こうから来るかっ……!!」
「ふんぬっ……!!」
再度、地上でぶつかるケバローとザラボラス。
その衝突の余波は大地を枯れさせ、たった一人のギャラリーリュノンを吹き飛ばす。
「お前を倒せば、俺に敵はいなくなる。俺にとっての魔王はお前だ……!! ケバロー……!!!」
「……それは光栄だね。だが、勝たせて貰うよ。僕には、子供達の成長を見届ける義務がある……!!!」
自身のために、魔王としての誇りを胸に戦うザラボラス。
家族のために、人間として想いを背負いながら戦うケバロー。
両者共に、戦うのに十分な理由。
勝つために十分な志。
「僕は負けられない。容赦はしない……!!」
ケバローが動く。
一旦ザラボラスから距離を取り、拳を構えた。
「(……この距離。またあれをやるつもりか……? 丁度いい。何を飛ばしているのか見極めるか……)
地上に降りて距離が縮まった。
飛び道具の正体を把握しようとするザラボラス。
しかし、ケバローが取った行動は、『汗弾』ではない。
「……!!? これは……!!」
その場で拳を振るうケバロー。
彼が放った拳は空間を通り越し、ザラボラスの顔面に飛び出して来る。
次元の穴を通り抜けている様だ。
その一撃は普通に殴るのと変わらない。
魔王にすら影響を与える拳が、空間越しに叩き込まれていく。
「……ぐっ……!! ……お前には、常識なんて関係なしか……!!」
『次元打』と呼ばれる、ケバローの必殺の一つ。
次元すらも武器にする彼の力が、魔王に猛威を振るう。
「はあっっ……!!!」
安全な距離を取りながら近接戦闘を展開するケバロー。
ザラボラスを全く寄せ付けず、一方的に連打を加えていく。
「……凄すぎる……。凄すぎるぜ……ケバローさん。昔からやべえとは思ったけど……ここまでなんて……」
遠くから決戦を観戦するリュノン。
余りにも化物染みている親代わりに、最早恐怖すら覚える。
自分では戦いにすらならなかったこともあり尚更だ。
歴史上最強の魔物とされ、封印という形でしか決着をつけられなかった魔王を、こうも一方的に殴り続けることの出来る生物が、果たして彼以外にいるのだろうか。
「どっちが魔王だかわかんねえや……。でも、ケバローさんなら……やれる……!!!」
長かった魔物との戦い。
その決着を見届けられるかもしれない。
……というリュノンの希望がすんなり通るほど、魔王は甘くない。
「……んっ……!?」
ケバローの次元を跨いだ打撃を、ザラボラスは翼で包むように受け止めた。
羽の一部分を器用に扱い、太く大きいケバローのパンチを無効化している。
「人間にできることが、俺にできないはずがない……。俺は魔王だからな……!!」
「……!!?」
次元は突き破れる物だと認識したこと。
誰かにできることは自分にもできると思うこと。
魔王として常に最上位に君臨しなけらばならないこだわりが、彼の更に上に自身を運んでいく。
ザラボラスは、次元打をお返しした。
「……なるほど……。面白い感覚だ……。強大すぎる力は、空間にも及ぶのだな」
人間最強であるケバローの拳だからこそ実現していた芸当。
彼と同等以上の力を誇るザラボラスにも、不可能ではなかった。
「これが……魔王か……」
勝つための戦法として遠距離近接攻撃を取り続けていたが、魔王としての意地で乗り越えられてしまった。
とはいえ、追い詰められている訳ではない。
戦闘スキルが対等になっただけだ。
「そう楽には勝たせて貰えないよね。――――じゃあ……!!」
「……!!?」
急接近するケバロー。
ザラボラスの肉体に直接打撃を喰らわす。
「真正面から……決着をつけさせてもらおう……!!!」
奴は接近戦を望んでいる。
どうせ近づいてくる。
ならば此方も、正面から殴り合いに投じる。
小細工抜きの肉弾戦。
元より、ケバローは拳で打ち合う方が得意分野だ。
ザラボラスも同様。
直接相手を叩けるに越したことはない。
「いいだろう……!! これで最後だ……!!! 最強の人間を超え、俺は正真正銘、最強の生物となる……!!」
衝突。
最早、気力の戦いだ。
総合力ではザラボラスに分がある。
ただ、戦闘スキルではケバローの方に傾いている。
それに加えて、リュノンとルージェが与え続けた傷。
ザラボラスに少なくない影響を与え、一瞬の鈍りを生み出していく。
その隙を的確についていくケバローの攻撃。
だがそれでも、ザラボラスは倒れない、
二人の力はほぼ五分と五分だった。
更に、互いに怪物クラスの体力と防御力もあり、二人の殴り合いは長期戦となっていく。
両者の意地と意地がぶつかる最強同士の戦い。
リュノンは手を出すことすらできず、固唾を飲んで見守るしかない。
――――天秤はその後も拮抗し続け、両者、満身創痍となった。
「…………なぜ倒れない……ケバロー……。お前の力は……もう……」
「……君の方こそね……。……まあ、お互い攻撃に重みが無くなっているからだけど……」
「……ふっふっふっ。じゃあ、次の一発で終わりにするのはどうかな……? 多分だけど、このまま俺たち二人が戦い続ければ、決着がつく前に二人とも死んでしまう。さすがに勝者がいないというのはつまらんだろ」
「……どうするんだい……?」
「全力の一発を同時に放つ。先に立った方が勝者だ。敗者はその場で負けを認め、立つことを止める」
「……分かった。僕も死ねないからね。互いに死ぬよりも、そっちの方が助かる」
勝って死ぬという選択肢は互いにない。
両者強すぎるが故に、戦闘終了後には間違いなく命を落とす。
生きるための利害が一致した二人の、最後の衝突が行われた。




