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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第十章
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第三百二十二話 『頂上決戦』

 「……これが、たった一人の人間の力か……」


 上空から見下ろすザラボラス。

 自身の攻撃をこうも受け止められるとは。


 魔王に打ち勝つ程の近接戦闘スキルに加えて、十分な遠距離攻撃を備えている。

 ケバローを、最強の人類と認めざるを得ない。


 「軽く放ってこの威力か……。確かに、魔物の頂点だと言うだけある……」


 対するケバローもまた、ザラボラスの類い稀なる強さを実感していた。

 

 ザラボラスとリュノンの目には、彼が軽く掻き消した様に見えていたが、防御に全てを捧げてやっと受け止めることが出来ていた。

 何発も喰らってしまえば、腕が使えなくなる程のダメージは受けている。


 「寧ろ離れていた方が不利だな」


 だが、ザラボラスは接近戦の方が良いと考える。

 一気に翼を解放し、地上へと急降下していく。


 「!! 向こうから来るかっ……!!」


 「ふんぬっ……!!」


 再度、地上でぶつかるケバローとザラボラス。

 その衝突の余波は大地を枯れさせ、たった一人のギャラリーリュノンを吹き飛ばす。


 「お前を倒せば、俺に敵はいなくなる。俺にとっての魔王はお前だ……!! ケバロー……!!!」


 「……それは光栄だね。だが、勝たせて貰うよ。僕には、子供達の成長を見届ける義務がある……!!!」


 自身のために、魔王としての誇りを胸に戦うザラボラス。

 家族のために、人間として想いを背負いながら戦うケバロー。


 両者共に、戦うのに十分な理由。

 勝つために十分な志。


 「僕は負けられない。容赦はしない……!!」


 ケバローが動く。

 一旦ザラボラスから距離を取り、拳を構えた。


 「(……この距離。またあれをやるつもりか……? 丁度いい。何を飛ばしているのか見極めるか……)

 

 地上に降りて距離が縮まった。

 飛び道具の正体を把握しようとするザラボラス。


 しかし、ケバローが取った行動は、『汗弾』ではない。


 「……!!? これは……!!」


 その場で拳を振るうケバロー。

 彼が放った拳は空間を通り越し、ザラボラスの顔面に飛び出して来る。

 次元の穴を通り抜けている様だ。


 その一撃は普通に殴るのと変わらない。

 魔王にすら影響を与える拳が、空間越しに叩き込まれていく。


 「……ぐっ……!! ……お前には、常識なんて関係なしか……!!」


 『次元打』と呼ばれる、ケバローの必殺の一つ。

 次元すらも武器にする彼の力が、魔王に猛威を振るう。


 「はあっっ……!!!」


 安全な距離を取りながら近接戦闘を展開するケバロー。

 ザラボラスを全く寄せ付けず、一方的に連打を加えていく。


 「……凄すぎる……。凄すぎるぜ……ケバローさん。昔からやべえとは思ったけど……ここまでなんて……」

 

 遠くから決戦を観戦するリュノン。

 余りにも化物染みている親代わりに、最早恐怖すら覚える。

 自分では戦いにすらならなかったこともあり尚更だ。

 

 歴史上最強の魔物とされ、封印という形でしか決着をつけられなかった魔王を、こうも一方的に殴り続けることの出来る生物が、果たして彼以外にいるのだろうか。


 「どっちが魔王だかわかんねえや……。でも、ケバローさんなら……やれる……!!!」


 長かった魔物との戦い。

 その決着を見届けられるかもしれない。


 ……というリュノンの希望がすんなり通るほど、魔王は甘くない。


 「……んっ……!?」


 ケバローの次元を跨いだ打撃を、ザラボラスは翼で包むように受け止めた。

 羽の一部分を器用に扱い、太く大きいケバローのパンチを無効化している。


 「人間にできることが、俺にできないはずがない……。俺は魔王だからな……!!」


 「……!!?」


 次元は突き破れる物だと認識したこと。

 誰かにできることは自分にもできると思うこと。


 魔王として常に最上位に君臨しなけらばならないこだわりが、彼の更に上に自身を運んでいく。

 ザラボラスは、次元打をお返しした。


 「……なるほど……。面白い感覚だ……。強大すぎる力は、空間にも及ぶのだな」


 人間最強であるケバローの拳だからこそ実現していた芸当。

 彼と同等以上の力を誇るザラボラスにも、不可能ではなかった。


 「これが……魔王か……」


 勝つための戦法として遠距離近接攻撃を取り続けていたが、魔王としての意地で乗り越えられてしまった。

 とはいえ、追い詰められている訳ではない。

 戦闘スキルが対等になっただけだ。


 「そう楽には勝たせて貰えないよね。――――じゃあ……!!」


 「……!!?」


 急接近するケバロー。

 ザラボラスの肉体に直接打撃を喰らわす。


 「真正面から……決着をつけさせてもらおう……!!!」


 奴は接近戦を望んでいる。

 どうせ近づいてくる。

 ならば此方も、正面から殴り合いに投じる。


 小細工抜きの肉弾戦。


 元より、ケバローは拳で打ち合う方が得意分野だ。


 ザラボラスも同様。

 直接相手を叩けるに越したことはない。


 「いいだろう……!! これで最後だ……!!! 最強の人間を超え、俺は正真正銘、最強の生物となる……!!」


 衝突。


 最早、気力の戦いだ。


 総合力ではザラボラスに分がある。

 ただ、戦闘スキルではケバローの方に傾いている。

 

 それに加えて、リュノンとルージェが与え続けた傷。

 ザラボラスに少なくない影響を与え、一瞬の鈍りを生み出していく。


 その隙を的確についていくケバローの攻撃。

 だがそれでも、ザラボラスは倒れない、


 二人の力はほぼ五分と五分だった。


 更に、互いに怪物クラスの体力と防御力もあり、二人の殴り合いは長期戦となっていく。

 両者の意地と意地がぶつかる最強同士の戦い。


 リュノンは手を出すことすらできず、固唾を飲んで見守るしかない。


 ――――天秤はその後も拮抗し続け、両者、満身創痍となった。


 「…………なぜ倒れない……ケバロー……。お前の力は……もう……」


 「……君の方こそね……。……まあ、お互い攻撃に重みが無くなっているからだけど……」


 「……ふっふっふっ。じゃあ、次の一発で終わりにするのはどうかな……? 多分だけど、このまま俺たち二人が戦い続ければ、決着がつく前に二人とも死んでしまう。さすがに勝者がいないというのはつまらんだろ」


 「……どうするんだい……?」


 「全力の一発を同時に放つ。先に立った方が勝者だ。敗者はその場で負けを認め、立つことを止める」


 「……分かった。僕も死ねないからね。互いに死ぬよりも、そっちの方が助かる」


 勝って死ぬという選択肢は互いにない。

 両者強すぎるが故に、戦闘終了後には間違いなく命を落とす。 


 生きるための利害が一致した二人の、最後の衝突が行われた。

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