第三百二十一話 『最強出陣』
「――――な……なんだと……」
人間の町から遥か遠く離れた戦場。
そこに突如現れたのは、ケバロー・ホサルトン。
ケバローはザラボラスの物理攻撃を真正面から受け止めると、自力で押し返した。
「……ケバロー……さん……。ケバローさん……!! なんでここに……!!?」
新たな援軍など、もう来るはずがない。
助けが来るなら、ヒナノ達しか居ないと思っていたところに、頼もしい助っ人の登場。
ルージェと別れた後、自身を引き取った育ての親でもある彼。
付き合いは長く、信頼も深い。
これ以上ないほどの味方の登場だが、どうして、彼がここに。
その答えは、
「……いや、それが分からないんだ」
ケバロー本人も知らない。
「……え? 分からないって……なんで……!?」
「それが、気がついたら、この辺りにいきなり飛ばされていてね。彼の途方もない邪気を感じ取ったから、ここに来たんだ。間に合って良かったよ。リュノン」
「……そう……だったのか……」
とても信じられない。
だが、ケバローは嘘をついたりするような男ではないこともよく知っている。
本当にそうなのだろう。
「それにしてもリュノン、彼は何者だい? 巨大な……神鳥のような……」
「魔王だよ。魔王、ザラボラス」
「……!! 魔王……ザラボラス……。彼があの……」
当然、その名前は知っている。
もうこの世にはいないということも。
だが、ザラボラスのその姿は、彼が魔の長であるという十分すぎる程の証明だった。
こんな姿だったというのは文献にも記されていないし、先人からも聞いたことも無かったが、それが事実だと認めざるを得ない。
「……俺も、お前が何者か物凄く興味があるよ」
ザラボラスが起き上がった。
突然出現した大男への関心を寄せる。
見た目は珍妙だが、自身の攻撃を跳ね返す程の圧倒的なパワー。
それだけで、只の人間とは一線を画す存在であると理解できる。
「いや、話すことなど無い、只の人間だよ」
「謙遜のつもりかな? 俺の攻撃を受け止めた後に言われると、煽りにしか聞こえないけど」
「それは失礼したね。じゃあ一応、元聖鳳軍一軍だと言っておこうかな」
「……なるほど。やはり聖鳳軍か。しかし元一軍とは……。そうは見えないな」
言葉を交わすことで、互いの力量を察知する両者。
ザラボラスは、聖鳳軍一軍という言葉では収まらないケバローの底知れぬ強さを。
ケバローは、この世の生物と会話をしているとは思えない、神秘的な魔の力を感じ取る。
「……リュノン。本当に、一人でよく戦ったよ。正直言って驚いている。あれから……成長したんだな……」
会話をしたことで、リュノンが彼と戦い、こうしてまだ生きていることへの驚きが強まる。
妹を失って無力に打ちひしがれていた子供の頃のリュノンを知っていることも大きい。
少し見ない間にずっと強くなっていた。
「……いや、一人じゃなかったよ。俺には、ルージェがいたから……」
「……ルージェ……。……ああ、そうだったね……」
長年追い続けていたグランデとの決着をつけたことも知っている。
その試練が、更なる力を彼に与えたのだろう。
「……でもリュノン。後は、任せてくれ。今度は僕が、彼と戦うから」
「ああ……。ありがとう……ケバローさん……」
選手交代。
ケバローならば、安心して任せることができる。
ケバローがザラボラスに立ちはだかる中、リュノンは二人からの距離を取った。
だが、撤退はしない。
邪魔にならない場所で、この戦いを見届ける所存だ。
「――――さて、お待たせしたね。聞いての通り、彼に代わって僕が君の相手をさせてもらう」
「願ってもない。俺もお前をもう少し知りたいからね」
向かい合う、両者。
現代最強の人間と、歴代最強の魔物。
まさに天を分ける戦いが、ひっそりと始まった。
「ふんっ……!!」
ケバローが仕掛ける。
その巨大な図体とは裏腹に。ザラボラスが目を見張る程のスピード。
飛んでいる魔王の頭に、ジャンプしながら拳を合わせて来る。
「……!! 速い……!!」
ケバローの拳骨が拳にヒットした。
速いだけではなく、信じられないくらい重い。
これが人のパンチだなんて。
ザラボラスは地面に落とされた。
「まだだよっ!!」
地に足を着けたザラボラスに、猛攻を仕掛けるケバロー。
今度は飛び蹴りをお見舞いした。
「ぐっ……!!」
無視できない痛み。
本当に強い。
思わず回避を強いられる。
一旦、空に逃げた。
リュノンとルージェにやられた、身体中の虫食いが足を引っ張っている。
さっきまで一方的な近接戦闘しか行っていなかったため、肉弾戦をやるには身体が今の状態に慣れていない。
いや、そんな言い訳は無粋か。
おそらく、全快だったとしても、彼は存分に打ち合えていただろう。
ジャンプで追い付かれたとしても、致命的な隙が生まれるような高所で備えるザラボラス。
パワー、スピード、どれを取っても一級品なケバローの攻撃は、魔王と言えど闇雲に受けていい物ではない。
「…………人間の頂点だな。……だがあくまで、『人間の』だ」
これまで戦った五人も、信じられないほどの力を見せてきた。
もしも、種族が逆だったとしたら、敗北していたのは自身の方だっただろう。
だが、ここまで退け続けている。
それは、自分が魔王だからだ。
今だってそう。
魔王である自分が、負けるはずがない。
人間の頂点と魔物の頂点ならば、間違いなく後者の方が上だ。
――――と、いうのは、
「ぐっ……!!?」
魔王の驕りかもしれない。
「何だ……!? あいつ何を……。……!!」
空で構えるザラボラスに、銃弾のような物が撃ち込まれている。
地上ではケバローが、確かに何かを発射している。
だが、実弾は見えない。
見えない飛び道具が、魔王に牙を剥いている。
「何を撃っているんだ……。……!! まただ……!!」
その威力。
天と地の距離でも有効な位に大きい。
「こんな飛び道具も待っていたのか……。ならば此方も……!!」
距離を取った所で、意味がないことを理解したザラボラス。
急降下しながら、口からの一撃をケバローに発射した。
「……!! はあっ……!!!」
「何だと……?」
ケバローは回避を取らず、真正面から受け止めに入った。
そして、
「ぬおおあっ……!!」
「!!?」
抱き締めるようにかき消した。
その信じがたい強さに、ザラボラスも戦慄する。
当然、最強の座を譲る気はないが。




