第三百十九話 『どこまでも一緒』
背中を削ったのは、別のリュノンが放ったルージェの力。
それを見たザラボラスは二つの事に驚いている。
一つ目は、リュノンが増えていること。
二つ目は、その増えたリュノンからも、例の力が飛んできたこと。
「(――――俺を破壊する程の力に加えて、分身だと……? しかもそいつまで俺を削る力を持っている……。……こいつが二軍……? なんて悪い冗談だ。四十年前にも、ここまでの人間はいなかった……)」
この力を介する人間が二人に増えるなんて。
二人からの射程距離を意識しなければならない。
――――いや、二人どころではない。
リュノンとルージェの力が覚醒していく。
「ルージェ……。助かったよ……」
「うん……!! みんなお兄ちゃんだからね……!! お兄ちゃんがいる所なら、私はどこにだって行ける……!!!」
リュノンの分身とルージェの魔能。
兄妹それぞれの特異な能力が合わさった。
リュノンが生み出す分身からでも、ルージェの力を顕現させることができる。
壊れてしまった絆を取り戻した兄妹に与えられた、全てを無にする力だ。
――――だが、
「うっ……!!」
本体が受けたダメージをも共有している。
作り出されたリュノンは、先程の一撃を引きずり膝を着いた。
「お兄ちゃん!!」
「……ごめんルージェ……。あいつの一発、思ったよりもずっと効いてる……」
「……じゃあ……!! 私がお兄ちゃんには近づかせない……!!! 頑張ってお兄ちゃん……!!! あいつの身体はちょっとずつ無くなってってる……!! もう少しで勝てるよ……!!!」
「……そうだな……。俺たちがやらなきゃな……。みんなの分まで。それに、まだまだお前と一緒に戦いたいし」
互いに支え合うアーリー兄妹。
心を強く奮い立たせ、何とか立ち上がる。
鳳凰となったザラボラスの攻撃は、その体躯に比例するように、人間形態の何倍にも大きくなっている。
もしリュノンが一人だったのなら、決着はついていただろう。
しかし、今のリュノンは、一人じゃない。
「……俺の攻撃を受けて尚も立つか。力だけでなく心も強い。……むしろ、お前は俺のこの姿で戦うべき男だったな。……だが容赦はせん。確実に、ここで葬ってやる」
危険視するからこそ、脅威の対象として認めるからこそ、攻撃の手を緩めないザラボラス。
作り出された方、分身のリュノンに向かって体当たりを仕掛けていく。
「やらせない……!!」
「……なるほど」
だがすぐに分身を消去。
……いや、別の所に出現させた。
ルージェの射程圏内だ。
『はあっ……!!!』
シンクロする二人の決死の掛け声。
当然重ねるのは言葉だけでなく、攻撃動作も繋げていく。
「……!! 何度受けてもふざけた攻撃だね……!!」
本体に狙いを定め、突進していくザラボラス。
狙われた本体リュノンは、背を向けて逃亡していく。
まあしょうがない。
攻撃力、ダンチだから。
勿論リュノンはただ逃げているわけではない。
リスクを冒さずに敵を殺す、考えられた作戦の内だ。
だがザラボラスの突進の方がリュノンの逃亡よりもずっと早い。
瞬く間に追いつかれて――――しまわないように、
「……ぐっ……!!」
散らばっている分身たちが、ルージェの力を振るっている。
本体は敵からの距離を取り、いつでも消去可能な分身たちが殺意丸出しで襲い掛かっていく。
どちらが魔王か分からない、勝つために徹底された攻撃と作戦だ。
飛び道具を発射しても、ルージェがかき消してくる。
分身に向かうとそいつは消去され、瞬間移動した分身がルージェを使ってくる。
本体に向かって行けば、複数の方向からルージェがブロックしにやってくる。
「……もう笑えて来るな」
戦いに面白味は求めない。
リュノンにしかできない、ただただ勝つための、魔王を殺すための戦い方。
その徹底っぷりに、ザラボラスも思わず笑ってしまう。
「……あいつ、ちょっと笑ってるよ、お兄ちゃん」
「……ああ、まだ何か奥の手があるのかもしれない。……というかあいつ、あんなに削ってるのに、まだまだ動けるって感じだな。やっぱ魔王ってとこか」
「……大きすぎるんだよあいつ。大きすぎるから、身体の一部が削れても大したダメージになってない。……嫌な奴だね」
「……でも、お前の言う通り、確実にあいつの身体は無くなって行ってる。さすがに全部なくなれば、魔王っつったって死ぬよ。このまま行こう、ルージェ」
「うん……!! お兄ちゃん……!!」
この戦い方を貫いていくことで勝機を見据えるアーリー兄妹。
だが、相手は神の力を得し魔王。
そのままで、終わらせてなど貰えない。
「……え……!! なんだ……あいつ……!!」
「……何かしてくるみたい……!!」
ザラボラスは、大きな羽を仕舞いながら地面に留まった。
休眠を取っているかのようなその姿。
ビジュアルの美麗さも相まって、世界の敵でなければ写真に納めたい位だ。
「どうする……!? お兄ちゃん……!!」
「…………やろう……!! ルージェ……!! チャンスと捉えるべきだ……!!!」
「オッケー!!!」
何を仕掛けて来るか分からないこの状況。
攻めることこそ勝機に繋がると考えるリュノンは、ルージェを繰り出すことを決める。
だが、ザラボラスへの保険を掛けて置くのを忘れない。
仕掛けていくのは、分身体だ。
「はあっ……!!」
ルージェを纏った分身の攻撃。
ザラボラスの翼の一部が消し飛ぶ。
「まだまだ行くぞ!! ルージェ!!」
「もちろん!!!」
攻撃を止めない二人。
何かしてくる前に、決めるつもりだ。
だが、
「……!! お兄ちゃん……!! 何か来る……!!」
「なにっ……!!」
ザラボラスが、動いた。
閉じていた翼を一気に全開。
と、同時に、ありとあらゆる物を吹き飛ばすような衝撃と爆発が起こった。
「……!! まず……!!」
反射的に分身を消去するリュノン。
だが、その爆発の規模は、安全を確保していた本体にまで十二分に届いた。
この準備をしていたんだ。
大規模な爆発波を起こして、辺り一面を消し飛ばそうとしていたんだ。
こいつは魔王だ。
一発で戦況を変える手札を持っている事くらい、予想は出来た。
でも、防ぎ様なんてなかった。
「うわあああ!!!」
眩い光を出しながらの激しい爆発。
全てのリュノンは、魔王の自爆に巻き込まれた。




