第三百十八話 『二人は目覚めて』
…………何が……?
……いや、何が起きたのかは分かる。
先程、天からの咆哮をかき消した力と同じ物を発動したのだ。
しかしそれは、リュノンの拳が生んだ物。
仕組みは分からないが、確かに彼の行動が生み出した力だ。
だが今度は、リュノンは一歩も動いていない。
真剣な眼差しで、どこかを一閃に見ながら手を動かしただけだ。
それなのに、ザラボラスの片翼は、欠けた。
だがまだ、翼の一部が欠けただけ。
まだ、飛べはする。
しかし、相手の能力の謎が更に深まり、尚更近づくのが危険になってしまった。
今の一撃は、威力以上に大きな影響を与えている。
「す、すげえ……!! すげえよ……!! ルージェ……!!」
「うん……!! ありがとう、お兄ちゃん……!!」
アーリー兄妹。
二人は抱擁を交わす。
ミワルナの能力は、腕で描いた軌道にある物質を消し去るもの。
霊になっているため分からなかった、射程距離を知ることができた。
この距離ならば、鳳凰の身体を削ることができる。
「お兄ちゃん……!! 私がやるから、お兄ちゃんはそこにいて……!! 危ないから来ちゃだめだよ……!!」
「……分かった……!! 気を付けろよ……!!!」
外部に権限した魔の化身。
兄を傷つける敵を抹殺するべく、凶器の力を魔王に構える。
「……死になさいっ!!!」
「……うぐっ……!!」
今度はザラボラスの巨大な体躯、その一部分が塵となった。
見えない所からの見えない攻撃。
その威力は鉄壁の防御を無効化してくる無視できない物。
ザラボラスの警戒度が上がった。
このままリュノンの力の謎を解かなければ、地上に落とされてしまう。
逃亡はできない。これほどの力を持った人間は、魔王の自分が確実に始末しなくては。
「(……試すよ。もう一度)」
先程リュノンにかき消された口からの一撃。
魔力の塊であるエネルギーを再び放出した。
その爆弾は、少し離れているリュノンにも飛んで来る。
「危ない!!」
だがその前方で待機するルージェが動く。
すると彼女に引っ張られ、リュノンも拳を振るう。
一発目同様、ミワルナの力で鳳凰の咆哮を打ち消した。
「なっ……? 何だ今のは……?」
ザラボラスからすれば、何もない所で突如攻撃が消え去ったように見えた。
何十年生きてても体験し得ない、不可解な現象だ。
「よくも……!! 私とお兄ちゃんに……!!! このクソ鳥ィ!!!」
「……!! ごおおっ……!!」
また、身体の一部が欠損した。
彼が魔王でないならば、既に戦闘不能になっているほどのダメージだ。
「……何だ…………あそこに……あそこに何かいるのか……?」
「おッらあ……!!!」
「……ぐっ……!!」
更にもう一撃。
動揺してる間に、またしても身体のパーツがどっか行く。
「やはりあそこに…………。奴の動きと連動している見えない何かがいるんだ……」
時間が経つに連れ少女の影が濃くなっていく。
あの位置から力が解き放たれていると認識することで、暴れ回るルージェの姿が、一瞬目に映る。
最強の魔物としての防衛本能が漸く働いた。
「はっきりとは見えないが、亡霊のような者が、俺を殺そうと此方を見ている……。ここまでの不可解な攻撃はそれか……」
「……あっ……!!」
少し距離を取ったザラボラス。
ルージェの射程距離から脱出した。
「……ちィ……!!」
イラつく妹。
兄は敵を見上げている。
「そうだ……!!」
ザラボラスが下がった分、リュノンは動いた。
すると、ルージェもまた、その分移動できるようになる。
「……? ……ぐっ……!! また来たか……」
またまた空間破壊攻撃を受けるザラボラス。
巨大な鳳凰形態でなかったら、既に動けなくなっているだろう。
身体が無駄に大きいのが幸いしている。
しかし分かったことがある。
「(……あいつとの距離だな……。あいつと一定の距離を置けば、あのふざけた攻撃は飛んでこなくなる。……だがあそこにいるのは…………ん……? ……女だ……女が見える……。仕掛けて来るのは奴か……?)」
外部に顕現されているルージェ。
怒りと殺意を向け過ぎたのか、遂にザラボラスの目にもうっすらと見えるようになった。
「(奴の能力か……? ……いや、そんなことはどうでもいい。そうと分かれば……)」
原因を突き止めたザラボラス。
一度の羽ばたきで、一気にルージェの元へ。
「お前から殺すまでだよ」
「ルージェ……!!」
「大丈夫だよ!! お兄ちゃん!! 私実体ないんだもん!!」
「……!!?」
スカ。
ザラボラスの攻撃は、地面を割っただけだった。
「ふっ……!!」
動く兄妹。
同時に拳を振るう。
近づいたことで、先程までよりも狙いが明確になる。
二人の一撃は、魔王の顔面を捉えた。
命の危機を感じたザラボラスも、咄嗟に回避を取る。
結果は、顎の一部分が欠けた。
「……なるほどこっちは効かないか……。だがなっ……!!!」
しかし、ザラボラスのもう一つの狙いはリュノンに近づくこと。
得体の知れない力に距離を取ってしまったが、それは魔王に相応しくない愚の骨頂だった。
「喰らいなっ……!!」
猛スピードでリュノンに突撃するザラボラス。
魚雷のように、リュノンの胸に嘴を突き刺した。
「があっ……!!!」
会心の一撃。
ここまでの戦況をひっくり返す程の一発。
本来の姿を取り戻した彼の攻撃は、只の突きですら人間が耐えられる威力ではない。。
「お兄ちゃん……!!!」
動揺する妹も急いで兄の元へ戻る。
あくまでリュノンに宿っているだけなので、リュノンを介さなければ攻撃することが出来ない。
此方の動きを無理やりさせることもできるがそれどころではない。
「お前はあまりにも常識を超え過ぎている。申し訳ないけど、さっさと殺させて貰うよ」
今のリュノンの力は、魔王に余裕を全く与えない程に殺意に満ちている。
チンタラしてたらホントにヤバい。
ザラボラスは、一撃で終わらせに入った。
「お兄ちゃん……!! 起きてよ……!! お兄ちゃん……!!」
「……待て、ルージェ……。拳を振ってくれ……あいつと一緒に……」
「えっ……!!? ……ああ、うん……!! 分かった……!!」
「……!? なぜ……!!」
攻撃途中。
ザラボラスの背中は削られた。
リュノンは何もしていない。
痛みにうずくまっているだけだ。
「………んっ……? ……なんだと……」
横を見たザラボラス。
そこでは、険しい顔したリュノンが拳を振っていた。




