第三百十七話 『兄妹で進む』
「……リュノンくん……」
戦場に現れた男。
リュノン・アーリー。
一人だけ出所が違ったために遅れてしまった彼が、今、ようやく現れた。
「お前が……魔王か……。何か、聞いてたのと随分違うな」
神々しい闇の光を放つ鳳凰。
見る者に絶対の絶望を与えるその姿。
戦わずして頭を垂れるのに充分だ。
だが今のリュノンは、魔王を見上げた。
倒すべき対象として、魔王の飛ぶ姿を見た。
彼はもう、一人ではないから。
対する鳳凰は、現れた不届き者に罰を与えたようと動き出す。
「何者だ? ここにいるということは、聖鳳軍だろうがね」
「聖鳳軍二軍、リュノン・アーリーだ」
「……何だと? 二軍……? それは残念だ……」
リュノンの回答を受けたザラボラス。
がっかりした様子で天を見上げる。
そして、万物を破壊する如く、体内に宿る神秘のエネルギーを溜めていく。
「俺のこの姿を、偶々遅れて来ただけの二軍なんぞに見せることになるとはな。見なかった事にしてくれると助かる」
ザラボラスは、自らの人間態を撃破したルンベ達だからこそ、鳳凰としてのこの姿を見る資格があったと考える。
彼に、資格はない。
魔力を超高密度に圧縮された小さな球状に変えていくザラボラス。
怒りと失望を交えた殺意の塊を口から放出した。
「リュノンくん……!!」
「リュノンさん……!!」
鳳凰に狙われたリュノン。
避けることなく、防御をすることもなく、発射地点へと飛び出した。
「……!! 何……!!?」
「はっ……!!」
大怪獣ビームに対し、無謀にも拳を振る人間のリュノン。
どれだけ冷静さを欠いているとしても取れないような行動に戸惑う魔王と仲間たち。
だが、その戸惑いはすぐに別の物へと変わった。
リュノンが繰り出した拳が、鳳凰の一撃を相殺したから。
「……!? 何だと……?」
信じがたい光景を前に、鳳凰となった魔王も目に見える位に呆気に取られている。
記念すべき人型を捨ててからの一発目が、よく分からない人間に防がれたのだから当然だ。
「……リュノンくん……。何を……」
「皆!! 離れた所で休んでて!! こいつは俺たちがやるから!!!」
「……っ……!! ……分かった……!!」
重傷の三人。
互いを支えながら戦場を離脱。
方法は分からなかったが、今の一発を見て、それが正しいと理解する。
今、鳳凰と戦えるのはリュノンだけ。
自分達はただの足手まといだ。
「……何をしたのだ……? お前は……」
「俺じゃない。妹だ」
「……え、妹……? 何を言ってるのか分からないが……。まあとにかく、先の言葉は取り消すよ。お前は俺のこの姿を見る資格のある人間だ」
「そうか」
人を破壊するフェーズに入るザラボラス。
もう一つの意思を宿すリュノンは、彼女と共に魔凰に立ち向かう。
「(……さっきのあれ……。どういう仕組みなのかは分からんが、見たことも無い力だった……。また魔能みたいな力を持つ人間か……。……万が一という事もある、迂闊に攻めるべきではないね)」
鳳凰形態のザラボラスが及び腰になった経験は初めてだ。
それほど彼は、リュノンの力を危険視した。
正確にはルージェの、いや、ミワルナの力だが。
ザラボラスが魔能だと予想したのも当たり前だ。
「(……ルージェ。あいつについて知ってることを教えてくれ)」
「(……ごめんお兄ちゃん。私、こいつが復活するって、噂でしか聞いたことがなかったの。見るのも初めてだよ)」
「(そうか……。……でも、俺とお前の力があればきっと、魔王だって超えられる。行くぞルージェ……!!! 力を貸してくれ……!!!)」
「(うん……!!)」
心を合わせた兄妹。
上空に羽ばたく鳳凰に攻撃を仕掛けていく。
「来るかいっ……!! だがっ……!!」
迎え撃つザラボラスが取ったのは、突風。
闇の翼をはためかせ、標的を全く寄せ付けない。
「ううっ……!!」
リュノンは勢いよく地面に叩きつけられた。
腹をくくったように啖呵を切ったにもかかわらず、近づくことすら出来ない。
その姿だけでも、嫌という程味わっていた魔王の威厳を思い知らされる。
ああも空に舞っていられたら、戦いにすらならない。
なんてせこい。
これが魔物の長の戦い方なのか。
「くそっ……!!」
何とか起き上がるリュノン。
怒りと共に再度向かおうとするが、
「待ってお兄ちゃん……!!!」
内に住み着いている家族に呼び止められる。
心からだけでなく、外から身体をも掴まれているような状態だ。
「どうしたルージェ……!! 何か分かったか……!!?」
「いや!! 分かったのはあいつは許さないって事だけ!!!」
「え……!? ……う、うん、そうか……!!」
もはや外にルージェが顕現し始めている。
肩に手を置いている姿まで見える。
兄を傷つけられた強い怒りが、徐々に彼女を浮上させているようだ。
「……? 誰と喋っているんだ……あの男……」
ザラボラスにはまだルージェの姿は見えない。
一人で作戦を立てている変わった男にしか見えていない。
「でもお兄ちゃん……!! 少し試したいことはできたよ……!!!」
「何だ!?」
「私の手が、どこまで届くか。それを試したい……!!」
「……どこまでって…………。いや、分かった。やってみよう……!! 俺はどうすればいい?」
「お兄ちゃんが近づいたら、あいつは羽で吹っ飛ばしてくる。だからお兄ちゃんはここで待ってて。今試したいのは、『私が』どこまで行けるかだから」
「…………分かった。じゃあ、やってみよう」
いまいち妹の行動の理由は分からなかったが、今は彼女に任せることを決めるリュノン。
今のルージェは、ただ護られるだけではない。
「(……いや、ずっと前から、ルージェは強かったよな。あの時から、護られてんのは俺だった……)」
「(ふふ、聞こえてるよ、お兄ちゃん。それでいいじゃない。これまでの罪の分まで、お兄ちゃんを護り続けたいから……!!!)」
「……あっ……!!」
リュノンにしか見えていないが、確かに内なるルージェが外に飛び出していくのが見える。
と同時に、段々身体が軽くなっていくような感じもする。
「ここが限界か……」
飛び出したルージェ。
流石にリュノンから離れ過ぎることはできないが、それでも、ザラボラスに近づくことはできている。
「この距離なら……届く……!! お兄ちゃん……!! 拳を振って!!!」
その位置から、構えるルージェ。
動きをリンクされるように、リュノンも拳を振る。
すると、実体もなく、憑依先からも離れた彼女の意思は、
「!!? ……なんだ……!!?」
理不尽にも、聳え立つ鳳凰に牙を向いた。




