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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第十章
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第三百十六話 『漆黒の羽』

 「(……まさか、ここまでとは……)」


 空を見上げながら考えるザラボラス。


 あり得ない事態だ。


 身体を自由に動かすことが出来ないなんて。

 身体を自由に動かす力を、たかだか数人の人間に奪われるなんて。


 起きたばかりとはいえ、数人がかりとはいえ、とても信じられない事に変わりはない。


 だが、見事と感心している自分もどこかにいる。


 ヴァナベールの光速。

 バールの二撃。

 ヒナノの魔法。

 そして、ルンベの気迫。


 それら全てが確実に魔王の命を削り、彼を倒すまでに至ったのだ。


 ……だが、まだ終わっている訳ではない。

 まだ勝負は終わっていない。


 奴らも重傷なのは同じこと。

 もう一度立ち上がれさえすれば、ちゃちゃっとトドメを刺すことが出来る。


 「(……早く……立つのだ……。……俺は……魔王なのだから……)」


 魔王としての意地を見せながら、立ち上がろうとするザラボラス。

 しかし、立ち上がろうとしているのは、彼の方だけではない。


 「……私が……立たなければ……。……確実に、奴を……殺さなければ……」


 魔王との一騎討ちに倒れたルンベ・ランもまた、闘志を振り絞りながら戦闘を続行しようとする。

 

 ヴァナベールとヒナノは自らの使命を全うして倒れている。

 だがまだ自分は使命を果たせていない。


 魔王ザラボラスを倒すまでが、戦いだ。

 それまで寝っ転がっている訳にはいかない。


 「………………はあっ……!!」


 先に立ち上がったのはルンベだった。


 「……ルンベくん……」


 自らの無力さを嘆きながら、前線に立つ男に望みを託すヒナノ。


 本来ならば彼はいない。

 自分自身で決着をつけなければならなかった。

 だが、彼はこうしてここにいて、ただ一人立っている。


 「……もう少しだけ……彼に……力を……」


 ヒナノは震える腕を持ち上げると、魔力と精神を振り絞り、ルンベにバフを掛けた。

 全てを託すという事の表れだ。


 ルンベは最後の一撃を叩き込むべく、ゆっくりとザラボラスに近づいていく。


 「……これで……終わりだ……!!」


 先に立ち上がったルンベ。

 未だに起き上がることの出来ない、ザラボラスに拳を炸裂させた。


 「ごはっ……!!」


 渾身の力が込められた拳。

 仲間達から送られた物を確かに引き継ぎ、ザラボラスの胸を打ち砕いた。


 「……そ……そんな……俺が…………」


 肉体が破壊されたザラボラス。

 目映い光に同化していく。


 無数の光となった魔王は、一つの時代の終わりを迎えるかのように、敢えなく霧散した。


 「……や……やった……!! 私が……!!!」


 標的の消滅を確認したルンベ。

 強く拳を握り締め、心からの歓喜を滲ませる。


 ダメ元で来た自分が、役に立つ筈が無いと思っていた自分が、戦いの最後となる攻撃を放つに至った。

 ここに来るまでに経験してきた戦いには意味があったと証明出来たと言ってもいい。


 それほどの、大きな大きな成果だ。


 「……凄い……ルンベくん。……本当に……よくやったわ……」


 その戦いを見ていたヒナノも涙をこぼしそうになる。

 ずっと一緒に戦ってきた彼が、人間と魔物の戦いにおける終止符となる一撃を放った。


 それを、こんな間近で見届けることが出来るなんて。


 「……ヒナノさん……!! 大丈夫ですか……!!」


 足を引きずりながら、ルンベが駆け付けてきた。


 「え……ええ……。私は全然大丈夫よ……」


 と、言いながら、足元をふらつかせて倒れそうになるヒナノ。

 ルンベは慌てて肩を掴み、彼女を支える。


 「ありがとう……。それより、ここにいたら危ないわ。どこか、休める所に行きましょう……。悪いけど、貴方はヴァナベールさんを起こしてきて」


 「は……はいっ……!!」


 勝利に浸るのはまだ早い。

 こんな何もない場所にいたら元気でもくたびれてしまうし、何より翔英の事もある。


 後方でうつ伏せに倒れているヴァナベールは、先程ルンベが治療したので命の危険は脱しているが、意識は戻っていない状態だ。


 移動方法を考えるのは後。

 ヒナノの指示通り、ルンベはとりあえずヴァナベールを連れてこようとする。


 ……が、


 「……!! なんだ……!!? この感覚……!! ……さっきの……」


 「そんな……!! なんなのよ……これ……!!」


 一歩踏み出したルンベ、

 真っ直ぐ立てたヒナノは同時に、無理やり動かされるように一点を見つめた。


 そこはザラボラスが光となった地点のやや上空。

 漆黒の繭が浮かんでいる。


 その異様な物質がある辺りから、ザラボラスと同じ気配が感じられる。


 「……!! なんじゃ……!!」


 その気配に、眠っていた老人も目を覚ます。


 三人の理解が追い付く前に、落ちてくる繭。

 地面に着いたそれは変形していき、生物の姿となった。


 漆黒の翼と高貴な鳥の頭、そして、見上げるような巨大な体躯。

 その姿はまるで、『鳳凰』


 「見事だったよ。聖鳳軍」


 「……!! その声……まさか……!!」


 「……俺の肉体を完全に破壊するとは……。本当に恐れ入ったよ」


 先程までのツルリとした面影は少しもない。

 漆黒の翼を羽ばたかせながら、鳳凰は飛んでいる。


 彼を見上げる聖鳳軍一行は、溢れ出る動揺を抑えられない。


 「……どういうこと……!? 何なの……!? その姿は……!!」


 「俺の本当の姿だよ。人間の前で見せるのは初めての事だけどね」


 「……!! 本当の……姿……?」


 ザラボラスは普段、人形サイズとして活動している。

 だが、その人間の身体が完全に破壊されると、その肉体の内に宿っていた真の姿が、表の世界に顕現させる。


 それこそが、この姿。


 見る者全てに、抗うことすら許されない絶対的な敗北感と、震え上がるような畏怖を植え付ける、恐ろしさと美しさを携えた鳳凰の姿だ。


 「……そんな……」


 彼を見上げたヒナノは膝を着いた。

 ルンベは身体中を恐怖で震わせながら、何とか拳を前に構えている。


 「さあ。終わりにしようか」


 魔凰となったザラボラスが動く。


 まずは一番近くにいる、ヒナノに襲い掛かっていく。


 こんなものはどうしようもない。

 全員がそう思った時、


 「……!!?」


 どこからか繰り出された一閃が、魔凰の進撃を妨害した。


 「……ごめん皆。少し遅くなっちまった」


 「っ……!! 貴方……!!」


 「……ヒナノさん。ルンベ。……ヴァナベールさん……。バールさんも……。――――後は、俺たちに任せてくれ。必ず、皆の分も戦って見せるから」


 現れたのは、リュノン・アーリー。

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