第三百十五話 『人間の力』
ヴァナベールを回収したルンベ。
辛うじて息が有ることを確認する。
「ヴァナベールさん……!! すぐにっ……!!!」
聖鳳軍の歴史そのものであるヴァナベール・ソルシードの命。
その行く末は、自らの手に懸かっている。
体力の消耗はあれど、魔力の消耗はまだ殆どないルンベ。
彼の命を繋ぐべく、治療に全力を注ぐ。
だが当然、ザラボラスが黙って見ている筈がない。
仕留め損ねた老人の元へと向かいたいところだが、
ヒナノが咲かした花と根が、魔王の動きを止めている。
「またお前か……!! 妙な魔法を……!!!」
「…………開花……魔法よ……」
一対一の際。
ヒナノが使用していた二つ目の魔法。
魔力を養分として、数十分で身体に花を咲かせる魔法。
この魔法の本来の用途は、生物に対する物ではない。
何もない場所を彩りたいという思いから、少女時代のヒナノが作り出した魔法だから。
普通に咲かせるには、ヒナノ自身の魔力が必要となる。
生物に使った場合は、魔力を吸い取り、その生物の身体に花を咲かせる力が有る。
一度自身に試したことがあり、その際に身体から花が咲いて驚いたものだ。
何も知らない生物に使用すれば化物が誕生してしまう。
しかし、追い詰められたヒナノの倫理観は乱れ、ザラボラスに対してこの力を使用した。
「……なるほど、俺の魔力を養分にして成長しているのか……この花は……。どうりで力が入らない訳だ……」
「……貴方にも効果があって安心したわ」
「……この力……。どちらかというと、我等の魔能に近いな……。……そのジジイもしかり、今の人間の力は、人間のそれを超えている……。大した物だな……」
このまま行けばどうなるか。
それはヒナノも知らない。
もしかしたら、全部花になるのかもしれない。
討伐すべき対象とはいえ、少し心が痛むが、倒れている皆のためにも、待っている皆のためにも、殺意を緩めることは許されない。
元は平和を広げるための力。
使い方次第で、命を刈り取る力に変貌する。
「だがな……!! こんな技で、俺が終わる筈がないだろう……!!!」
「……!!」
だか、敵は魔王。
大人しく花になんてなってはくれない。
感染する片腕を切り落とした。
「こうすればいいだけの事だ……。……今のお前達など、片腕で十分……!!」
花ごと片腕を引きちぎるザラボラス。
だが、この行動はヒナノの予想通り。
咲いてから取り消す方法は顔を出した根を全て狩り取る事。
だが、ザラボラスならば、躊躇いなく腕を斬りに出るであろう事は分かっていた。
もし開花魔法が発動した場合のヒナノの狙い。
それは、片腕だ。
「……そうかしら? 皆が付けた傷に加えて、その腕。今なら貴方を倒せそうだけど」
「……舐めるなよ。俺は魔王、絶対の王者だ。負ける筈がない」
今度はヒナノがザラボラスとのタイマンに挑んでいく。
――――しかし、ヒナノの言葉は強がりに過ぎなかった。
確かに全快ならば、今の魔王ならば倒すことができたかもしれない。
だが、ヒナノもヒナノでかなりの重傷。
体力が追い付かず、満足に魔法を出すことも出来ない。
互角……いや、押されている。
この状態であっても、優勢なのはザラボラス。
「(なんて情けないの私……。言い訳なんて出来ない……。力不足……。結局私じゃ……勝てない……)」
ヒナノも、倒れた。
「……そう悲観することもないぞ、ヒナノ・スエリア。お前は天才だ……。お前がいなければ、俺がここまでの傷を負うことはなかった……。今の俺の傷全てが、お前の功績だ……」
バールによる胸の傷、ヴァナベールによる連打の痣、そして、消えた片腕。
全てヒナノのアシストが生んだ物だ。
ザラボラスが最も敬意を表したのは、このヒナノだった。
「……だが、だからこそ、俺の手で終わらさなければならない。この戦い、中々やりごたえがあったぞ……」
「……くっ……」
今度は気持ちではどうにもならない。
決して諦めた訳ではないが、その腕が動く事はない。
そんなヒナノの命は、
「……しつこいねえ」
小さな光、ルンベに護られた。
「……ルンベ……くん…………」
「……まだ、私がいます……!! 私が……!!!」
意識は戻ってはいないが、一命を取り留めたヴァナベールを寝かせ、ヒナノの前に立つルンベ。
先輩達は全員戦闘不能。
残された自分がやるしかない。
たとえ刺し違えてでも、こいつは倒す。
震える足を抑えながら、ルンベは拳を構えた。
「……ルンベ・ラン……。最後の相手はお前か……」
ザラボラスもルンベに敵意を向ける。
登場したばかりの頃は眼中にもなかったが、仮にも彼は胸に傷を付けた男だ。侮れない。
「来いっ……!! 人間……!!!」
ザラボラスの叫びと同時に、ルンベは勢い良く飛び出した。
直ぐ様攻撃が飛んでくるが冷静に回避。
逆に飛び蹴りを食らわせる。
「ぐぬっ……」
普段なら何ともない雑兵の攻撃に怯むザラボラス。
千載一遇のチャンスを逃すまいと、全てを乗せて畳み掛けるルンベ。
「(……皆さんがここまで削ってくれた……!! 私でも、魔王と戦えるくらいに……!! 絶対に負けられない……!!!)」
「(……可笑しい……。確かに信じがたい程ダメージは負っているが……それでも可笑しい……。……何故……何故ずれる……!! ずれている……!!!)
片腕、重傷。
そしてもう一つ。
ザラボラスの感覚に支障が出ていることが、ルンベ優勢の一因となっている。
「(……戦い過ぎたから……? ……いや違う……。そんなことで俺の感覚は鈍らない……。……まさかっ……!!)」
答えを理解するザラボラス。
後方に倒れる茶髪の女性に目をやる。
「いったいいくつ魔法を使ってるんだ……!! ヒナノ・スエリアァ……!!!」
「…………教えないわよ……」
三つ目のヒナノの魔法が、ザラボラスを鈍らせている。
脳に作用し、感覚をうっすらボヤけさせる地味な魔法だ。
だが、その効果はここに来て、最大限に発揮されている。
「はぁっ……!!」
ルンベのブローが顔面にヒットした。
痛覚すらボヤけているザラボラスは斜めによろめく。
「……私が……私がやるんだ……!!!」
ルンベ、魂の一撃。
魔王に炸裂する。
「…………ぐ……」
初めて、ザラボラスが倒れた。
「……はっ…………」
ルンベも倒れた。
両陣営、全員がその場に倒れた。




