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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第十章
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第三百十四話 『魔王の戦』

 再び立ち上がったヴァナベールとヒナノ。

 二人に並び剣を構えるルンべ。


 その前方には、魔物の大将ザラボラス。


 そしてその後ろに、事切れたバール。


 「一応言っておいてやるが、この婆さんは完全に死んでいるからね。助けようとしても無駄だよ」


 「……バー婆……。貴女の行動は無駄にはさせない。――――だからっ……!!」


 「……!? ……無駄だと言っているのに……」


 言われなくても分かっている。

 だがヒナノは、バールの身体を箱に閉じ込めた。


 命を助けるためではない。

 戦いを見守って貰うために。

 これ以上傷つかないように。


 「……まあいい。じゃあ再開しようか。ヴァナベール・ソルシード、ヒナノ・スエリア、そして、ルンべ・ラン」


 名乗ってはいない。

 だがザラボラスは、彼らの名前を呼んだ。


 自身にここまでの疲労と傷を負わせたことに対する、敬意の表れだ。


 「出し惜しみなどするなよ? 死んでから後悔はしたくないもんね。……その全てを打ち砕き、お前たちを葬ってやる」


 第三ラウンド開始。

 動き出すザラボラス。


 対する人間。

 ヴァナベールが前に出る。

 ヒナノは後方でパックアップに入る。


 「……かあっ……!!」


 ちょっとの休憩とヒナノの治療で少しだけ体力が戻ったヴァナベール。

 もう一度、ザラボラスの速度を上回る、光速の力をその身に宿す。


 「おお、またそれか……!! やっぱり……速いねえ……」


 ヴァナベールの猛攻。

 ザラボラスは目で追うので精一杯。


 疲労が溜まっているのはヴァナベールも同じだが、それ以上にここまでの戦いが効いている。

 バールとルンべが付けた胸元の傷が効いている。


 最高速度に乗りながらひたすらにぶん殴っていくヴァナベール。

 速過ぎる老人の連続攻撃に、ザラボラスの表情にも曇が掛かり始める。


 ――――だが、


 「(……さっきの今だ。長くはもたないだろう……? ……耐えて見せるさ。ちょっと耐えれば、俺の勝ちだ……)」


 ザラボラスの予想通り、ヴァナベールの体力は殆ど限界を迎えている。

 削り切るよりも先に、ヴァナベールの方が倒れるだろう。


 「耐える戦い」を強いられることになるとは、ザラボラス自身も思わなかった。

 少しの間とはいえ、こうも防戦一方な戦況を作られていることも。


 だが、不思議と悪い気はしない。


 四十年の月日が生んだ人間の成長。

 それを、四十年眠っていただけの自分が打ち破ることができるのだから。


 やはり「生まれ」


 魔王に生まれた自分を超えることは、誰であろうと叶うことではない。


 「…………ん? あれ……?」


 しかし、そんなザラボラスに焦りが生まれ始めていく。

 

 ……なぜか。


 中々終わらないのだ。

 ヴァナベールのターンが。


 最初に見た時の時間はとっくに過ぎているのに。

 あそこから全快に持っていくことなど不可能な筈なのに。


 なぜ、終わらない。


 ……このままでは、削られる。

 「耐える戦い」に、老いた人間に負ける。


 「……どうなっている…………。……!! ……そうか……」


 高速に囲まれるザラボラス。

 ヴァナベールの影の隙間から、後方へと視線を伸ばし、答えを理解する。


 ヒナノ・スエリアだ。


 片目を瞑り、膝を着きながら、掌をかざしている。


 彼女がヴァナベールに援護の魔法を掛け続けているのだ。


 「(……答えは分かった……。だが……)」


 不可解だ。


 いくら掛けっぱなしとはいえ、回復よりも消耗の方が大きいはず。

 それにもかかわらず、ヴァナベールはマックスを出し続けている。


 「……!! 何だと……!?」


 ヒナノの更に後方。

 ルンべがヒナノに回復魔法を掛けている。


 三段構成の作戦だ。


 「……そうか……。……それに加えて、この男……」


 それでも、回復の方がやや弱い。

 ここまで長くは続かないはず。

 なのにまだ高速が終わらないのは、


 「脳死だ……」


 ジジイは何も考えていない。

 ただ無意識に、その拳を振り続けている。


 つまり、自分の肉体の事も。自分の未来の事も考えていない。

 このモードが切れた瞬間、命も同時に終える覚悟を持った攻撃だ。


 ヴァナベールとヒナノ。


 人間界が誇る二人の強者の捨て身の戦法が、魔王に死を意識させていく。


 「……なんだ……これは……」


 命を守る衣と同時に、皮膚が剝がれていくのが分かる。

 相打ち覚悟とはいえ、自身の感覚にありえない物が生まれて来る。


 「……許されんな……。それは許されん……。……俺は頂点だ。――――だって魔王なんだから」


 今も連打は続いている。

 そんな中、ザラボラスに生まれてくる、魔王としてのプライド。


 そもそも、スピードだけとはいえ、部下を下回っている能力がある事が可笑しかったのだ。

 全てでトップにいるべきだろう。魔王だから。


 「……超えるのだ……。俺の上にいるものは全て……。超えなければならない」


 ザラボラスの肉体が、急激に活性化していく。

 寝起きでまだ目覚めていなかった力が、解放されていく。


 「……!! なにっ……!?」


 後方のヒナノとルンべにも目に見えるほど、防戦一方のザラボラスに異変が訪れた。


 「!! バカな……!!」


 「ようやく受け止められたな。お前の速さを」


 言葉通り、ヴァナベールの拳をがっちりと受け止めている。

 その衝撃により、ヴァナベールの動きは止まり、思わず意識も戻る。


 「……俺は、全てを超えねばならない。光速だろうが何だろうが……!!」


 後、ほんの少し時間があれば、この戦いに終止符を打てただろうに。

 魔王としての壁が、彼らの前に立ちはだかる。


 「捕らえた……!! 喰らえっ……!!!」


 永遠に続いていたヴァナベールのターンは終わった。

 ザラボラスの一撃を貰い、敢えなく倒れる。


 体力の限界など等に超えた速度を数分間出し続けた。

 押しただけでも立てなくなっていただろう。


 歴戦の老人は、ピクリとも動かなくなった。


 「二人目っ……!!」


 「させないっ……!!!」


 首の皮一枚繋ぐ、ヒナノの遠隔バリア。

 一撃目を防ぐ事に成功するが。


 「無意味っ……!!」


 すぐにもう一発。


 ……が、


 「……!! 何だこれは……!!」


 振り上げた拳はその場で止まる。

 腕に力が入らない。


 花が咲いている。

 根が生えている。


 「……ふっ……!!」


 ヒナノの操作で、生えた根がザラボラスを身体を縛る。

 意表を突かれた攻撃に、魔王の動きは数秒閉ざされる。

 

 その隙に、ルンベがヴァナベールを魔王の元から回収した。

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