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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第十章
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第三百十三話 『死に場所』

 バールの奇襲。

 完全に胸を貫き、苦しそうに吐血するザラボラス。


 ……何故こうなった……?


 ルンべを殺そうとした瞬間に身体が鈍くなり、その隙を突かれた。


 ……そうか、あの時……。


 ヒナノが使っていた魔法が発動したのか。


 「大丈夫……!? ヴァナベールさん」


 「…………何とかのう」


 そのヒナノはヴァナベールの元へ。

 残された魔力を振り絞り、ジジイの命を取り留めようとする。


 彼らが来る前、ヒナノが使用していた魔法。

 ザラボラスの予想通り、対象の動きを数十秒間鈍らせる魔法だが、本来ならば発動してすぐに効果が出る。

 あまりに強靭なザラボラスの肉体が、効果を遅らせていたようだ。


 逆にこれが反撃の隙を生むに至った。

 

 ヒナノ自身は、大きな力の差から通じない可能性も高いと思っていたため、狙っていた訳ではなかったが。


 「……!! ああ……何が……」


 動揺を抑えられないルンべ。

 放った拳を擦りながら戦況を見つめる。


 「……やるね。殺意が込められたいい攻撃だ……。……だが……!!」


 抜け出したザラボラス。

 バールの刃を退け、一旦体勢を立て直す。


 「俺を倒すにはまだ足りんよ」


 「……そのようだな。しかし……今のは確実に、お前の命を縮めたぞ」


 その言葉は虚勢ではない。

 余裕の笑みを崩さないザラボラスだが、傷を与えた本人は確かな手応えを感じている。

 バール・バーランドは、強敵の撃破への道を見据えた。


 だが、その道は一人のものではない。

 ここにいる皆で作り上げるものだ。


 当然それには、後方で怯えているルンべも含まれている。


 「おいルンべ・ラン……! 呆けているなよ……!  お前はお前にできることをしろ……!!」


 「……あ……はい……!!」


 「何を恐れることがある……!! お前は、魔王の顔を殴った男だ……!! 自信を持て……!! 今のお前に怖い物などないはずだ……!!」


 「……!! ……分かりました……!!」


 ルンべを立ち直らせるバール。

 ベテランの喝が入り、再び闘志が注入された。


 「(今の私のやるべきことは……!! 戦うことだ……!!)」


 ヴァナベールとヒナノの元へ行く。

 それも正解の一つではあるだろう。


 だがルンべは、この場でバールと共に戦うことを選択した。


 回復は専門ではない。

 ヒナノに任せた方がいい。

 自身の専門は戦闘だ。


 これまで、圧倒的な力で戦わずして抑えられていたが、一発の成功が彼に戦う意思を宿らせた。


 「ふっ、ここを仕事場とするか。いいぞ、ルンべ・ラン。わしの援護を頼む」


 「はいっ……!!」


 魔王の前の即席コンビ。

 だが負けるつもりはない。


 「準備はできたかな」


 「ああ、構わんぞ……!!」


 先に仕掛けるバール。

 真正面から剣を突き立てる。


 ルンべの方は突っ込むことなく、冷静に隙を伺っている。


 「……凄いね。あんた、見えてないんだろ? なのにこれほどの動きができるなんて」


 「……わし自らが選んだ力だ」


 盲目の剣技で何とか対応するバール。

 復活して間もないということもあるが、これまでの攻撃は、ザラボラスにも確実にダメージを蓄積し、動きに少なくない影響を与えている。


 だが、それでも、


 「ぬうっ……!!」


 ザラボラスの方に分があり過ぎる。


 「バールさん……!!」


 駆け寄るルンべ。

 無視できないダメージを負っている。


 一歩も動くことができないまま、仲間のダウンを取られてしまったルンベ。

 だが、落ち込む暇なんてない。


 「……ルンべ・ランよ……。わしが隙を作る。お前はそれを見逃さず、全力をぶつけてくれ」


 「え……!? ……はい……分かりました……!!」


 うっすらした作戦を組みながら、すぐに立ち上がる。

 そしてバールはまた向かって行く。


 「ふんっ……!!」


 「また来るか……!! 中々面白いね……!!」


 喰らい付く。

 この戦いで全てを出し切ろうと。


 だが、力の差は歴然。

 またしても、


 「バールさん……!!!」


 地面に転がされた。

 今度は剣も手放してしまっている。


 「……ようやく、一人目だね」


 満身創痍のバール。

 武器すら失った今、彼女に出来ることは――――


 「ぐああっ……」


 無かった。


 「バールさん!!!」


 「バー婆!!!」


 叫びは届けど手は届かない。

 

 歴戦の老婆はゆっくりと地面に伏した。


 「……あ……ああ……」


 結局隙は生まれなかった。

 自分の力では見つけることは出来なかった。


 このまま、終わるのか。


 いや――――まだだ。


 それに、一人ではダメでも。

 一人ではないならば、出来ることは、ある。


 「……!! なにっ……」


 まだ終わっていなかった。

 作戦を、隙を諦めてはいなかった。


 立ち上がったバールがザラボラスをヘッドロックに掛けている。


 「……お前……まだっ……。ぐっ……!!!」


 一瞬。

 背後からの奇襲に動揺した隙に、作戦通り全力で飛び込んだ。


 バールが手放した刀を、胸に突き立てながら。


 「……よくやったぞ……。ルンベ……」


 既に閉じている瞳をルンベに向けながら、魔王の首に掛けた手を離すバール。

 と、同時に、ザラボラスも膝をついた。


 「……いや、素晴らしい連携だったよ……。まさか……お前に傷を付けられるとは思わなかった……」


 「…………バールさん……」


 刀を構えながら、敵の後方にいる老婆を見つめるルンベ。


 抑えなければ。

 動揺を出してしまえば、一瞬で殺される。


 今は、抑えなければ。


 「……だがこれで、まず一人だ。安心するといい。お前達もすぐに、その中に入れるからさ……」


 バールを片付けたザラボラス。

 次の標的をルンベに決める。


 彼が持っている、自身の肉体に二度も目に見える傷を付けた刀を破壊し、バールの敗北を確定させるために。


 「(……そうだ、私がやるのだ……!! バールさんを勝者にするために……!!!)」


 対するルンベも刀と拳を構える。


 しかし、流石に真正面から、ザラボラスの攻撃に対応することはできない。


 だから、


 「……!!」


 「ルンベくん……!! 倒すよ……!!!」


 「最後まで、戦うのみじゃ」


 共に戦う。


 ヴァナベール、ヒナノ。

 ルンベの前に駆け付ける。


 「(……最後に、いい戦いができた……。負けたのは悔しいが……。ザラボラスよ、今度は一対一で負かしてやる。――――そして皆。今回は、お前達に託すとするぞ……。それから、待ってろ、お前たち……)」


 朦朧とする意識で、その様子を見ていたバール・バーランド。

 

 戦場を居場所としてきた彼女は、戦場にて最期を迎えた。

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