第三百十二話 『立ち向かう意思』
「……凄い……。バールさん……」
「……ええ……。一瞬だったわね……」
首が舞っている。
ヴァナベールへの攻撃に入ったことで生じた隙を、バールは見逃さなかった。
何よりザラボラスは油断していた。
ヴァナベールとの戦闘中、ただ突っ立っていただけのバールに、反撃の手札などないと。
「……ナイスじゃ。バールさん」
「ふっ、ここを逃したら、来た意味がないだろう」
倒れていく肉体と飛び上がった首を見ながら剣を納めるバール。
「こうも上手くいくとは」という驚きもある。
だが、二人は分かっている。
これで終わるような魔物ならば、魔王ではない。
倒れている身体の腕を斬りに、休むことなくすぐに動く。
だが、
「!!! これは……!!」
バールの刃が到達する前に、ザラボラスの身体は立ち上がった。
「やはり首を斬っただけでは……!!」
「……いや、十分凄いよ」
転がっていた首がこっちを向いて話し掛けてきている。
そのまま兜と鎧は合流し、元の肉体へと戻った。
「……誰かに首を斬られたのは初めての事だからね。びっくりしたよ」
「……そうは見えんがな」
「本当だよ。お前を侮っていた。殺気を感じさせる事なく、一瞬で狙いをぶった斬る。そんなことができる人間には見えないからね」
「……どうやったら死ぬんじゃ?」
「安心しなよ。今のもノーダメージって訳じゃないし、再生にも限りがある。あくまでも、俺は生物なんでね」
「……では、ひたすら切り刻めば、死ぬと考えてよいな……!!」
ヴァナベールからバトンタッチ。
今度はバールがザラボラスに挑んでいく。
「……ルンベくん。ありがとう。私はもう大丈夫。貴方はヴァナベールさんの所に行って」
「え……? ……分かりました……!!」
一対一では勝ち目がないどころか、すぐに決着がついてしまう。
少し体力が戻ったヒナノは、バールの援護に駆け付ける。
そしてルンベはヴァナベールの元へ。
傷ついた老体の回復に入る。
「すまないの……ルンベちゃん」
「…………いえ……!! 私が来た理由を示させねばなりませんので……!!」
本職ではないヒーラーとなっているルンベ。
だが、戦闘員としてはとても役に立てない。
来る前から分かっていたことだが、悔しさが込み上げてくる。
ヴァナベールやバールの戦いを見て、敵の強大さと自身の無力さを痛感してしまった。
それは、今こうして戦っている二人を見ても強く思う。
「……やるねえ」
仕込み刀を振り回すバール。
的確に急所を突いてくる攻撃の速度は、ザラボラスが目を見張る物がある。
「……だが、その剣では、俺を倒すには時間が掛かりすぎる。…………ん!?」
「第二ラウンドよ、魔王さん」
攻撃に移るザラボラスをヒナノが魔法でブロック。
更に生まれる隙を突くバール。
近距離と遠距離の連携が上手くハマっている。
「なるほど。あいつが回復したのか。鬱陶しいな」
現在進行形でヴァナベールの治療に取り掛かっているルンベ。
全快ではないとはいえ、復活させてくる、非戦闘員の彼の姿は面白くない。
ザラボラスは彼を見た。
「……!!? なんだ……これは……」
「ん!? どうした!? ルンベちゃん……!!」
殺気。
心臓が凍るような殺意の籠った睨みに、ルンベの機能は停止した。
横から見ているだけで倒れそうになる程の圧力。
それを自分一人に向けられることの恐さを思い知った。
「……ルンベちゃん……奴に何かされたのか……!!」
反応がない。
まだ全然回復出来ていないのに、止まってしまった。
「……奴から仕留めるのが吉だな。……どいてもらうよ!!」
「……ぬっ!!」
「大丈夫……!? バー婆……!!」
吹き飛ばされたバールを魔法で優しく受け止めるヒナノ。
だがその間に、ザラボラスは二人の元へと移動していた。
「やばっ……!! ……させない……!!」
遠隔バリアを発動。
だが、軽く破られてしまう。
この距離では攻撃魔法も、時間も威力も効果がない。
「……ヴァナベール、お前から死ぬかな?」
震える老体を起こし、恐怖する部下の前に立つヴァナベール。
しかしその姿からは、脅威は微塵も感じられない。
「……返答なしか。じゃあ寝てな……」
ワンパンで吹き飛ばされ、力なく倒れるヴァナベール。
ザラボラスはルンベの前に立った。
「……まずいっ……。ヒナノ……!! わしを飛ばせ……!!! そしたらお前はヴァナベールの所に……!!!」
「……ええ……!!」
返事をするヒナノだが、間に合わないのは明らか。
それでも動きを止める訳にはいかず、バールを移動させていく。
「まず一人目」
ザラボラスが拳を構えた。
それを見たルンベは涙を流していた。
動かなければならない。
戦わなければならない。
頭では分かっているのだ。
だが、どうしても足が動かない。
自分の意思でこの場に来たのに、何て情けないのだろうか。
覚悟があったのではなかったのか?
戦地に向かった友人を助けたいという覚悟が。
何もしないで終わるのか?
たとえ行き着く先は同じだとしても。
本当に、それでいいのか?
……いや、ダメだ。
せめて……せめて、動け。
動いて、戦う意思を示してから逝け。
意味がなくたって、通じなくたって、構わないから。
その姿を仲間に見せることが、今できる唯一の行動だ。
「――――くあっ……!!!」
ルンベは金縛りを解いた。
あまりの力の差により生じた壁を破壊した。
そして、魔王と同じ様に自身も拳を握った。
元より彼の戦闘スタイルは素手。
これが自分が示せる武器だ。
そして、魂の叫びと共に拳を繰り出した。
だが、既に、ザラボラスの拳は懐へと侵入していた。
「(……遅かった……。……でも最後に、勇気を振り絞れた……。皆さん、どうか…………。……んっ……!?)」
最後の独白。
かと思いきや、ザラボラスの拳が打ち込まれるよりも速く、ルンベの集中は現実に戻った。
ザラボラスの速度が、殺されている。
「……やっと、発動したわね」
「うおぁっ!!!」
生じた隙を見逃さず、ルンベは思いっきり顔面に拳をぶつけた。
真正面から、強く強く、全てを乗せた一発を。
「……何だ……今のは……」
すぐに元に戻るザラボラス。
ルンベはもう一度拳を握り締めるが、デバフは時間切れになっている。
ザラボラスは今度こそ、ルンベの息の根を止めに入った。
だが、
「ぬうっ……!!」
「首がダメなら、胸でどうじゃ……?」
飛び出したバールが背後から、魔王の胸部を串刺しにした。




