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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第十章
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第三百十二話 『立ち向かう意思』

 「……凄い……。バールさん……」


 「……ええ……。一瞬だったわね……」


 首が舞っている。

 ヴァナベールへの攻撃に入ったことで生じた隙を、バールは見逃さなかった。


 何よりザラボラスは油断していた。

 ヴァナベールとの戦闘中、ただ突っ立っていただけのバールに、反撃の手札などないと。


 「……ナイスじゃ。バールさん」


 「ふっ、ここを逃したら、来た意味がないだろう」


 倒れていく肉体と飛び上がった首を見ながら剣を納めるバール。

 「こうも上手くいくとは」という驚きもある。


 だが、二人は分かっている。

 これで終わるような魔物ならば、魔王ではない。


 倒れている身体の腕を斬りに、休むことなくすぐに動く。


 だが、


 「!!! これは……!!」


 バールの刃が到達する前に、ザラボラスの身体は立ち上がった。


 「やはり首を斬っただけでは……!!」


 「……いや、十分凄いよ」


 転がっていた首がこっちを向いて話し掛けてきている。

 そのまま兜と鎧は合流し、元の肉体へと戻った。


 「……誰かに首を斬られたのは初めての事だからね。びっくりしたよ」


 「……そうは見えんがな」


 「本当だよ。お前を侮っていた。殺気を感じさせる事なく、一瞬で狙いをぶった斬る。そんなことができる人間には見えないからね」


 「……どうやったら死ぬんじゃ?」


 「安心しなよ。今のもノーダメージって訳じゃないし、再生にも限りがある。あくまでも、俺は生物なんでね」


 「……では、ひたすら切り刻めば、死ぬと考えてよいな……!!」


 ヴァナベールからバトンタッチ。

 今度はバールがザラボラスに挑んでいく。


 「……ルンベくん。ありがとう。私はもう大丈夫。貴方はヴァナベールさんの所に行って」


 「え……? ……分かりました……!!」


 一対一では勝ち目がないどころか、すぐに決着がついてしまう。

 少し体力が戻ったヒナノは、バールの援護に駆け付ける。

 

 そしてルンベはヴァナベールの元へ。

 傷ついた老体の回復に入る。


 「すまないの……ルンベちゃん」


 「…………いえ……!! 私が来た理由を示させねばなりませんので……!!」


 本職ではないヒーラーとなっているルンベ。

 だが、戦闘員としてはとても役に立てない。

 

 来る前から分かっていたことだが、悔しさが込み上げてくる。

 ヴァナベールやバールの戦いを見て、敵の強大さと自身の無力さを痛感してしまった。


 それは、今こうして戦っている二人を見ても強く思う。


 「……やるねえ」


 仕込み刀を振り回すバール。

 的確に急所を突いてくる攻撃の速度は、ザラボラスが目を見張る物がある。


 「……だが、その剣では、俺を倒すには時間が掛かりすぎる。…………ん!?」


 「第二ラウンドよ、魔王さん」


 攻撃に移るザラボラスをヒナノが魔法でブロック。

 更に生まれる隙を突くバール。

 近距離と遠距離の連携が上手くハマっている。


 「なるほど。あいつが回復したのか。鬱陶しいな」


 現在進行形でヴァナベールの治療に取り掛かっているルンベ。

 全快ではないとはいえ、復活させてくる、非戦闘員の彼の姿は面白くない。


 ザラボラスは彼を見た。


 「……!!? なんだ……これは……」


 「ん!? どうした!? ルンベちゃん……!!」


 殺気。


 心臓が凍るような殺意の籠った睨みに、ルンベの機能は停止した。


 横から見ているだけで倒れそうになる程の圧力。

 それを自分一人に向けられることの恐さを思い知った。


 「……ルンベちゃん……奴に何かされたのか……!!」


 反応がない。

 まだ全然回復出来ていないのに、止まってしまった。


 「……奴から仕留めるのが吉だな。……どいてもらうよ!!」


 「……ぬっ!!」


 「大丈夫……!? バー婆……!!」


 吹き飛ばされたバールを魔法で優しく受け止めるヒナノ。

 だがその間に、ザラボラスは二人の元へと移動していた。


 「やばっ……!! ……させない……!!」


 遠隔バリアを発動。

 だが、軽く破られてしまう。


 この距離では攻撃魔法も、時間も威力も効果がない。


 「……ヴァナベール、お前から死ぬかな?」


 震える老体を起こし、恐怖する部下の前に立つヴァナベール。

 しかしその姿からは、脅威は微塵も感じられない。


 「……返答なしか。じゃあ寝てな……」


 ワンパンで吹き飛ばされ、力なく倒れるヴァナベール。

 ザラボラスはルンベの前に立った。


 「……まずいっ……。ヒナノ……!! わしを飛ばせ……!!! そしたらお前はヴァナベールの所に……!!!」


 「……ええ……!!」


 返事をするヒナノだが、間に合わないのは明らか。

 それでも動きを止める訳にはいかず、バールを移動させていく。


 「まず一人目」


 ザラボラスが拳を構えた。


 それを見たルンベは涙を流していた。


 動かなければならない。

 戦わなければならない。

 頭では分かっているのだ。


 だが、どうしても足が動かない。

 

 自分の意思でこの場に来たのに、何て情けないのだろうか。


 覚悟があったのではなかったのか?

 戦地に向かった友人を助けたいという覚悟が。


 何もしないで終わるのか?

 たとえ行き着く先は同じだとしても。


 本当に、それでいいのか?


 ……いや、ダメだ。


 せめて……せめて、動け。

 動いて、戦う意思を示してから逝け。


 意味がなくたって、通じなくたって、構わないから。

 その姿を仲間に見せることが、今できる唯一の行動だ。


 「――――くあっ……!!!」


 ルンベは金縛りを解いた。

 あまりの力の差により生じた壁を破壊した。


 そして、魔王と同じ様に自身も拳を握った。

 元より彼の戦闘スタイルは素手。

 これが自分が示せる武器だ。


 そして、魂の叫びと共に拳を繰り出した。


 だが、既に、ザラボラスの拳は懐へと侵入していた。


 「(……遅かった……。……でも最後に、勇気を振り絞れた……。皆さん、どうか…………。……んっ……!?)」


 最後の独白。


 かと思いきや、ザラボラスの拳が打ち込まれるよりも速く、ルンベの集中は現実に戻った。


 ザラボラスの速度が、殺されている。


 「……やっと、発動したわね」


 「うおぁっ!!!」


 生じた隙を見逃さず、ルンベは思いっきり顔面に拳をぶつけた。


 真正面から、強く強く、全てを乗せた一発を。


 「……何だ……今のは……」


 すぐに元に戻るザラボラス。

 ルンベはもう一度拳を握り締めるが、デバフは時間切れになっている。


 ザラボラスは今度こそ、ルンベの息の根を止めに入った。


 だが、


 「ぬうっ……!!」


 「首がダメなら、胸でどうじゃ……?」


 飛び出したバールが背後から、魔王の胸部を串刺しにした。

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