第三百九話 『絆の覚醒』
――――敵の世界。
そこに現れた妹、ルージェ。
目の前にもルージェ。
だがこちらは、ラウトマンが能力で作り出した幻のルージェだ。
だったら、この後ろのルージェは――――
「……これもあいつが作ったルージェか……!? ふざけやがっ……」
「違うよお兄ちゃん!! 私は本物!! ……いや本物ではないけど……本物だよ!!!」
「えっ……!!?」
会話ができている。
前のとは違う。
ここまでも敵の能力か?
後ろを振り向き、そう疑い出した時、
背を向けた側のルージェがグランデとなり、襲い掛かってきた。
「危ない!!!」
しかし、グランデの攻撃は、今現れた方のルージェががっちりと受け止めていた。
そしてルージェは、グランデを消し去ろうと掌を振りかざす。
「……!! どうなって……!!」
リュノンの理解が追い付く前に、ルージェが攻撃を開始する。
攻撃が迫ったグランデは、やはりルージェの姿になるが、
「死ねっ!!!」
こっちのルージェはお構い無し。
ミワルナの破壊の力で、幻のルージェを消し飛ばした。
「……え……。……何だこれ……。何が……どうなって……」
まだ意味がわからないリュノン。
急に現れたルージェが、ルージェの姿をした幻を消し去った。
「お兄ちゃん。やっぱり優しいね。本物じゃないけど、私への攻撃を躊躇うなんて。まあ、それがお兄ちゃんなんだけどね」
「……ルージェ……。……本物なのか……!!?」
「ここは敵が作ったお兄ちゃんの精神世界。私の精神が、お兄ちゃんの精神の中に残ってたみたい。だから、本物だけど本物じゃないってこと」
「…………あ、ああ、そういうことか……!!! ってことはつまり……現実にはいないけど、俺の心の中に、お前がいるってことか……!!!」
「うん。まあ、そういうことになるね」
リュノンは涙を流した。
実体ではないとはいえ、こうして、かつての優しい笑顔を浮かべている妹と話すことができるなんて。
身体だってある。
正真正銘、人間としてのルージェだ。
「……!! あれ……!?」
だが、人間としての再開も束の間、景色が壊れ始めた。
元の世界に戻っていくようだ。
「……あいつを倒したから、能力が解けたみたいだね」
「……そうか……。……ありがとう、ルージェ……!!! 助けてくれて……!!!」
「ううん……。ずっと助けてくれたのは、お兄ちゃんの方。……でも安心して。また、すぐに会えるから」
目の前のルージェは消えた。
代わりに現れたのは、立ちはだかるラウトマン。
彼は、酷く狼狽えている。
「……バカな……バカなバカなバカな……!!! 私の魔能を受けて、無事に戻ってくるなんて……!! お前みたいな若蔵に、そんなことできるはずが……」
ラウトマンの能力を破るには、対象を倒すしかない。
幸と不幸を混ぜながら、交互に繰り出していく力を破るのは簡単な事ではない。
しかし、彼の精神には強すぎる呪いの力が宿っていた。
そんな彼に精神攻撃を仕掛けたのは、多大なる悪手であった。
「……まあいい……。精神は壊せなくても、直接肉体を壊せばいいだけの事……!!! さあ、死ぬがいい!!! 名前も知らぬ弱者よ!!! …………へ!!?」
そして、その呪いの力は、表にも顕現していた。
リュノンの精神に強い刺激が与えられたことで、眠っていた呪いの力が呼び起こされた。
「……な、なんだ……!!? なんなんだその化物はぁ……!!?」
リュノンに仕掛けたラウトマン。
彼の目には、少女の巨大な背後霊が映っていた。
「――――お兄ちゃん。ほら、またすぐ会えたね」
「ルージェ……!!?」
リュノンには見えていない。
が、彼の頭の中に妹の声が鳴り響いている。
「お兄ちゃん。私も一緒に戦うよ!!! 今度は、お兄ちゃんのために!!!」
「……そうか!! ありがとうルージェ……!!! お前が一緒に居るだけで、俺はどんな奴にも負けない気がする……!!!」
再び共になった兄妹。
離れすぎていた心をもう一度、一つに戻す。
「……答えないつもりか……!? ……いいだろう……!!! そんな虚仮威しが……通じる私ではない……!!!」
二人の世界へ襲い掛かるラウトマン。
野暮な男に、兄妹は敵意の目を向けた。
「お兄ちゃん……!! 私の力を使って……!! そうすれば、あんな奴一撃で倒せる……!!!」
「……!! 分かった……!!!」
妹と気持ちが繋がった。
もう、一人ではないリュノンは、一気にラウトマンとの距離を詰める。
「向かって来るか……!!! だが残念だったな!!! これで終わっ…………」
圧倒的な恐怖による、金縛り。
背後の亡霊に睨まれ、ラウトマンは拳を握ったまま動けなくなった。
「よくもお兄ちゃんに私の顔を殴らせようとしたな……!!! よくも私をクソ野郎と行ったり来たりさせたな……!!!! ぶっ殺す!!!!」
拳を振るリュノン。
その拳に亡霊の怨念が重なっている。
「ひえっ……!!」
リュノンが放った拳は、ラウトマンの肉体を消し飛ばした。
「……バカな……。……人間の……パンチじゃないぞ……こんな……の…………」
胴体を削られたラウトマン。
あっという間に肉体は消え去った。
「やったね。お兄ちゃん!!!」
「ああ……!! ありがとう、ルージェ……!!!」
初めての二人の共闘。
まさか、こんな日が来るなんて。
幻術で呼び起こされた二人の絆が、新たな力を覚醒させた。
「……と、いけねっ……!! 皆のとこへ、早く行かねえと……!!!」
「うん、行こう!! お兄ちゃん!!!」
不運な戦いに希望を見つけたリュノン。
頼もしい妹の幻影と共に、最後の戦いの場へと急いでいく。
※※ ※ ※ ※ ※ ※
そして、そのリュノンだけでなく、ヴァナベール達も急いで向かう地点では――――
「…………中々、やるねぇ」
聖鳳軍の最後の標的となっている、魔王ザラボラスと、
「…………そうでしょ? だって私は、天才だから」
無断で一人先に飛び出していた、ヒナノ・スエリアの一戦が行われていた。
魔物の頂点を極めた大魔王。
そんな最悪の相手に、現代における人間最高の魔法使い、ヒナノ・スエリアは、一歩も引かない攻防を繰り広げている。
「……復活早々悪いけど、今日地獄に戻ってもらうわ。覚悟しなさい」
彼女には、自らに課した避けられない使命と、家族や仲間達の想いが込められている。




