第三百八話 『幸と不幸』
「……!! 本当か……!! ロジェ……!!」
「うん……!! 僕の友達が教えてくれたんだ……!!」
「……で、何処なんだ……!? そこは……!!」
ロジェは翔英に、スリーラから話されたことを共有した。
夢だろうが何だろうが、スリーラの伝言が最後の頼みだ。
「……そんな場所に……。……ありがとう、ロジェ。じゃあ、早速行ってみるよ」
ロジェとの激突。
翔英の最大の目的である「共に前を向く」ということを達成した上に、ミネカへの貴重な情報を得ることが出来た。
結果として、彼とここで拳を交えたことには、大きな意味があった。
「……ちょっと待って、ショウエイ」
魔物たちに見送られながら、扉に手を掛ける翔英を呼び止めるロジェ。
翔英は立ち止まり、友となった人外に優しげな目を向ける。
「どうしたんだ? ロジェ」
「……僕も、一緒に行くよ」
「……!! ロジェも……!?」
『私も同行しよう』
立ち上がったロジェが翔英の前に立つ。
「……君と……約束したからね。僕の力を君に貸すって。今がまさに、その一発目だ」
スリーラからの伝言。
それもある。
だがそれ以上にロジェは、初めての人間の友に協力したい思いが強い。
それにこんなにも、人間に否定的ではない同族もいたのだ。
もはやこれは、自分一人の願いではない。
その願いを果たすためにも、彼を死なせる訳にはいかない。
彼はこの先にも必要な人間だ。
彼のために、自分も戦わなくては。
「ありがとう……!!! お前が居てくれたら頼もしいよ……!! よろしくな!!!」
「……!! うん……!!」
心強い仲間を手に入れた翔英。
人間以外の初めての友、ロジェを隣に、彼は外へと歩き出した。
※※ ※ ※ ※ ※ ※
――――魔王の間、近く。
リュノン・アーリー。
「……何なんだ……こいつは……」
ヴァナベール達と共に決戦の地へと参じたはずのリュノン。
一人だけ到着地が違い、変な所に飛ばされていた。
そこで彼の前に立ちはだかっているのが、ラスドラーゴ配下のラウトマン。
さっさと彼を倒し、皆の元へと向かいたい所だが。
敵の能力に、思わぬ苦戦を強いられていた。
怯むリュノン。
その前に立っているのは、『グランデ』だ。
「何でお前がグランデの姿をしてるんだ……!!! どうなってやがる……!!!」
激昂するリュノン。
戦闘開始直後、奇術師のようなラウトマンの姿は、瞬きの間に仇敵の物に変化していた。
「……ほう。グランデというのか……!! 貴様はこのグランデに、恐怖を抱いているな!!?」
「何だと……!!?」
「さあ!!! 見るがいい……!!! そして壊れるがいい……!!! 私に会ってしまったことを後悔しながらな……!!!」
「ぬ……!? …………なっ……!!?」
ラウトマンの指パッチンと共に、リュノンの視界が変わった。
過去の物だ。
過去と行っても、そんなに昔の物ではない。
これは、ショウエイと初めて会った時の物。
「(……これは……幻覚か……? おそらく奴の能力……。記憶が再現されている……。……どうやって破れば……)」
目の前には笑顔で話し掛けてくる翔英。
彼とは初めて会った時から意気投合した。
それを思い出させる記憶だ。
「(……ショウエイのとこに行かなきゃ……!! あんな奴と戦ってる暇はねえ……!!!)」
翔英との思い出を目にしたリュノン。
それが逆に闘志を燃やし、彼の元へと足を進めていく。
だが、
「……!! 何……!!!」
背を向けた途端、翔英に胸を貫かれた。
いや、翔英ではなくなっている。
こいつは……グランデだ。
「……ぐっ……!! ……はっ……!!」
痛みに怯んだ間に、また景色が変わっていた。
今度は……
「……!! ……くそっ……」
ルージェだ。
二人で幸せに住んでいた時の記憶。
何年も前の記憶だ。
ルージェは笑顔で語り掛けてきている。
「……ふざけやがって……」
だがその幻覚は、リュノンに怒りを注ぐだけ。
笑顔で話し掛けてくるルージェを無視し、再びこの場を去ろうとする。
しかし、
「……ぐっ……!!」
また殴られた。
ルージェ……ではない、グランデだ。
攻撃を仕掛けてくるタイミングで、グランデに入れ替わっている。
「……何なんだ……これは……!!」
「苦しんでいるな!!!」
ラウトマンの魔能。
対象の記憶から、最も恐れている生物と親しい人間を呼び起こす。
そしてそいつらが、思い出に顔を覗かせてくる能力。
リュノンの場合は、「幼少期に目にしたグランデ」が、地球上の生物で最も恐れている者だった。
「……まあ、人間だっただけ運が良かったな。だが、貴様の精神が壊れるのも時間の問題だ。早く壊れてしまうがいい!!! 幸せと不幸に挟まれ続けながらな!!!」
「……またか……」
ルージェがまた出てきた。
だが、グランデを乗り越えているリュノンにとっては、彼が出て来た所で精神に揺らぎはない。
しかし、状況がまずい。
ルージェや翔英がグランデになるのを無限に見ているしかできない。
どうやったらここから脱出できるんだ。
それに、
「ぐっ……!!!」
殴ってくるのが痛い。
身体ではなく心が。
グランデ関係無しに、心が擦り減っていくのを止められない。
「……しょうがない……」
次に出てきたら、グランデをぶっ飛ばしてやる。
その準備をしながら、敵に備えるリュノン。
「来たっ……!!」
またルージェとの思い出が顔を覗かせた。
リュノンはすぐさま斬りかかる。
しかし、
「……うっ……!!」
覚悟を決めたとはいえ、一度やったとはいえ、本物ではないとはいえ、笑顔を浮かべた昔の妹を、綺麗な思い出を、簡単に斬る事はできない。
リュノンの腕は止まった。
すると、
ルージェがグランデになった。
「ここだっ……!!」
すかさず仕掛けるリュノン。
仇敵の顔をしている間に、仕留めなくては。
だが、
すぐに、ルージェに戻っていた。
「があっ……!!」
また動きを止めたリュノン。
再び現れたグランデに、胸を撃ち抜かれる。
「…………畜生……!!」
自分が攻撃する時は幸せな思い出に戻るのか。
もう一度、ルージェを斬らなきゃいけないのか。
「……くそっ……!!」
また笑顔のルージェが現れた。
このままではラウトマンの狙い通り、心に支障が出てしまう。
「……今度こそ……!!!」
妹に斬り掛かろうとするリュノン。
だがその歩みは、後方からの声に止められた。
「お兄ちゃん……!! ちょっと待って……!!!」
「……!!! なにっ……?」
そこには、もう一人のルージェがいた。




