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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第十章
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第三百八話 『幸と不幸』

 「……!! 本当か……!! ロジェ……!!」


 「うん……!! 僕の友達が教えてくれたんだ……!!」


 「……で、何処なんだ……!? そこは……!!」


 ロジェは翔英に、スリーラから話されたことを共有した。

 夢だろうが何だろうが、スリーラの伝言が最後の頼みだ。


 「……そんな場所に……。……ありがとう、ロジェ。じゃあ、早速行ってみるよ」


 ロジェとの激突。


 翔英の最大の目的である「共に前を向く」ということを達成した上に、ミネカへの貴重な情報を得ることが出来た。

 結果として、彼とここで拳を交えたことには、大きな意味があった。


 「……ちょっと待って、ショウエイ」


 魔物たちに見送られながら、扉に手を掛ける翔英を呼び止めるロジェ。

 翔英は立ち止まり、友となった人外に優しげな目を向ける。


 「どうしたんだ? ロジェ」


 「……僕も、一緒に行くよ」


 「……!! ロジェも……!?」


 『私も同行しよう』

 

 立ち上がったロジェが翔英の前に立つ。


 「……君と……約束したからね。僕の力を君に貸すって。今がまさに、その一発目だ」


 スリーラからの伝言。

 それもある。


 だがそれ以上にロジェは、初めての人間の友に協力したい思いが強い。


 それにこんなにも、人間に否定的ではない同族もいたのだ。

 もはやこれは、自分一人の願いではない。


 その願いを果たすためにも、彼を死なせる訳にはいかない。

 彼はこの先にも必要な人間だ。


 彼のために、自分も戦わなくては。


 「ありがとう……!!! お前が居てくれたら頼もしいよ……!! よろしくな!!!」


 「……!! うん……!!」


 心強い仲間を手に入れた翔英。

 人間以外の初めての友、ロジェを隣に、彼は外へと歩き出した。


 ※※ ※ ※ ※ ※ ※


 ――――魔王の間、近く。 


 リュノン・アーリー。


 「……何なんだ……こいつは……」


 ヴァナベール達と共に決戦の地へと参じたはずのリュノン。

 一人だけ到着地が違い、変な所に飛ばされていた。


 そこで彼の前に立ちはだかっているのが、ラスドラーゴ配下のラウトマン。

 さっさと彼を倒し、皆の元へと向かいたい所だが。


 敵の能力に、思わぬ苦戦を強いられていた。


 怯むリュノン。

 その前に立っているのは、『グランデ』だ。


 「何でお前がグランデの姿をしてるんだ……!!! どうなってやがる……!!!」


 激昂するリュノン。

 戦闘開始直後、奇術師のようなラウトマンの姿は、瞬きの間に仇敵の物に変化していた。

  

 「……ほう。グランデというのか……!! 貴様はこのグランデに、恐怖を抱いているな!!?」


 「何だと……!!?」


 「さあ!!! 見るがいい……!!! そして壊れるがいい……!!! 私に会ってしまったことを後悔しながらな……!!!」


 「ぬ……!? …………なっ……!!?」


 ラウトマンの指パッチンと共に、リュノンの視界が変わった。

 

 過去の物だ。

 

 過去と行っても、そんなに昔の物ではない。

 これは、ショウエイと初めて会った時の物。


 「(……これは……幻覚か……? おそらく奴の能力……。記憶が再現されている……。……どうやって破れば……)」


 目の前には笑顔で話し掛けてくる翔英。

 彼とは初めて会った時から意気投合した。

 それを思い出させる記憶だ。


 「(……ショウエイのとこに行かなきゃ……!! あんな奴と戦ってる暇はねえ……!!!)」


 翔英との思い出を目にしたリュノン。

 それが逆に闘志を燃やし、彼の元へと足を進めていく。


 だが、


 「……!! 何……!!!」


 背を向けた途端、翔英に胸を貫かれた。


 いや、翔英ではなくなっている。

 

 こいつは……グランデだ。


 「……ぐっ……!! ……はっ……!!」


 痛みに怯んだ間に、また景色が変わっていた。

 今度は……


 「……!! ……くそっ……」


 ルージェだ。


 二人で幸せに住んでいた時の記憶。

 何年も前の記憶だ。


 ルージェは笑顔で語り掛けてきている。


 「……ふざけやがって……」


 だがその幻覚は、リュノンに怒りを注ぐだけ。

 笑顔で話し掛けてくるルージェを無視し、再びこの場を去ろうとする。


 しかし、


 「……ぐっ……!!」


 また殴られた。

 ルージェ……ではない、グランデだ。

 攻撃を仕掛けてくるタイミングで、グランデに入れ替わっている。


 「……何なんだ……これは……!!」


 「苦しんでいるな!!!」


 ラウトマンの魔能。


 対象の記憶から、最も恐れている生物と親しい人間を呼び起こす。

 そしてそいつらが、思い出に顔を覗かせてくる能力。


 リュノンの場合は、「幼少期に目にしたグランデ」が、地球上の生物で最も恐れている者だった。


 「……まあ、人間だっただけ運が良かったな。だが、貴様の精神が壊れるのも時間の問題だ。早く壊れてしまうがいい!!! 幸せと不幸に挟まれ続けながらな!!!」


 「……またか……」


 ルージェがまた出てきた。

 だが、グランデを乗り越えているリュノンにとっては、彼が出て来た所で精神に揺らぎはない。


 しかし、状況がまずい。


 ルージェや翔英がグランデになるのを無限に見ているしかできない。

 どうやったらここから脱出できるんだ。


 それに、


 「ぐっ……!!!」


 殴ってくるのが痛い。

 身体ではなく心が。


 グランデ関係無しに、心が擦り減っていくのを止められない。


 「……しょうがない……」


 次に出てきたら、グランデをぶっ飛ばしてやる。

 その準備をしながら、敵に備えるリュノン。


 「来たっ……!!」


 またルージェとの思い出が顔を覗かせた。

 リュノンはすぐさま斬りかかる。


 しかし、


 「……うっ……!!」


 覚悟を決めたとはいえ、一度やったとはいえ、本物ではないとはいえ、笑顔を浮かべた昔の妹を、綺麗な思い出を、簡単に斬る事はできない。


 リュノンの腕は止まった。


 すると、


 ルージェがグランデになった。


 「ここだっ……!!」


 すかさず仕掛けるリュノン。

 仇敵の顔をしている間に、仕留めなくては。


 だが、


 すぐに、ルージェに戻っていた。


 「があっ……!!」


 また動きを止めたリュノン。

 再び現れたグランデに、胸を撃ち抜かれる。


 「…………畜生……!!」


 自分が攻撃する時は幸せな思い出に戻るのか。

 もう一度、ルージェを斬らなきゃいけないのか。


 「……くそっ……!!」


 また笑顔のルージェが現れた。

 このままではラウトマンの狙い通り、心に支障が出てしまう。


 「……今度こそ……!!!」


 妹に斬り掛かろうとするリュノン。

 だがその歩みは、後方からの声に止められた。


 「お兄ちゃん……!! ちょっと待って……!!!」


 「……!!! なにっ……?」


 そこには、もう一人のルージェがいた。 

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