第三百七話 『真の和解』
――――あれ……?
何処だろう、ここは。
……光だ。光の中だ。
闇から生まれたこの僕が、光に包まれている。
……もしかして、死んだの?
どっからどう見ても死んでるよね、これ。
身体はちゃんとあるけど、自由に動かないし。
ショウエイとの衝突が最後の記憶だ。
彼の拳に、僕は破れた。
あのパンチは凄かったな。
とても人間が放てるような物じゃなかった。
全力で迎えてくれたことに、感謝しなくては。
「…………誰かいないかな……?」
光に包まれた景色を見渡すロジェ。
自分がどういう結末を迎えたのか確信は持てないが、もう一度翔英と話したい。
「……あ……あれって……!!!」
奥の光が人の形をしている。
その形は、ロジェがよく知っている人間の物だ。
突然別れてしまった、青髪の美しい女性の。
「……スリーラ……!!! スリーラだよね……!!! 久しぶり……!!!」
スリーラ。
かつては魔凰軍に所属していた魔物の一人。
事件と事故をきっかけに人間の町で暮らすようになってから、ロジェの良き話し相手となっていた人物。
互いに人間に好意的な気持ちを持っていた唯一の同族として、度々親交があった。
「……お久し振りですわね。ロジェ様……」
あの頃と何も変わっていない姿、声、話し方。
名前を呼ばれるだけで、彼女と話したことが次々と思い出される。
「久しぶり……!!! スリーラ!! ……でも、君が迎えに来たってことは、やっぱり僕、死んでるみたいだね……。……まあ、どんな形でも、君にもう一度会えて嬉しいけどさ」
「……いいえ、ロジェ様。貴方はまだ、死んではおりませんわ」
「……え……? そうなの? ……じゃあなんで君が……」
「わたくしは貴方を送りに来たのです。見ていましたよ。貴方とショウエイ様の戦いを。……そして、お二人で答えに辿り着いたことも」
「……スリーラ……」
「わたくしが果たせなかった、真の意味での人との共存。それを叶えられるのは、ロジェ様、貴方しかおりません。――――そして、その鍵を握るのは、ショウエイ様ですわ」
「…………ショウエイ……」
「――――そのためには、ショウエイ様が笑顔を取り戻さなくてはならない。貴方たちの和解、最後の条件は、ジャーザンスを倒すことですわ」
「……ジャーザンスか……。……確かに、あいつは…………」
「……ジャーザンスを倒せば、ミネカ様という、ショウエイ様に不可欠な人が彼の元に戻る。ショウエイ様の魔物との戦いは終わります。そうなれば、貴方たちを遮るものはなくなりますわ」
「……でもね、スリーラ……。ジャーザンスの居場所が分からないんだ。ショウエイもあいつを探してるって言ってたけど……」
「……おそらくそれは大丈夫ですわ。わたくしは過去にアボラ様と一緒に、ジャーザンスについて調べたことがあり、彼が緊急時に避難する場所に心当たりがあります」
「そうなの……!? それは凄い……!!! ……でもなんでそんなこと……」
「私怨です。実行に移ることはありませんでしたが。こんな形で役に立つとは思いませんでしたわ」
「……で、その場所は?」
「魔凰軍本部の最下層ですわ。東口から外に行った先に、防壁が施された地下への階段がございます。無断で入った生物には毒が吹かれる障害がありますが、貴方たちなら問題ないでしょう。そしてその先に、ジャーザンスの隠れ家が」
「……そうだったのか、知らなかったよ……」
「ロジェ様。貴方に伝えなければならないことは以上ですわ。――――さあ、貴方を待つご友人の元へと、戻って下さいませ」
「……うん……!! ありがとうスリーラ……!!! それから……じゃあね……!!!」
「ええ……!! きっと、貴方たちなら……!!!」
あの時は、突然だった。
彼女の訃報が届いたのは、いきなりだった。
彼女の死は、自身への人間への向き合い方を改めるきっかけの一つとなった。
だが彼女は、人間を否定していなかった。
スリーラが目指した分まで、自身が願いを叶えて見せる。
強い決意を固めたロジェ。
友に今生の別れを告げ、無限の光の世界を脱した。
※※ ※ ※ ※ ※ ※
「――――あっ……!!!」
目が覚めた。
今度はよく知っている天井が目に映る。
現実世界に戻ってきたようだ。
だがここは――――
翔英との決闘を行った場所ではない。
誰かの部屋だ。
「よかった……。目、覚めたか、ロジェ」
「ショウエイ……!!!」
すぐ近くに座る翔英。
自身はベッドの上だ。
「……君が手当てしてくれたのか……? ショウエイ……!!」
「いや、違うよ。よく見てみな、周りを」
「……? ……あ……!! 君たち……!!!」
開いたドアの向こう。
外から部屋を覗く影。
あの魔物だ。
この場所へとやってきた翔英とロジェと言葉を交わした、魔物。
その後ろには、同じく戦闘を良しとしない戦闘員達が並んでいる。
「……ロジェ様……」
「俺も彼らに治して貰ったんだ。この通り、砕けた身体もだいたい元通りだよ」
「……君たちに、こんな力があったなんてね……」
役立たずの烙印を押されていた雑兵たち。
戦いに意味を持ち得なかった彼らは、生きる術を求めていた。
その力は、戦いに使われることはなかったが。
「……ロジェ様。僕たちみんな、貴方と彼の戦いを見ていました。……そして、彼の言葉に、正直胸を打たれてしまった。……もし、僕たちにも戦わない道があるのなら、探したいと思っています……」
「……!! ……フフハハハ、君たちもか……。君たちもショウエイに……」
彼等もロジェと変わらなかった。
翔英がロジェに叫び続けた言葉を心で受け止めていた。
そして、彼に死なない希望を見い出した。
戦わなくていい未来を、彼の背中に。
「……じゃあ、ロジェ。お前とも話せたことだし、俺行くよ。まだ、ゴールじゃないからさ」
休憩終わり。
確かな絆を新たに得た翔英は、再び奴の捜索に入る。
念願のロジェとの和解は果たした。
だが、彼に誓った言葉を実行するには、絶対につけなければならない決着がある。
それが終わらなければ、道はない。
「待ってくれ、ショウエイ……!! 教えて貰ったんだ……!!!」
慌てて彼の進みを止めるロジェ。
翔英は不思議そうに振り返る。
「ジャーザンスがいる場所……!! 多分わかったんだ……!!!」
今度は一緒に。
彼と共に、前に進むために。




