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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第十章
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第三百三話 『武器は己』

 ――――避けられないのか。


 武器を構える翔英。

 苦い顔でロジェに備える。


 彼はどうしても、戦わなければいけないらしい。


 ならば、致し方ない。


 こちらとしても、この先に進まなければならない。

 黙ってやられるわけにはいかない。


 翔英は不十分な覚悟を決めた。

 ロジェを退けて、ミネカの元へ向かう覚悟を。


 「……ふっ、よかった。やっとだね」


 悲しそうな笑顔を見せているロジェ。

 手に持っている棒に力を込め、精一杯の敵意と共に翔英に向ける。


 「……行くよ……ショウエイ……!!」


 今度こそ、戦闘開始。


 ロジェの先制攻撃。

 受け止める翔英。


 まだ只の棒ということもあり、ロジェの一撃は軽く受け止められている。


 「……つあっ……!!!」


 翔英も攻撃に出た。


 和解を諦めた訳ではない。

 ロジェの思いを受け止め、その先に争わない道を見つけ出して見せる。

 戦えば必ず、戦わない道が開くはず。  

 

 そんな思いを込めた一撃が、ロジェの胸に入った。


 「ぐっ……!!」


 怯むロジェ。


 あの頃はひと味もふた味も違う翔英の一撃。

 確実にダメージを蓄積する。


 「はあっ……!!」


 畳み掛ける翔英。

 ロジェに強化が入らない内に、ダウンまで持っていきたい。

 敵の武器の能力が割れていることもあり、早期決着を目標としている。


 「これは……!!」


 ――――速い。

 

 ロジェと言えども、只の棒では対応が追い付かない。

 それほど翔英は強くなっている。


 「くっ……!!」


 棒が弾き飛ばされた。

 その隙に胸に一閃。


 血を吹き出しながら、ロジェは倒れ込む。


 更に動く翔英。

 ロジェの武器を遠くに放り投げた。


 「……本当に……強くなっていたんだね……ショウエイ……。……レウラを倒しただけの事はあるよ……」


 足元をふらつかせながら立ち上がるロジェ。 

 明らかに差が無くなっている事に、正直驚きを隠せない。


 だが、やはり血筋か。

 そう簡単には完全に倒れない。

 

 今の翔英とロジェの一番の差は、肉体の強さだ。


 「……って、あれ? …………あっ、いつの間にそっちに……!!」


 起き上がって早々、武器が相手の後ろに転がっていることに驚くロジェ。

 前にもやられたことがあったっけか。


 「……おい、ロジェ……。やっぱり、戦う意味ないって。考え直してくれないか……? もう一度さ……」


 「……!! なんだと……!? またなのか……!!?」


 「……まただよ。何度だって言うよ。俺はお前と戦いたくない。戦わないに越したことはないんだから」


 「……ふざけるな……!! クレイジーグロウサーを取り上げたからって、僕に勝った気でいるのか……!? 甘いんだよ……!!!」


 今度は素手で向かってくるロジェ。

 翔英は険しい顔で迎え撃つ。


 「うおおおっ!!!」


 「……!! ロジェ……」


 普段の彼からは考えられない程、凄まじい気迫の拳の連打。

 

 ロジェは理解していた。


 今の翔英を相手に、離れた武器を取り行く隙は無い。

 今の翔英を相手に、武器無しでは勝ち目がない。


 普通に戦えば、負ける。


 無理矢理戦う気にさせたのにこうも簡単に負けてしまっては、無様にも程がある。


 そうなれば、戦う道を選んだ自分が馬鹿みたいじゃないか。

 仲間にも、誓ったのに。


 「はあっ……!!!」


 だがその気迫を持ってしても、翔英の方が上手だった。

 元々肉弾戦を得意としてないロジェの拳は見切られている。

 肉体の頑強さで中々倒れることはないが、決着がつくのも時間の問題となっていく。


 「(……何故……。……僕はこんなにも弱かったのか……? ……いや、戦いを嫌い続けて、血筋に頼り続けてきたことの弊害か……)」


 翔英という強敵と真正面からぶつかったことで思い知らされた。


 翔英は、ミネカを助けるために、仲間を護るために強くなり続けて来たのだろう。


 対するロジェは長年、誰かの命令で嫌々ながら戦い、勝利してきた。

 唯一面白かったのは、武器が成長する所だった。


 勿論、鍛練なんてしたことはない。

 強くなりたいなんて思ったこともない。


 ずっと、面倒くさかった。


 そんな自分がいきなり戦いを望んだ。

 戦いを避けようとしたことで、仲間を失ったから。


 傲っていたんだ。


 自分が戦いにやる気を出せば、負けるはずがないと。

 一度勝利した相手に、遅れを取るはずがないと。


 あの時はそのマインドで勝利できたが、それが通用しなくなる程、彼は勝利し続けていた。


 「があっ……!!!」


 ロジェが倒れた。

 翔英との打ち合いに破れた。


 あの時とは、真逆の結果だ。  


 「……ロジェ……。……もうやめようぜ……。意味ないって……こんな戦い……」


 「……!!! ……なんだと……」


 ロジェを見下ろしながら、哀れみの目を向ける翔英。


 ――――何という屈辱だ。


 勝負を挑んだ相手に敗北した挙げ句に、哀れまれるなんて。


 しかも、相手は散々避けようとした戦いだ。

 自分が無理矢理挑んだ戦いだ。


 それに何も出来ずに破れ、「意味がない」と言われる。


 初めてだ。

 こんな気持ちは。


 こんな、『絶対に負けたくない』という気持ちは。


 「……ショウエイ……。……今の内にトドメを刺した方がいいよ……」


 「……それは絶対にない。……お前に殺されそうになったら話は別だけど」


 「……だからさ……。だからそう言ってるんだ……!!!」


 「!!!」


 起き上がるロジェ。

 立ち上がり様に、翔英の胸を切り付ける。


 後ろによろめく翔英だが、反射的に動いたことで深い傷にはなっていない。


 だが、妙だ。


 これまで凌いできたロジェの拳に、『斬られる』なんて。


 「……どうやら、僕の『魔能』が発動したようだね。僕自身も知らなかった、僕の力が」


 「……!! 魔能だと……!? じゃあこの傷も……!!」


 そう言えばそうだった。

 彼は能力を見せていなかった。


 かなりマズいのが今の一発で分かってしまっている。

 素手での戦いに移ってからほぼノーダメージだったのに、いきなりしっかり貰ってしまった。


 「(……どんな能力だ……? 斬撃……? ……っていうか……)」


 てっきり、あの武器がロジェの魔能だと思っていた。


 ……という翔英の予想は正しい。


 「見なよ。ショウエイ。この僕の……腕を」


 「……にぃっ……!?」


 攻撃のタネが分かった。


 ロジェの両腕が赤い剣になっている。

 翔英が手に持っているのと同じだ。


 「どうやら僕の魔能の本当の力は、僕の身体そのものがクレイジーグロウサーになる力のようだね」


 武器と本体と融合。

 進化するのは、翔英だけではなかった。

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