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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第十章
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第三百二話 『無意味な対話』

 「……さあ、戦うよ。ショウエイ」


 一転。

 戦闘態勢に入るロジェ。


 戦うつもりのない翔英は、ロジェの顔つきが変わったことに戸惑っている。


 「……ちょっと待ってくれよロジェ……。今俺たちが戦う理由なんてないだろ……!!? 俺は戦いに来たんじゃないんだって……!!!」


 抜いた拳を引っ込ませるべく、説得に入る翔英。

 だがロジェはもう、ここで戦うと決めている。


 「戦う理由ならあるさ……。僕は魔物で、君は人間なんだから」


 「……ロジェ……。……お前……」


 「さあショウエイ。あの面白い剣を出してくれよ」


 剣を、いや、棒を腰から抜いたロジェ。


 ロジェの武器。

 「クレイジーグロウサー」だ。


 対する翔英は動かない。

 まだ、戦う事を躊躇っている。

 ここでロジェと戦うことは、翔英にとってリスクしかないのだから当然だ。

 

 あの時も、負けた。

 ミネカがいなかったら死んでいた。


 あれから強くなったとはいえ、このままロジェと戦っても、勝ち目があるか分からない。


 何とか、戦いを避ける道を―――― 


 「……なぜ動かないんだ。……それじゃあ、こっちから行くよ」


 ロジェが動いた。

 翔英に突き刺そうと、ただの棒を振り被る。


 「…………くそっ……!!」


 迫り来る敵意に対して、渋々剣を構えた翔英。

 赤く輝く剣を胸に、ロジェの一撃を受け止める。


 「……出たね」


 久方ぶりに見る理屈が分からない不思議な剣。

 翔英本人も勿論だが、彼の武器についても興味は深い。


 前回の戦いでは、この武器の力を吸い取り翔英を追い詰めたロジェ。

 戦いが終わる度にリセットされるため、また只の棒に戻っているが、打ち合うのはリスクが高い。


 だが、剣を出したとはいえ、やはり翔英の戦意は固まらない。


 「……本当に戦わなきゃいけないのか……? ロジェ……お前言ってたじゃねえか……。『刃じゃなくて言葉を通じて知りたい』って……」


 そう言ったロジェ相手ならば、あの時の言葉を実現できると思っていた。

 

 「それは今の俺も同じだ。俺たちは戦う必要なんてない……!! 歴史なんて関係ないだろ……!!」


 翔英がロジェに会いたかったのは、あれから出した考えを伝えるためだ。


 「負けるから」「時間がないから」

 それも否定できないが、ロジェと「和解」したいという気持ちも、初めて会った時から確かに抱いていた本心だ。


 「……まだ、意思が固まらないようだね……ショウエイ……。……残念だけど、今の僕は違うんだ。もう、そんなこと思っていない……」


 「……思ってない……? ……どうしてだよ……!?」


 あの時のロジェはそう思っていた。

 仲間たちの死が考えを変えた。

 

 だが、まだロジェの目は迷っているようだ。

 変わり切ってはいないのは翔英にも伝わってくる。


 しかし、ロジェは迷いを振り払おうと、奥にある思いを吐き出していく。


 「……僕は仲間たちに誓ったんだ……。仲間を死なせないために、君たちと全力で戦うと……!!!」


 「……ロジェ……!! 俺は殺さない……!! 他の皆だって、お前たちが誰かを傷つけようとしなければきっと……無闇に殺そうとはしないよ……!!!」


 「じゃあ聞くが、君はどうやってここに来たんだ!!? 誰の命を足にしたんだ……!?」


 「……それは……さっきも言っただろ……!! 仕方なかったって……!! こっちも殺されそうになってんだから……!! だいたい……最初に仕掛けた来たのはあっちの方だ……!!!」


 「だが事実だろう……!! 君が殺したのは……!!! それに、「他の皆も殺そうとしない」なんて大嘘だ……!!! 魔物を捕らえて実験に使ってる奴がいるなんて話も聞いたことがある……!!! 第一、僕は目の前で君たちに仲間を殺されているんだよ……!!!」


 「………………」


 翔英の口撃が止められた。


 確かにマーノは、公に出来ないような事を魔物を使って行っている。

 ラフェルやソルが逃亡する魔物の追撃に行った時も、自分の力では止めることが出来なかった。

 オーの言葉に丸め込まれてしまった。


 「……分かってくれたかな? ショウエイ。『僕たち』は、戦う運命にあるんだ」


 よりによって、和解できると思っていたロジェにこんな風に言われてしまうとは。

 歴史を否定することの無謀さを嫌でも思い知らされてしまう。


 ……だが、それでも、


 「……!! どうしてだ……!!」


 翔英は戦う運命を避けようとする。


 剣を再び宝石に戻し、ロジェを悲しそうに見つめ出す。


 「……分かったよ。どうやら翔英には、僕への憎しみが足りないらしいね。――――君は忘れていないか? 君の好きなミネカ・ベルギアが、僕のせいで傷ついたことを」


 「……っ……!!」


 「もしかして、今彼女がジャーザンスの所にいるのも、あの時のが関係してるんじゃない?」


 「……それは…………」


 「ビンゴみたいだね。ってことは、僕がいなければ、ミネカ・ベルギアがジャーザンスに捕まることはなかったってわけだ。……どうだい? 君の想い人の仇が、目の前にいるんだよ。戦う理由としても、十分じゃないかな?」


 確かにそうだ。


 ミネカは、ロジェとの戦いで死んだ翔英を助け、意識が戻らなくなった。

 そしてその時の戦いが原因でジャーザンスに目を付けられ、戦いになり、最悪の結末へと繋がってしまった。


 戦う理由は十分にあるのかもしれない。

 

 ……でも、


 「……お前を倒したって、ミネカが帰ってくる訳じゃない……。ミネカのことでお前に恨みが全くない訳じゃないけど、俺が倒したいのは、倒さなきゃいけないのは、ジャーザンスだ。……ロジェと戦う理由にはならない。……だから、退いてくれ」


 まだ否定する。

 頑なに拒む。


 何を言われようとも、殺し合うことはできない。


 問答無用に襲い掛かってくるのではなく、こんな風に戦う理由を考えてくれるのだから尚更だ。

 やはりロジェとは、戦いたくない。


 「……頑固だな……ショウエイ……」


 ロジェもロジェだ。

 戦う理由なんて適当でいいのに、すぐにはそうしようとはしない。


 倒すなら全力の翔英がいいと思っているから。


 「…………よし、分かった。君がどうしても拒むなら、無理矢理にでも戦うようにするしかないね。君にやる気が有ろうが無かろうが、僕は君を殺すよ。いいね?」


 だが、交渉は決裂してしまった。

 平和を望んでいるのは同じはずなのに。


 翔英は無言で、剣を再顕現した。

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