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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第九章
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第三百話 『最終局面』

 ――――逃げなければ。


 逃げなければ、どうせあそこで死体にされていた。

 勝負に出るしか、生き延びる道はない。


 アルシルはダッシュで建物の外に飛び出し、人がいる方へとへと駆けていく。

 町の外れにあるとはいえ、ここは町の中ではある。


 最悪、『誰か』に伝えることさえできれば、自分の仕事は果たせたといえる。


 「(……いたっ……!!)」


 まだ追い付かれる感じはしない。

 彼女の殺気を感じるより先に、走る先に人を見つけることができた。


 「あのっ…………。……!!? 何……!!?」


 しかし、アルシルが声を掛けた瞬間。

 彼のいる場所は、元居た建物の中へと戻っていた。


 「……!! なんだと……!!!」


 狼狽えるアルシルの前には、自身に敵意を向けている魔物が立っている。

 こいつの魔能にやられたようだ。


 「残念だが、お前には死んでもらうぞ。……もう少し我慢してれば、死なずに済んだのに。残念だったな」


 「……くそっ……!!」


 得体の知れない魔物に拳を振り被るアルシル。

 だが、その背後から現れた女性に、


 「……ぐあっ……!!」


 拳を貫かれた。


 アルシルはゆっくりと背後を振り返り、その女性を睨み着けながら勢い良く倒れ込む。


 「一撃とは。さすがだな」


 「まあね」


 「こいつの死体は俺が処理する。お前は一旦、戻っていいぞ。準備ができたら迎えに行くから」


 「わかった。ファンドル」


 現れた魔物はファンドル。


 彼はワープゲートを空間に開場し、その中へとアルシルを葬り去ろうとする。

 

 ……が、


 「……せめて……!! お前を……道ずれにしてやる……!!!」


 辛うじて生きていたアルシルが腕を掴み、仲良く空間の彼方へ向かおうと足掻いた。

 まあ、向かう先は魔凰軍の本部だが。 


 「離しなさい」


 「ぎゃああっ!!!」


 だが、彼の非力な力では彼女を捕まえて置くことなどできず、すぐに剥がされてしまう。

 

 完全に自身の敗北を悟ったアルシルは、使命を果たせなかった無念の感情をぶつけようと、彼女の顔を睨み付けながら飛ばされていった。


 「……くそっ……!! 必ず報いを受けるぞ……!! ティローナ・カルダート……!!!」


 と、目に映る彼女の名前を叫びながら。


 ※※ ※ ※ ※ ※ ※


 「――――ここも、手掛かり無しか……」


 場面は戻り、ショウエイ・キスギ。


 彼がいるのは勿論、魔凰軍の本部の中。

 感知に慣れていない翔英はザラボラスの気配など全く気にすることはなく、ミネカ捜索に身を投じていた。


 ここに来てから、一度も剣を抜いていない。

 いや、抜かずに済んでいる。


 最初に開いた扉の先で出会った、戦闘を望まない戦闘員の魔物。

 彼のような、本来なら総力戦に借り出されているはずが役立たずと認識されている者達が、この辺りには多い。


 それが何よりの幸運だった。


 無駄な戦闘を避け、時間のロスを避け、テンポ良く魔物の基地を調べることができている。


 そして、翔英にとって追い風となっているもう一つが、戦闘を望まない魔物と対話が出来たことだ。


 話し合いできると分かったことは大きい。


 実は、翔英のことを発見している魔物は他にもいるが、一体目と同じマインドの者ばかりで、翔英と彼の様子を見てことで、向こうから手を出さないでいてくれている。


 翔英はそのことには気づいていないが。


 「……!! 広いなここは……!!」


 探し続けて数十分。

 スポーツが一斉に出来るほどの、幅広い部屋に辿り着いた翔英。

 これまでのタイプと打って異なる部屋の登場に、何か手掛かりヘの期待を寄せながら調べ始める。


 ※※ ※ ※ ※ ※ ※


 「――――ねえ、何やってんの? 君たち」


 その同タイミング。

 翔英が今とったばかりの、雑兵用の小部屋が並ぶ通路。


 「……あっ……!! ロジェ様……!! いえ……!! 何でもありません……!!」


 「……ふうん」


 現れたのは、ロジェ。

 彼はレウラの様子を見に此方に向かってきていた。


 話し掛けられたのは、先程翔英と言葉を交わした魔物、及びその同僚達。


 彼らは何かを尾行するような奇妙な様子だったため、ロジェが疑問に感じるのも無理はない。


 「……ねえ、レウラが帰ってきたと思うんだけど、彼女がどんな様子か知ってる?」


 レウラの帰宅場所はすぐ向こう。

 戻ってきているのだから、彼らも何か知っていると思い尋ねるロジェだが、


 「……レウラ様ですか……? いや、見ていませんが……」


 期待通りの答えは返ってこない。


 「……本当……? おかしいな、レウラに渡してたファンドルのスペアが使われたって話なんだけど。レウラが部屋に戻ってきてるはずだよ」


 「……レウラ様の……部屋に……? …………あっ……!!」


 彼は漸く理解した。

 翔英がここにいきなり現れた方法を。


 「(……と、いうことはあいつはレウラ様を倒して来たのか……? それとも奪った……? いや、奪う理由が分からない……。……とにかく……あいつは……)」


 レウラを退ける程の実力がある。


 彼が戦う気であったならば、今自分はこうして生きていないだろう。

 にもかかわらず、彼は刃を向けて来なかった。


 「……やっぱり何かあったの? ……もしかして、レウラじゃない別の誰かがここに来たとか……?」


 「え……!? いや……っ!! そのっ……!!」


 「やっぱりそうなんだね。どっちへ行ったのか知ってる?」


 「え……!! ああー……」


 言うべきか、少し迷う。


 翔英の行き先は勿論把握している。

 でも、ロジェに教えてもいいのだろうか。

 レウラを倒した彼といえども、流石にロジェには勝てないだろう。


 となれば、彼の歩みはここで止まってしまう。

 もう少し、彼の行方を見てみたい気持ちがある。


 ……いや、やっぱり――――


 「……あっちに行きました……」


 正直に話すべきだ。


 彼の戯れ言を思わず鵜呑みにしてしまっていた。

 彼の姿に騙されてしまっていた。


 どうせ彼がここに来た目的も、魔物を倒すために決まっている。

 自分が弱すぎて、偶々目に入らなかったに過ぎない。


 「あっちだね。ありがとう」


 報告を受けたロジェ。

 それ以上の事は聞かずに、直ぐ様そこへと走り出していく。


 「――――この先は……第三大広間……!! 何が来てるんだ……いったい……!!」


 扉を開くロジェ。

 そこには、部屋中を物色しているような男がいた。


 「……!? ……君は……!!」


 「何っ……!!? ……お前……お前は……!!」


 「ショウエイ・キスギ!!」


 「……ロジェ!!」

 

 因縁の対面。

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