第二百九十九話 『孤独な戦い』
「……ここが、奴らの根城か……」
ワープ完了。
ヒナノが飛ばされた場所と同じ。
「魔王の間」ヘと、無事にやって来たヴァナベール。
「……何やら近くにでかい邪気を感じる。ヴァナベールよ、それがザラボラスと見て、間違いないな」
彼の隣に姿を現したバール。
直ぐ様魔王の気配を感じ取り、愛剣に手を掛け周囲に備える。
そして、近くにもう一人。
遅れて立候補したルンベ・ランも、二人と同じ場所で合流する。
だが彼は、あまりに強く感じる圧に足がすくんでしまっている。
「……うむ、そうじゃな。確かにこの気配は、奴の物じゃ」
「……ヴァナベール。この感じ……ザラボラスは戦闘中じゃないか?」
「おそらく、ヒナノちゃんとショウエイちゃんじゃろう。こうしてはおれん。すぐに向かうぞ」
「は……はい……!!」
目的地を見据えたヴァナベール、バール、ルンベ。
覚悟を決め、決戦の地の決戦の地へと目を向ける。
だが、
「…………あれ? リュノンちゃんは?」
リュノンが姿を表さない。
確かに同時にゲートを潜ったのは見ていたにもかかわらず。
「……リュノンは別のところに飛ばされたようだな。……まあ、三人全く同じというのがまず幸運だったか」
「……どうします……!? ヴァナベールさん……!!」
「……リュノンちゃんの居場所が分からない以上、彼の捜索に時間は避けまい。ザラボラスの所へ行くぞ。リュノンちゃんなら、きっと大丈夫じゃ」
ゆっくり考えている時間はない。
目的地は変えず、おおよその位置が分かっている魔王の元ヘ。
「……それに、リュノンちゃんには悪いが、二人の方が運びやすい。さあ、二人ともわしの背中に捕まってくれ」
「……え!?」
「さあ、早く」
「……分かりました……!!」
背中に二人を乗せ、光のように走り出すヴァナベール。
バールが詳しい居場所を案内し、正に最高速度で戦場へと向かっていく。
※※ ※ ※ ※ ※ ※
そしてその、リュノン・アーリー。
大方の予想通り、彼一人だけ別の場所へと飛ばされてしまっていた。
というのも、ヴァナベール達三人が使用したのは、ラスドラーゴ、ダクライズ、ハビニックの持ち物。
リュノンが使用したのは、妹が持っていた奴だ。
ザラボラスの部下四人の行き先は魔王の間であったが、彼らと殆ど関係のないミワルナの移動先は、レウラと同じ様に一時的に本部に設けられていた彼女の私室だ。
「……なんだここ……」
だが私室といっても、ミワルナにとっては「閉じ込められている」という認識だったので、彼女が暴れ回った跡が残っており、そもそも部屋の体を成していない。
「……いや、それより皆は………………いない……!! 俺だけ違うとこに飛んできたのか……!?」
ちょっと待っても現れない仲間達。
元々確定していた訳でもないので、アンラッキーだが受け入れるしかない。
幸いにも、
「……!!? なんだこのバカでかいオーラは……!? そうか……これが、奴の……!!!」
巨大な目印があるので、彼らが集まる所は同じだ。
「……よし……。行こう……。きっと皆も向かってる……」
進むリュノン。
今更逃げるわけには行かない。
こんなところまで来てしまったのだ。
最後まで、戦い通さねば。
――――と、気持ちを入れ半壊した部屋を出たリュノン。
だが、彼の移動手段は走りだ。
ヴァナベールのように、光のように一直線に向こうことはできない。
そしてここは、敵の本拠地である。
主力であるラスドラーゴ達が出払っているとはいえ、無防備というわけではない。
「……!! なんだ貴様は……!! なぜミワルナ様の部屋から……!!」
「ちぃっ……!!」
当然、道中には敵が待ち構えている。
翔英が飛ばされた方角とは対照的に、使命を全うしようとする好戦的な魔物が。
「悪いな、退いてもらうぜ……!! 俺が用あるのは、この先なんでな……!!」
「……侵入者か。まあ、手段は問わない。何故なら、貴様はここで死んでしまうからだ。この『ラウトマン』の手によって……!!」
何という不運か。
奇怪な能力を持つ、ラスドラーゴ配下の魔物。
ヴァナベール達と合流できていたら、こんなやつとの戦いはスキップできたのに。
どうやらリュノンには、まだ乗り越えねばならない壁があるらしい。
急ぐリュノンを前に、ラウトマンが立ちはだかる。
※※ ※ ※ ※ ※ ※
そして――――
中央本部から西に離れた、ある町のある建物。
この場所で、人知れず事件が起こっていた。
「(……ついに……現れたな……!!)」
心の中で興奮と動揺を抑えている男。
聖鳳軍二軍、アルシル・モアノール。
彼が何をするためにここにいるのか。
それは、重要な任務を果たすためである。
アルシルはヴァナベールから、内通者の調査を頼まれていたのだ。
感覚器官に優れている彼は、魔物と繋がっている者の尻尾を捕らえるべく、長い間一人で調査を続けていた。
極秘任務のため、彼の行き先を知る人間は殆どいない。
中央都市襲撃という大事件が起こっていたことも、アルシルの耳には届いていない。
彼に、救援要請が出されていないのも当然だ。
尤も、戦闘を得意としない彼が、中央都市決戦に参戦したとしても、大した成果は挙げられなかっただろうが。
だが、アルシルは自分の仕事をして見せた。
「魔物の匂いが感じられる」と張り込んでいたこの場所に今、とうとう魔物が現れたのだ。
その魔物は、何もない所からいきなり現れた。
アルシルは身を隠しなから、そのまま監視を続ける。
彼の予想が正しければ、ここに『人間』も現れるはずだ。
「(――――来たっ……!!)」
人間の匂い。
彼の粘りが項を成した。
後は顔を確認し、本部に情報を持ち帰るのみ。
「ここまでは順調だな」
魔物が口を開いた。
その言葉を聞いたことで、アルシルに欲が出た。
このまま、魔物の話を聞いてしまおうと。
「……うん、世界が変わるときも近いよ」
人間が口を開いた。
「(この声……!! まさか……!!)」
知っている仲間の声だった。
殆ど確定してしまったとはいえ、やはり内部に敵がいると分かるのは心苦しい。
でも、わかった。
(……後はどうするべきか……。あの人が相手では勝ち目はない……。やはりこのまま……やり過ごすしか……)」
「……と、その前に、あいつをやって置いてくれ。お前ならすぐに終わるだろ」
「!!!」
「うん。分かってる」
「(なにぃ!!?)
近づいてきている。
完全にバレている。
元々分かっていたのか今気付いたのか。
それは、分からないが、とにかく大ピンチだ。
アルシルは勝負に出た。
まだ勝ち目のある「逃亡」という選択に全てを懸けて。




