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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第九章
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第二百九十二話 『古の魔王』

 「――――ここは…………」


 翔英を追い掛けるため、単独で飛び出したヒナノ。

 彼女が飛ばされたのは、やはり魔物の本拠地。


 だが、翔英が飛ばされた場所とは、また別の地点。

 ここは、「魔王の間」だ。


 魔物たちが一斉に飛び立った場所と同じ。

 先程まで、ここにはロジェとミワルナも集合していた。

 しかし今は、誰もいない。


 「……ショウエイくんは…………きっと向こうね……」


 前方に扉が見える。

 この場にいない翔英は、あそこから行ってしまったと予想するヒナノ。


 彼の後を追い掛けるべく、ヒナノもその扉へと向かうが。


 「……!!! な……!! 何……!? この巨大な……!!」


 後方から感じたことのない、途方もない強大な力を感じ取った。

 これまでに自身が遭遇して来た魔物とは比較にならない、先程中央都市で感じられた物よりもさらに強い力だ。


 「……誰……。……いや、間違いない……」


 ここは魔物の総本山。

 感じられるこの巨大な力は、敵の親玉の物だと予感するヒナノ。


 中央都市に来ていたのはこいつの部下。

 ボスはここで待機していたのだということも。


 「……私一人で来ちゃったのミスったかな……。……いや、早くショウエイくんを探さなきゃ……。…………まさか……」


 魔王の間から出ようとするヒナノ。

 だが、翔英が向かったのは、この先という可能性を考える。

 

 この力の持ち主。

 一人で立ち向かえば、死は避けられない。


 「……いやいや、ショウエイくんならきっと、勝ち目のない戦いは避けるはず。……ここには、助ける命もないはずだし……」


 翔英が向かった先は、この部屋の外という結論を出すヒナノ。

 今度こそ、翔英を追い掛けるべく、進んでいく。

 ……つもりだったが。


 「何処へ行く?」


 「……!!?」


 轟くような声が頭の中に鳴り響き、ヒナノの動きは停止した。

 間違いなく、向こうから飛んできた声。


 ヒナノは後方一転へと、警戒を集中させる。


 逃亡することはできない。

 背を向ければ、扉に手を掛けるより前に首が落ちる匂いがしたから。


 「……貴方は……誰……!!? 出てきなさい……!!!」


 大声を出して恐怖を振り払おうとするヒナノ。

 その声には、普段の自信は宿っていない。


 「言われなくても、今行くところだ」


 「え……!!」


 ヒナノの視線の先にある壁が開き、その奥からゆっくりと歩いてくる影。

 ヒナノはただ、彼が姿を見せるのを見ていることしか出来ない。


 不意打ちが通じるような相手ではない。

 それに、戦闘を自分から仕掛けるのは得策ではない。


 「まさか最初にここに来るのが、人間とはね。ちょっとだけ驚いたよ」


 姿を現した。


 巨大。

 だが、スマートな体型をした、壮年の魔物。


 シンプルな見た目をしているが、それ故の怖さが中心には溢れている。


 「……貴方は……?」


 「ザラボラス。お前たちの呼び名で、魔王と呼ばれる者だよ」


 「……!! ザラボラスって……まさか……!!」


 「そう。そのまさかだ。四十年前に、お前たちの頭に敗れた、敗者だね」


 ヒナノ・スエリアは、いや、聖鳳軍に所属している者ならば、その名前を知らない筈もない。

 彼こそ、聖鳳軍が誕生するきっかけとなった魔物であり、ラスドラーゴ達を率いて、人間に戦いを仕掛けた男。


 いうならば、全ての魔物の創始者だ。


 「……なるほどね……。それならこの馬鹿みたいな圧にも納得がいくわ……。……それにしても、生きていたなんてね……。話では、貴方は封印されたと聞いていたけれど……」


 「復活したのだよ。あの時のリベンジのためにね」


 「……寝てたらいいのにね」


 「ああ。まだそのつもりだった。何しろ、まだ力が戻りきっていないのでな。だから今は、ラスドラーゴ達に任せたのだ」


 「(……これで、戻りきってないというの……?)」


 話でしか聞いたことが無かった伝説の魔物。

 実際に目の当たりし、その圧倒的な生物としての力を感じとる。


 もし彼がフルパワーになってしまえば、今度こそ、人間が敗北する時が来てしまうであろうことも。


 「……だが、この四十年で、人間も大きく進化していたようだな。ダクライズ、マビュート、ハビニックまで始末するとは。予想外だったよ。町へ向かった俺の部下も、ラスドラーゴ一人になってしまったな」


 「……で、なぜ今、貴方は出てきたのかしら……?」


 「それも今言うつもりだった。ラスドラーゴ一人では、聖鳳軍を全滅させることはできない。ダクライズ達を殺すほどの相手だしな。となれば、俺が行くしかない。でだ、お客さんをもてなしがてら、ブランクを取り戻そうと思ってな」


 「……そういうこと……」


 やはり戦闘は避けられない。

 

 だが、ザラボラスの台詞から、仲間が駆けつけてくれることも期待できる。

 

 それに、ただで負けてなんかいられない。

 敵を目の前にして、逃げるわけにはいかない。

 

 ティローナだって、ソルだって命を懸けた。

 今度は、自分の番だ。

   

 ヒナノ・スエリアは顔を上げた。


 それに、少し安心したこともある。


 翔英は、こいつと戦ってはいないようだ。

 彼は別の場所に行っている。


 「いいわ。どうせ貴方を倒さないと、平和は来ないものね。ここで会ったからには、覚悟してもらうわ」


 震えがない訳じゃない。

 でも、やるからには全力でやるしかない。


 まだ全快ではないと言っていたのが救いだ。


 「いい顔だな。やる気になってもらって嬉しいよ。どれくらいその顔が持つか楽しみだね」


 対する魔王も、四十年ぶりに拳を構えた。

 

 ヒナノ・スエリア。

 寝起き一発目には申し分の無い相手だ。


 「……と、その前にだ。申し訳ないが、場所を変えるよ」


 「……!! なんですって……!?」


 「何をそんな驚いているんだ。一応ね、この部屋はこれからも大事に使っていく部屋なんだよ。俺やお前の力で、壊れてしまったら悲しいからね」


 「……安心しなさい。壊さないように戦ってあげるから」


 「いいから」


 「!!?」


 ヒナノが反応するよりも速く、ザラボラスは足を離していた。

 岩盤に叩きつけるようにヒナノを運びながら、部屋を飛び出していく。


 「ようし。ここならいくら暴れても構わない。さあ、始めようかな」


 「…………乱暴ね」


 辿り着いたのは地下。

 本拠地の外。


 先んじて、敵将との戦いが始まった。


 ※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 舞台は戻り、中央都市、東。


 残された最後の魔物、司令ラスドラーゴ。

 そして、聖鳳軍最古参、ヴァナベール。

 

 両者の戦いも、熾烈を極めていた。

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