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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第九章
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第二百九十一話 『兄妹』

 ――――倒れる。


 ミワルナの能力。

 自身にとってもまた、最悪の力だった。


 彼女の右腕が自分の顔をかすめ、顔半分を塵に変えた。 


 「…………ルージェ……」


 半分となった妹の顔を見つめるリュノン。

 彼女の瞳が微かに動く。


 着ているドレス、そして、残った肉体も溶けていくが、

 呪縛から解放されたような、穏やかな表情をしている。

  

 「…………これしか……なかったのかな……」


 涙声でリュノンが呟く。

 

 人生を懸けて探し続けてきた家族との再会が、こんな形で終わってしまうなんて。

 あまりにも、心が痛すぎる。


 「……!! ルージェ……!!」


 既に人間ではなくなっていたルージェ。

 その残骸を一切残すことなく、完全に世界から姿を消した。


 消滅する直前。

 残された彼女の口は、僅かに動きを見せていた。


 言葉は聞こえなかったが、何かを伝えようとしていたことは、確かに兄へと伝わった。


 「…………ルージェ……」


 呆然と立ち尽くすリュノン。

 真っ青な空を見上げ、静かに涙を垂れ流す。


 まだ心は落ち着かない。

 しかし、もうルージェはこの世にはいない。


 「……分かったよ、ルージェ……」


 それでもリュノンは、何とか立ち上がろうと、生きようと前を向く。


 最後の衝突の寸前。

 言葉にせずとも、ルージェの想いが伝わった。


 『生きてね』と。


 それを感じたリュノンは、反射的に足を動かすに至った。

 「生きる」という選択肢を選ぶために。


 そしてそれが、ルージェの望みだったのだろう。


 記憶を取り戻してからの彼女の一連の行動。

 あれは、この結末への道を作っていたのだと、今となってはそう思う。


 ルージェは、兄との戦いで生涯を終えるつもりだったのだろうと。


 「……見ていてくれ……。ルージェ……こんなお兄ちゃんだけど、生きて見せるよ……」


 また、ルージェは兄との問答を通じて、兄が生きる「意味」を改めて知った。

 自分と別れてからも、兄は誰かを助け続けてきたのだと、分かった。

 

 そして、自分が奪ってしまった分、兄に誰かを助けて欲しいと思った。


 本来ならば罪を犯した自分がやらなければならない。

 が、もう人しては生きられないし、何より生きる資格はもうない。


 だから「妹」として、兄を頼りにした。

 絶望しているであろう兄に、自分のことを追い掛けて欲しくないから。

 生きていて欲しいから。


 結果的にその想いは、リュノンへと確かに伝わった。


 グランデとの決着をつけた後、天国にいると思っていた妹の元へ逝こうとしていたリュノン。

 その彼が、最愛の妹を自分の手に掛けて尚、すぐに生きる道を選ぶことができた。


 「……まだ、これからだよな……。……ルージェ……」


 心体共に、ボロボロの彼。

 重過ぎる悲しみと罪を背負い、リュノンは再び歩き始めた。

 

 ※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


 ミワルナが死亡したのとほぼ同時刻、


 中央都市の北。

 ダクライズの戦いが起こった場所。

 そこから少し東に行った地点。


 「……そんな物が……」


 「はい。お二方が倒したというその魔物も、おそらく持っていたと思います」


 話しているのは、ルンべ・ランとバール・バーランド。

 そして、


 「……じゃ、向こう戻った方がええね」


 ルナレジェン・ペサンテ。


 ダクライズ撃破後、マーノからの治療を受けたルナとバール。

 少し休憩した後、ゆっくりと中央へと歩いていた。


 そこで、町中を走っていたルンべに会った訳だ。


 「……そいつを使えば、敵の本拠地に行けるんやろ? いつ使うかはさておき、そいつは回収しとくに越したことはないな」


 「……向かう先が同じかは分からんが、一人で使うのは危険だろう。この町に侵入した巨大な邪気は一つではなかった。そいつらを全て確実に撃退し、全て回収してから使うべきだ」


 「……いえ、それが……一人既に、向かっています……」


 「なんじゃと……!? 誰じゃ……!?」


 「……ショウエイ・キスギさんです……」


 黙っていようとも考えたが、翔英を助けに行って欲しいと考えているルンべ。

 この二人にも、彼が単独で出撃したことを話す。


 「……ショウエイ……キスギ……。……奴か……」


 一度対戦したことのある彼のことを思い出すバール。

 納得のできる名前だ。


 「無茶すんなあ、ショウエイくん」


 ルナレジェンはあまり驚いた様子はない。

 むしろ、どこか嬉しそうな口元だ。


 「……ですので、お二人にも、彼の元へ向かって欲しいのです。私では力不足……。でも、ショウエイさんが心配で……」


 数が限られた移動手段。

 自分が行きたい気持ちは山々だが、実力者に譲るべきだと考えるルンべ。

 

 そして、友を助けるべく、二人に早期の使用を促す。


 だが、


 「いや、ショウエイくんなら、大丈夫やろ」


 ルナレジェンに拒否された。

 

 「……え……? 大丈夫って……」


 「それよりも、バー婆の言う通り、残りを回収して一気に使った方がいい。一人ずつよりも、残った戦力を同時にぶつけるべきや」


 冷静に答えるルナレジェン。

 確かにその通りかもしれないが、彼への心配が強いルンべは言葉に詰まる。


 「……その通りじゃな。ショウエイ・キスギは自分の意思で一人で行ったのだろ? それにもし、一人では勝てなくても、同時に掛かれば勝てる相手だったらどうする? 我々には世界が懸かっているのだ。奴一人のために、焦る必要はない」


 バールもルナに同調する。

 さすがにこの二人相手では、ルンべも反論することができない。


 二人の言葉を黙って飲み込んだ。


 「……分かりました……。では、私はまた、誰かに知らせてきます」


 「うむ」


 「了解」


 また、走り出すルンべ。

 ルナとバールは、足を探しに戦場へと戻った。


 ※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 

 

 そして、


 ヒナノ・スエリア。


 ルンべから情報を共有されたヒナノ。

 一人先に飛び出したという翔英の後を追うべく、彼が使った物と同じ玉を探していた。


 「――――あった……!! これね……!!!」


 マビュート戦が起こった地点。

 転がっていた紫の玉を無事発見した。


 本来ならば、誰かに共有するべきだろう。

 使うとしても、一人で使うべきではないだろう。


 事実、ダクライズが持っていたのは回収されようとし、各地にはハビニック、ミワルナがそれぞれ所有していた物が散らばっている。


 だが、


 「今、行くわね……!! ショウエイくん……!!!」


 先に行ってしまった彼のため。

 弟のように思っている彼のために。


 ヒナノは、町から姿を消した。

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