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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第九章
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第二百九十話  『ルージェ』

 一番防がなければならないこと。

 

 これ以上ルージェの手が汚れること。

 誰かの平和がルージェの手で、脅かされること。


 それだけは――――何としても。


 リュノンは武器を手にし、立ち上がった。

 そして、揺らぐ戦意を彼女に固めた。


 「(……今の俺の使命は……ルージェを止めることだ……!! 例え戦いになったとしても……!! ルージェの罪は……俺の罪だから……!!!)」


 戦う覚悟を決める。

 最悪を避けるために。


 「……ようやく、戦う気になったのね」


 その姿を見たルージェも笑顔を見せる。

 彼女の望みは、兄との決着をつけること。


 そして――――


 「……ああ、お前を止める。お前がこれ以上、苦しまないように」


 「……うるさい……!!」


 ルージェの魔能が暴れ回る。

 だが、戦闘モードになったリュノンには当たらない。

 ミワルナの時と同じ様に、一発一発を確実に回避する。


 ……しかし、


 リュノンはルージェに近付けないでいた。

 

 リュノンの場合、勝利するためには、敵に接近することが不可欠だ。

 だが、妹に刃を向けることが出来ない。


 戦う覚悟は決まった。

 そう思ったはずなのに。


 ルージェを傷つけることが、どうしても出来ない。


 「どうしたの!!? 避けてばっかりじゃ!! あたしを止めることなんてできないわよ!

!!」


 それに、近付いたとして、またあの力をやられたら消されてしまう。

 戦意を固めたところで、精神的にも能力的にも防戦一方なのは変わらない。


 「(……やっぱり俺には、勝てないのか…………。……んっ……!!?)」


 ……かと思ったが。

 避けているうちに異変と作戦を思い付く。


 能力のインターバルが長くなっている。

 先程よりも回避に余裕がある。

 体力の消費を抑えながら、距離を近付けることができている。


 そして、作戦。

 鍵は分身。


 背後に出現させて近づかせ、本体に夢中になっている間に接触させる。

 もしあれが発動されたとしても、食らう前に消してしまえば問題はない。


 能力の併用は出来ないはず。

 こっちが遅くなっていることから、あっちの発動にも時間が掛かるかもしれない。


 「よしっ……!!」


 回避しながら、ルージェの背後に分身設置。

 ルージェは気付かない。

 狙い通りに、攻撃を続けるルージェの死角から分身を近付かせる。


 「……!! くっ……くそっ……!!」


 こっそり拳を振り上げるリュノン。

 だがその拳は着地点を見失う。


 見えるはルージェの後頭部。

 大切な彼女の一部だ。


 「(……いや、違う……!! 決めただろうが……!! ルージェを止めるって……!!!)」


 一回止めた腕。

 再度、伸ばす。


 「痛っ!!? 何!?」


 「ぬああっ!!!」


 「うげぇ!!」


 ルージェを殴り飛ばした。


 殴られた先でリュノンを見上げるルージェ。

 破壊の力は使わずに、ゆっくりと立ち上がる。


 「……そういえばお兄ちゃん、そんな力を使えるようになってたんだったね。びっくりしたよ」


 「……………」


 手が痛い。

 心が痛い。

 これで終わりじゃないなんて。


 「……でも、嬉しいな。お兄ちゃんが私を殴ってくれるなんて。決めてくれたんだね。私を倒してくれるって」


 「…………ああ。『倒す』……な。またお前と、一緒に生きるために」


 「…………は? なによそれ。……まだそんなこと言ってるの!? ……まだまだ……足りないわねっ!!!」


 喜びを見せたルージェだったが、すぐに怒りに逆戻り。

 近くに突っ立っていた分身リュノンに両手を振り下ろす。


 本体が慌てて分身を消去し、即死攻撃を回避する。


 しかし、


 「はぁっ……!!!」


 このまま攻撃しても埒が明かないと考えたのか。

 標的は、リュノンから町へと変わった。


 ルージェはリュノンに背を向けて走りだし、まだ戦いの影響を受けていない民家を削り出す。


 「!! やめろ……!! ルージェ……!!」

 

 追い掛けるリュノン。

 逃げながら壊すルージェ。


 身体がないためか。

 ルージェも結構足が速く、スピードに自信ありのリュノンが中々追いつけない。

 

 「……!! ルージェ……」


 走りを止めたルージェ。

 此方を振り返り、仁王立ちで待ち構える。

 

 場所は、町の出入口付近。

 とりあえずスタート地点からここまで壊しきったようだ。


 「……ルージェ……!!! もうやめてくれよ……!! ……何やってんだよお前!!!」


 「お兄ちゃんが私を殺そうとしないからでしょ!!? なんて情けないの!!? それでも……私のお兄ちゃんなの!!?」


 「…………ルージェ……」


 「これを見てよ!!!」


 戸惑うリュノンに、両手を掲げるルージェ。

 旅行者にガイドするように、崩壊した町をアピールする。


 「これを見ても何も思わないわけ!!? お兄ちゃんのせいだよ!? お兄ちゃんのせいで、この町は消え去っていく。今度は向こうに行くわ。あなたが私を殺すまで、私は壊し続ける!!!」


 ルージェの強い宣言。

 息を切らしながら悲しそうに見つめるリュノン。


 しかしルージェのその姿は、もうそれしかないのだと強く思わせる。


 「……分かったよ、ルージェ……。俺は……お前を殺すよ……」


 破壊を宣言した妹に対して、今度は拳ではなく剣を構えた。

 

 それを見たルージェは、穏やかな笑顔を見せた。


 ルージェの笑顔は、リュノンの心を惑わせる力があった。


 「……それでいいの。お兄ちゃん。――――勝負しましょ? 遠距離攻撃は使わない。確実に仕留めるために、私はあえて接近する。……この距離で喰らえば、木端微塵よ」


 「……ああ、いいよ。分かった」


 ただただ回避を強いられ、近づくこともできなかったリュノンにとっては好都合。

 

 ルージェの言葉に曇りはない。

 敵だが妹の言葉として、兄の耳に入る。


 「……じゃあ、行くよ。お兄ちゃん」


 「……ああ」


 ルージェが仕掛ける。

 リュノンは迎え撃つ。


 ルージェは闇と繋がる右腕を。

 リュノンは大義の元に振り続けた短剣を。

 同時に振り下ろした。


 覚悟を決めたリュノンの一閃。

 繰り出した右腕を捉える。


 だが、斬り付けた剣は粉微塵になり、さらにリュノンへと手が伸びて来る。


 これが触れたら、死。

 リュノンに危機への情報が流れる。


 と、同時に、


 妹の声が、頭の中に響き渡った。


 『お兄ちゃん、生きてね』


 目が合った。

 ルージェは優しく頷いていた。


 リュノンは反射的に、妹の腕を蹴り飛ばした。


 蹴り飛ばした右手は自身の顔の方へ。

 残酷な軌道を描きながら、右半分をかすめた。


 ルージェは、動かなくなっていた。

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