第二百八十六話 『戻る光』
大体は分かった。
相手の位置を強制的に移動させる能力。
おそらく彼女本体は中央都市にいる筈だ。
発動条件云々は後で調べればいい。
「君の魔能に興味が湧いたよ」
マーノが動く。
異空間から、ドローン兵器を取り出した。
「でも、これで終わらせてもらう」
魔力や技術を込めた渾身のドローンを中央都市の方向へ飛ばすマーノ。
念を込めれば、爆弾や銃弾を落とす代物だ。
搭載された機能により、下方の映像を確認することも可能。
彼の知識と世界が生み出した力だ。
「――――一旦能力の効果は終了している。これなら、当たる筈だ」
一方のメイティーは、
「うわー。どうなっちゃってるんですかー? ミワルナ様ー」
怒りの余りに周囲を破壊していく主の姿を心配そうに見ていた。
勝手に帰ったら後で本当に殺されそうだと自分の心配も忘れない。
「しょうがないー。ミワルナ様が終わるのを待ちますかー」
あの調子ならばミワルナの勝利は近いだろう。
マーノが戻ってくることもないだろうし、周りにも敵はいない。
メイティーはもう少し、この都市に留まることにした。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そして――――
その、リュノン対ミワルナ。
「くそっ……!! 近付けもしねえで……どうやって倒せば……!!!」
ミワルナの遠距離攻撃を回避しながら、リュノンが頭を巡らせる。
飛び道具を持っていない自分に勝ち筋があるのだろうか。
いや、それ以前に、あの妙な身体のどこを斬ればいいのかも分からない。
「逃亡」という考えが頭によぎる。
こいつと相性のいい味方を探して来ようかと思う。
……いや、それはダメだ。
そうしたらまたこいつは、町を破壊し続ける。
たとえ勝機が無かろうが、こいつから目を離してはいけない。
動ける自分が、こいつを止め続けなければならない。
リュノンに、逃げるという選択は選べない。
「ほんっっっとによく避けるわね!!! さっさと死ねって!!!」
破壊を止めないミワルナ。
回避を辞めないリュノン。
リュノンの狙い。
奴の動きが鈍ること。
体力、魔力切れだ。
確証の無い、狙いだが。
「(……俺とあいつ……どっちが先にバテるか……)」
と言っても、望みは殆どない。
――――とそこへ、
「んー。なんだあれー」
マーノが飛ばして来た兵器が顔を見せた。
最初に気付いたのはメイティー。
正面から飛んできたためリュノンも気づく。
だが、ミワルナからは死角なので彼女は気づいていない。
それよりも、リュノンを消そうとするのに頭がいっぱいだ。
「(……なんだあれは……………?」)
リュノンも一瞬「それ」について考える。
だが、
「こっちに向かってくるー」
危険を察知したメイティーがその場から離れ、ドローンも彼女を追尾。
すぐに離れて行ったので、速攻で考えるのを止める。
そもそも、それどころじゃない。
「……見えるよ、君の姿が」
逃亡するメイティーを遠くから兵器を通じて追うマーノ。
メイティーに反撃の手立てはない。
「行くよ」
そして、上空から彼女に爆弾を落とした。
やる気のない悲鳴を上げながら、爆風に見舞われるメイティー。
すぐに立ち上がりまた逃げようとする
が、
「発射」
「ぐえー」
更に放たれた銃弾が、メイティーの胸を貫く。
彼女は地にうずくまった。
「勝負ありだね」
「……ぐー」
容赦なく銃口を向けるマーノ。
攻撃手段を持たないメイティーに、勝ち目など有るはずがない。
「……なんなんですかー……? いったい、なんなんですかー!? これ……」
「……すまない、君が何を言っているのかは分からない。――――でも、君の魔能は、私の手により、必ず世界の役に立つだろう。安心して逝くといい」
スイッチオン。
トドメの爆弾が、少女に落とされた。
「ぐああああー」
直撃。
到底耐えられるものではなく、メイティーの肉体は炎と共に塵と化していく。
「……ひどいですねー……。……私、何もしてないのにー……」
最後まで眠たそうな目を崩すことなく、彼女は世界から姿を消した。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「(――――ダメだ……!! 奴の動きは落ちない……!! 先にガス欠になるのは……俺の方だ……!!!)」
邪悪に立ち向かい続けたリュノン。
だが、今にも限界が訪れようとしていた。
勝ち目が見えない。
身体が動かない。
終わりの見えない戦いに、リュノンの足は折れた。
「やっっっと止まりやがったかァ!!! 無駄な努力お疲れさんゴミクズ!!!」
その隙を見逃す筈が無い。
ミワルナは、別れの一撃を振り下ろした。
落とされる闇が見える。
この闇の中に入れば、身体は粉々にかえるだろう。
「(…………ごめん……みんな……後は頼んだ……。……ルージェ、今行く……)」
走馬灯か。
これまでの人生に意味を見つける時間がリュノンに訪れる。
――――意味はあった。
そう、言い切れる。
次の世界ではもっと、悔いの無いように……。
「…………ん……?」
訪れた時間。
長い。
まだ意識も身体も残っている。
すぐそこに、破壊は迫っていたのに。
「……あれ……」
上を見たリュノン。
気づけば、見えなくなっていた。
まだ、生きている。
「あれ」は、消えている。
「……どうなって…………ん……!?」
少し離れた所に見える敵。
頭を抱えながら、止まっている。
「…………メイティー……?」
リュノンにトドメを刺す直前。
マーノの手に掛かり、副官が命を落とした。
その姿を直接見ていたわけではなかったが、彼女が命を落としたショックは、嫌というほど頭の中に流れ込んできた。
テレパシーが使えるほどの関係だ。
不思議ではない。
その影響で、ミワルナの思考と行動は停止していた。
「今しかねえ!!!」
理由は分からないが、絶好のチャンスが訪れたリュノン。
この機会を逃すまいと、全力でミワルナとの距離を詰めていく。
「くらえっ!!!」
猛ダッシュの行く先。
うつむいているミワルナの頭に剣を振り下ろす――――
「……!!!!」
――――手は、寸前で動きを止めた。
接近に気付いたのか。
ミワルナが顔を上げ、目が合った。
その目は、これまでの彼女が見せていた光一つない闇そのものの瞳とは一線を画す。
慈愛に満ちたような、想う心に溢れた物だった。
だから動きが止まった。
それもある。
だが、それ以上に、
「…………いや……そんなわけ…………」
大切な記憶に宿る瞳と重なっていたことが、リュノンの刃を止めてしまった。




