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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第九章
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第二百八十五話 『逃げ専』

 ――――妙だ……。


 ミワルナの副官、メイティーとの戦闘に入ったマーノ。

 いや、まだ戦闘という戦闘には入れていない。


 「戦うとする」なんて言っていた癖に、メイティーはマーノに背を向け、ひたすら逃げていた。


 だがここまではいい。

 戦うと思っていたのに背を向けて逃亡するのは予想外だったが、別にそれは驚くことじゃない。


 マーノが妙だと言ったのは、一向に彼女の元に辿り着けないことだ。


 どれだけ走っても追い付けない。

 メイティーの背中に、近付けもしない。


 逃げ足が速いのは間違いない。

 が、ここまで追い付けないものだろうか。


 「……よし……」


 数分追いかけっこをした後、マーノは決心する。

 メイティーの撃破を後回しにすることを。


 逃げ回るだけの彼女を執拗に追いかける必要は無い。

 むしろ、リュノンやヴァナベールの救援に向かう方が良いだろう。


 メイティーの背中を見送り、マーノは反対方向へと走り出した。

 まずはリュノンの元へ向かうつもりだ。


 ――――だが、


 「……!? これは……!!」


 振り向いたマーノ。

 そこでは、メイティーが走っていた。


 「……どういう……」


 元の方向を振り返る。

 だが、そこでも同じ背中が見える。


 そこだけではない。


 何処の方角へ向かっても、少し先でメイティーが背を向けながら逃げている。


 「……幻覚か……? ……ほぼ間違いなく、彼女の魔能によるものだが……」


 彼女を追いかけている間に、何らかの発動条件を満たし、彼女のステージに誘い込まれてしまっていたようだ。

 目に移る光景も街の物ではあるが、どこか様子が変だ。

 こんなに長く、道が真っ直ぐ続いていた筈はない。

 

 マーノはここで、彼女の「戦うとする」という言葉の意味を理解した。

 これこそが、彼女の『戦い』なのだ。


 「……だが、無敵ということはないはずだ。破る方法がきっとある」


 マーノは立ち止まり、周囲の観察に入った。

 

 これまで数え切れないほどの魔能を目にしてきた彼。

 何か分からない程の簡単な発動条件で、突破口の無い力など使用できないと分かっている。


 重要なのは、本物の彼女はどこかということ。


 どの方角を見てもほぼ同じ距離の所で走っている。

 ここから見える彼女が、本物である可能性は限りなく低い。


 「……いや、待てよ……。彼女、少しずつ離れて行っている……!!」


 止まったことで分かった。

 メイティーはマーノとの一定の距離にいるのではなく、今も距離を伸ばし続けている。

 このまま行けば、数十秒後には視界から消える計算だ。


 「……嫌な予感がする……!!」


 それを見たマーノはまた走り出した。


 全力で飛ばし、メイティーとの距離を再び縮める。

 だがやはり、ある距離を境に近付けなくなってしまう。

 今、近付ける場所は、ここが限界のようだ。


 「おー。やっぱり、いい勘してますねー」


 再び追い掛けて来るマーノに感心するメイティー。


 だが、マーノの予想とは異なり、見えているメイティーは本体である。

 

 彼女の能力による作用で、マーノの視線の方向へと瞬時に移動しているのだ。

 彼女の能力は、ターゲットに見られていないと発動できないから。


 もちろん、マーノの身体も本物である。


 ただ、町の光景は現実の物ではない。

 

 メイティーの能力で作った空間に、マーノとメイティーが入っているという認識だ。


 「でもー。私には追い付けませんよー」


 どんどんとマーノとの距離を伸ばしていくメイティー。

 普通に走っているマーノの体力は徐々に減っていくし、一定の所から近付くことが出来ない。


 追い付き様がない。


 「……くっ……!! 一体どこまで行くつもりなんだ……!! 彼女は……!!」


 彼女の狙いは自分を振り切ることだと予想するマーノ。

 必死の走りで、彼女の背中を追い続ける。


 「結構体力ありますねー。それに頭も切れるー。ですが、そういう人ほどー。私の力は有効になるんですよー」


 「埒が明かない。こいつを使ってやる……!!」


 立ち止まるマーノ。

 ポケットから液体が入った容器を取り出した。 

 そして、それを辺りに振り撒く。


 すると、異空間が口を開いた。


 「えー。あれってー、完全に魔能じゃないですかー。あの人、人間じゃないのー?」


 突然の魔物の技術に、逃げることが使命のメイティーも思わず振り向いてしまう。

 そのマーノは、開いた空間から重火器を取り出した。


 「この距離なら、君を撃てる」


 この世界の魔法と高い技術を組み合わせて作った彼の武器が牙を向く。

 逃げていくメイティーに向けて、ロケットランチャーが発射された。


 「おー。すごい武器ですねー。でもー」


 「!! やはり駄目か……!!」


 「今の私には当たりませんよー」


 飛ばした兵器は、あの地点で消え去ってしまった。

 やはり人だけでなく、飛び道具も彼女に届くことはないようだ。


 「それにー。この勝負は私の勝ちですねー」


 捕えた魔物から得た魔能を使用したことで立ち止まったマーノ。

 その他諸々の時間もあり、メイティーがマーノの視界から完全に消えた。


 「……さて、どうなるんだ……」


 あのまま走っていてもどうせ追い付けないことは分かっていた。

 飛び道具が通用しないのならば、こうなるのは仕方ないと割り切っていた。


 即死、なんてことは流石にない筈だが。


 「……!? ここは……!!?」


 瞬きの間に、マーノの光景が変わり果てた。


 辺りは崖や木々。

 この場所は、遠く離れた町と町を繋ぐ道だ。


 彼女は見えなくなっている。

 これは本物の景色らしい。


 一方のメイティーは――――


 「はー。よかったー」


 二人が戦いを始めた場所でホッとしていた。

 すぐ近くでは、リュノンとミワルナが戦っている場所だ。


 「逃亡成功ー」


 メイティーの魔能。

 

 十秒間背中を見せ続けることで発動する。

 標的となった者は、強制的にメイティーとの追い掛けっこに巻き込まれる。

 

 絶対に追い付けない追い掛けっこに。


 メイティーを見失うと、更なる能力が発動する。


 二人が走った距離の合計分、最初に走り出した場所へと転送され、メイティーは元の場所に戻る。


 彼女の能力は、逃亡専門。


 相手を傷つけることもなく、ただただ自分が逃げられる状況を作る。


 これが、メイティーの戦い方だ。


 「じゃー、帰ろっかなー」


 マーノを遥か遠くへと飛ばしたメイティー。

 帰宅の準備に入る。


 だが、


 「うわー。何だろうこの音ー」


 ミワルナの破壊音に足を止められ、一応様子を見に行くことにした。


 そして、マーノも、


 「……これを使うか……」


 別の兵器を用いる。

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