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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第九章
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第二百八十話 『勝利のビジョン』

 「……愚かな……。……それがお前の狙いだったのか……?」


 突撃を選んだレランカに呆れるハビニック。

 何か作戦があるのだと思っていたのに、とんだ期待外れな行動だ。


 ハビニックは手に持つ凶器をレランカに向けた。


 「……くたばるがいい……」


 高速で伸びて来る回転する刃。

 レランカの急所へと一直線に飛んで来る。


 「くっ……!!」


 数度見たこともあり、ギリギリ急所を外すレランカ。

 だが完全な回避とはいかず、身体を削りながら掠めていく。


 「ううっ……!!」


 積み重なったダメージ。

 レランカの足を奪い、再び彼女を跪かせる。


 「……終わりだ……」


 膝を着いたレランカ。

 彼女の首に狙いを定めるハビニック。


 今度はどう見ても、避けられそうにない。


 ――――でも、


 「(……このまま、なんにもしねえで終われるか? 一泡吹かすこともできねえで? ――――馬鹿言っちゃいけねえよ。アタシは、レランカ・レルンだぜ……!!)」


 希望は捨てない。

 

 レランカは、迫る強敵を睨み付けた。


 「(……へっ……来たぜっ……!!)」


 すると、レランカの脳内に先と同じ映像が流れ始めた。

 命の危機に瀕したことで、もう一度未来への扉を開けた。


 「(見えるぜ……!! アタシの死ぬ未来が……!!)」


 脳内には自分が貫かれる姿が映る。

 

 間違いなくこれは、数秒後に待ち受ける自身の未来。


 急に自分の死ぬ映像が映っても、全く動揺しないレランカの気力。

 相も変わらず不敵な笑みを見せながら、再び身体を起こした。


 仕掛けるハビニック。

 ラルゴートを伸ばすが、


 来る場所を視ていたレランカは、難なくそれを回避した。


 「……!! ……避けた……?」


 「よっしゃあ!! やりい!!」


 傷ついた身体での驚異的な回避。

 思わずハビニックも動揺を口にする。


 「……一度避けたからなんだ……? ……まぐれでそんな顔をされては困るな……!!」


 すかさず刀身と意識を戻したハビニック。

 再発射の構えに入る。

 

 ――――が、


 「……!? ……タフな奴だ……」


 「それだけが取り柄なんでな!!」


 後ろから忍び寄ったフェルフラムが、ハビニックの身体を抑え込んだ。

 

 フェルフラムが作った僅かな時間。

 その間に、レランカがもう一度扉を開く。


 「(……見える……見えるぜ……!!)」


 すぐに突撃するレランカ。

 ドスベセスを片手に、ハビニックへと斬り掛かる。


 「……またそれか……。……いい加減に学べ……。……俺には当たらんぞ……!!」


 「ぐああああ!!!」


 ラルゴートを逆方向に発射させ、フェルフラムの拘束を一瞬で解くハビニック。

 これまで通り、レランカの攻撃を軽く躱しに入る。


 「おらっ……!!」


 「……無意味……!!」


 レランカの攻撃。

 ハビニックは楽々と回避する。


 ――――ことができなかった。


 「にっ……!!?」


 斬り掛かったタイミングでドスベセスの持ち手を変え、左手でゴールを決めた。

 

 斬ったのはハビニックの胴体ど真ん中。

 頑強なハビニックの肉体は、綺麗に真っ二つになった。


 「……はっ……!! 見たかコラァ!!!」


 レランカの記憶魔法。

 彼女の強い意志が命の危機で花開き、明日への進化を促した。


 触れている箇所に宿る『未来の記憶』を読める力を。


 ハビニックがどこにペラッと避けて来るのか。

 覚醒したレランカには、手に取るように分かった。


 来る場所が分かっているハビニックの上を行く、避ける場所が分かっていたレランカ。

 

 戦闘開始直後からひたすらに狙っていた必殺が、ようやく実を結んだ。


 「……さっきの回避といい……まさか……俺の動きが分かっていたというのか……?」


 上半身だけになったハビニック。

 首を此方に向け、レランカの目をじっと見ながら当たり前のように質問をする。


 「まあな。お前のおかげかもしれねえ。礼は言っといてやるよ」


 「……そうか……ドスベセスを奪っただけあって……只者ではなかったようだな……レランカ・レルン……」


 「安心しろよ。お前が死んでも、こいつはアタシが使い続けてやるから」


 「……何を言っている……? ……死ぬのは、お前の方だ……」


 「………………え?」


 再生。

 切断されたハビニックの下半身が、再び顔を出した。

 

 生え変わった足で立ち上がるハビニック。

 開いた口が塞がらないレランカを見降ろした。


 「……ドスベセスは、返してもらうぞ……」


 「……はあっ!!? んだよそれ!!? おまっ……!! 完全に死ぬ流れだったじゃねえか!! 完全に最期のやり取りだったじゃねえか!!! ふざけんなよ!!?」


 「……それは、残念だったな……」


 レランカの怒りと動揺は収まらない。


 非常過ぎる現実。

 ここまでの狙いに意味は無かった。

 

 それだけではない。

 これからの狙いも無意味となった。


 未来を見て斬ったとしても、難なく再生で対応してくる。

 見る限り、ほとんどダメージも見当たらない。


 ドスベセスが唯一の勝機だったというのに。


 レランカにとってハビニックとは、最悪の相手だった。


 「……では……」


 容赦なく、幾度となく、ラルゴートを構えるハビニック。

 もはや打つ手のないレランカは、時間稼ぎ、いや、憂さ晴らしの口撃に出るしかない。


 「つーかお前!! 先に言っとけよ!! あんなに頑張ってたアタシが馬鹿見てえじゃねえか!!」


 「……先に言ったとしても、お前はこういう風に文句を垂れていただろう……。……お前の手札は俺のそれしかないのだからな……」


 「…………そうだな」


 絶望が早いか遅いかでしかない。

 文句すらも丸め込まれるレランカ。

 

 ちょっと泣きそうになってしまっている。

 「よりによってなんでこいつに当たっちまったんだ」と嘆きながら。


 「……さあ、勝機が無くなったところ悪いが、この戦いも終わらせるとしようか……」


 「……くそっ」


 もう言葉も出ない。

 こいつを倒す方法は無いのだから。


 「……ふんっ……!!」


 ラルゴートが伸びてくる。

 勝機が無いと分かった途端、身体が鉛みたいに重くなってしまった。

 

 回避が、取れない。


 「……!!」


 そこに立ちはだかったのは、フェルフラム・ボンバ。

 レランカの前に仁王立ち。

 ラルゴートを素手で止めている。


 「……何を諦めているんだ……レランカ・レルン……!!!」


 「……フェルフラム……。……つってもよ、あいつを倒せる攻撃がアタシにはねえんだよ……」


 「いや……!! まだ一つだけ残っている……!! 立ち上がれ……!! レランカ……!!」


 血塗れの二人。

 残された最後の切り札、見せる時。

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