第二百八十一話 『魂の一撃』
「――――まだ……一つだけ……!?」
勝機はゼロ。
不本意ながらそう決め付けていたレランカに、希望を与えるフェルフラムの言葉。
頷くフェルフラムを横目に、レランカは再度立ち上がる。
「……なんだよそれ……!? …………はっ……!!」
質問の答えが返ってくる前に思い出す。
フェルフラムに宿っている力を耳にしたことがあることを。
「そうか……!! すっかり忘れてたぜ……!! お前、確かな変な力があったんだっけ……!?」
「……まあな。――――だが、俺のその変な力が、奴を倒す最後の鍵だ」
「……よし、分かったぜ。 ……で、どうすりゃいい?」
「……確実に殺るためには、限界までダメージを貰っておきたい。もう一、二発は耐えられる。そうしたら、奴に一撃叩き込む。その時レランカには、直接当てられるよう、あいつの動きを止めて貰いたい。――――まずは俺が出るから、合図を待ってくれ」
「……そうか、分かった」
フェルフラムの切り札。
自らが受けた痛みを拳に乗せて返す力。
痛みを受ければ受ける程、その威力は増えていく。
ただし、打てるのは一発だけ。
一撃目を逃せば、完全に勝機は無くなる。
これが、残されたラストチャンスだ。
「……お前が向かってくるか……。……レランカ・レルンより先に、死にたいらしいな……!!」
突撃ドリルを繰り出してくるハビニック。
フェルフラムは狙い通り、真正面から受け止める。
「ぐああああっ!!!」
「……避けることもできんか……。……お前では、時間稼ぎにしかならんぞ……それも僅かな……」
「……うおおおあっ!!!」
攻撃を受けて尚、敵の懐へと走っていくフェルフラム。
ハビニックは容赦なく、再度ラルゴートを突き刺していく。
「……ぐ……ああ……」
「……叫び声を上げることも出来なくなったか……。……終わりだな、お前も……」
地面に倒れるフェルフラム。
だが宣言通り、限界まで痛みは溜まった。
反撃の準備は、これで完了だ。
フェルフラムは親指を立てて見せた。
背後のレランカも合図を確認する。
「……なんだそれは……。……まだ何かあるのか……? ……それとも、負けを認めたのか……」
フェルフラムのサムズアップ。
当然ハビニックの目にも入るが、その姿は不可解。
「……まあ、そんなことはどうでもよいがな……!!」
剣を構えるハビニック。
思った以上に長引いたこの戦いに巻くを引こうと、剣を胸に突き刺した。
「う……が……あ……」
倒れるフェルフラム。
そこに――――
合図を受けたレランカが走ってきた。
レランカもかなりの重症。
合図をもらってから追いつくのに時間が掛かってしまった。
「!!?」
「はあっ……!!!」
ドスベセスを振り下ろしたレランカ。
狙う先は、ラルゴートを持っている奴の右腕。
反射的に腕の位置をズラすハビニック。
だが、既に距離を詰めていたこと、そして、予め避ける方角を見ていたこともあり、
「……くっ……!!」
二度目の切断に成功する。
切り離されたハビニックの片腕。
所有していたラルゴートは地面に転がった。
「……腕を斬ったところで……」
だがすぐに再生。
右腕は元通りになる。
「!!? ……何を……!!」
しかし、レランカの目的は、ラルゴートを奴の元から遠ざけること。
狙いに成功したレランカは、ハビニックの動きを止めるべく、彼の身体を羽交い締めにした。
「……何をしている……!! ……こんなことをして、何の意味があるんだ……!!」
「うるっせえ……!! 黙ってろ……!!」
拘束を解こうと身体を動かすハビニック。
蹴りを入れ、レランカを引きはがそうとする。
身長差があることもあり、彼女の力はすぐに入らなくなっていく。
「おいっ!! フェルフラムてめえ!!! 早く起きろや!!!」
「……起きろだと……!? ……何を言っている……こいつが起きたところで………………ん!?」
レランカの激を受けた大男。
既に死の一歩手前、数分の命となっているが、
彼は立ち上がった。
「礼を言うぞ……レランカ・レルン」
そして、大きな拳をゆっくりと握り締める。
ここまでの痛みを全て込めた、最後の一撃を放つべく。
「……!! ……これは……!! 離せ……!! 貴様……!!」
その一撃の重みを感じ取るハビニック。
必死にレランカを退かそうと暴れるが、
「離さねえよ……!!!」
意地でも動かない。
この位置では、レランカもハビニックへの攻撃に巻き込まれてしまう。
フェルフラムもそれは分かっている。
が、これが正真正銘、最後のチャンス。
命を懸けて敵を撃滅する覚悟など、最初から決まっている。
「……おい……これでは……お前も……!!」
「歯ァ食いしばれよ!!!!」
拘束を辞めない、レランカ。
急に大ピンチを迎えた、ハビニック。
拳を振り被った、フェルフラム。
「うおおおおおっ……!!!!」
今、最後の一撃が放たれた。
拳が、入る直前。
レランカに見えた――――未来の景色。
「……あ……」
それは、今すぐにでも手を放し、変えようと動かなければならない、非情な物だった。
「アタシ……死ぬじゃん……」
記憶魔法を覚醒させ、ここまで強敵と渡り合ってきたレランカ。
この土壇場でも、その効果が彼女に現れていた。
『生きる』という使命のために。
『死なない』という目的のために。
レランカの内に宿る防衛本能が、彼女から死を遠ざけようと働いた。
だが、それを見ても尚、
「上等だっ!!!!」
意志を全く緩めず、力を込め続けた。
――――炸裂。
フェルフラムが放った命の拳が、ハビニックのド真ん中に打ち込まれた。
拳の風圧だけでも、並みの魔物のならば塵にできるほどの一撃。
限界を幾度となく超えた、度重なったダメージ。
人間が出せる最強の拳が、直接肉体に叩き込まれる。
「おおあっ……!!!」
頑強な古代の魔物といえども、耐えられるものではなかった。
「……そ……そんな……。……どこかに……こんな力……が…………」
一撃。
ハビニックの身体が、ボロボロと崩れ去っていく。
あまりにダメージが大きすぎたのか。
物凄いスピードで消滅していく。
「……く……くそっ……」
二本の宝を見つめながら、彼の肉体は完全に消滅した。
だが、拳を放ったフェルフラム。
そして、彼の拳の衝撃を受けたレランカの二人も。
力尽きた様に、地面に倒れ込んだ。




