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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第九章
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第二百八十一話 『魂の一撃』

 「――――まだ……一つだけ……!?」


 勝機はゼロ。

 不本意ながらそう決め付けていたレランカに、希望を与えるフェルフラムの言葉。


 頷くフェルフラムを横目に、レランカは再度立ち上がる。


 「……なんだよそれ……!? …………はっ……!!」


 質問の答えが返ってくる前に思い出す。

 フェルフラムに宿っている力を耳にしたことがあることを。


 「そうか……!! すっかり忘れてたぜ……!! お前、確かな変な力があったんだっけ……!?」


 「……まあな。――――だが、俺のその変な力が、奴を倒す最後の鍵だ」


 「……よし、分かったぜ。 ……で、どうすりゃいい?」


 「……確実に殺るためには、限界までダメージを貰っておきたい。もう一、二発は耐えられる。そうしたら、奴に一撃叩き込む。その時レランカには、直接当てられるよう、あいつの動きを止めて貰いたい。――――まずは俺が出るから、合図を待ってくれ」


 「……そうか、分かった」


 フェルフラムの切り札。

 自らが受けた痛みを拳に乗せて返す力。

 痛みを受ければ受ける程、その威力は増えていく。


 ただし、打てるのは一発だけ。

 一撃目を逃せば、完全に勝機は無くなる。


 これが、残されたラストチャンスだ。


 「……お前が向かってくるか……。……レランカ・レルンより先に、死にたいらしいな……!!」


 突撃ドリルを繰り出してくるハビニック。

 フェルフラムは狙い通り、真正面から受け止める。


 「ぐああああっ!!!」


 「……避けることもできんか……。……お前では、時間稼ぎにしかならんぞ……それも僅かな……」


 「……うおおおあっ!!!」


 攻撃を受けて尚、敵の懐へと走っていくフェルフラム。

 ハビニックは容赦なく、再度ラルゴートを突き刺していく。


 「……ぐ……ああ……」


 「……叫び声を上げることも出来なくなったか……。……終わりだな、お前も……」


 地面に倒れるフェルフラム。

 

 だが宣言通り、限界まで痛みは溜まった。

 反撃の準備は、これで完了だ。


 フェルフラムは親指を立てて見せた。

 背後のレランカも合図を確認する。


 「……なんだそれは……。……まだ何かあるのか……? ……それとも、負けを認めたのか……」


 フェルフラムのサムズアップ。

 当然ハビニックの目にも入るが、その姿は不可解。

 

 「……まあ、そんなことはどうでもよいがな……!!」


 剣を構えるハビニック。

 思った以上に長引いたこの戦いに巻くを引こうと、剣を胸に突き刺した。

 

 「う……が……あ……」


 倒れるフェルフラム。


 そこに――――


 合図を受けたレランカが走ってきた。


 レランカもかなりの重症。

 合図をもらってから追いつくのに時間が掛かってしまった。

 

 「!!?」


 「はあっ……!!!」


 ドスベセスを振り下ろしたレランカ。

 狙う先は、ラルゴートを持っている奴の右腕。


 反射的に腕の位置をズラすハビニック。

 だが、既に距離を詰めていたこと、そして、予め避ける方角を見ていたこともあり、


 「……くっ……!!」


 二度目の切断に成功する。

 

 切り離されたハビニックの片腕。

 所有していたラルゴートは地面に転がった。


 「……腕を斬ったところで……」


 だがすぐに再生。

 右腕は元通りになる。 


 「!!? ……何を……!!」


 しかし、レランカの目的は、ラルゴートを奴の元から遠ざけること。

 狙いに成功したレランカは、ハビニックの動きを止めるべく、彼の身体を羽交い締めにした。


 「……何をしている……!! ……こんなことをして、何の意味があるんだ……!!」


 「うるっせえ……!! 黙ってろ……!!」


 拘束を解こうと身体を動かすハビニック。

 蹴りを入れ、レランカを引きはがそうとする。  

 身長差があることもあり、彼女の力はすぐに入らなくなっていく。


 「おいっ!! フェルフラムてめえ!!! 早く起きろや!!!」


 「……起きろだと……!? ……何を言っている……こいつが起きたところで………………ん!?」


 レランカの激を受けた大男。

 既に死の一歩手前、数分の命となっているが、

 彼は立ち上がった。


 「礼を言うぞ……レランカ・レルン」


 そして、大きな拳をゆっくりと握り締める。

 ここまでの痛みを全て込めた、最後の一撃を放つべく。


 「……!! ……これは……!! 離せ……!! 貴様……!!」


 その一撃の重みを感じ取るハビニック。

 必死にレランカを退かそうと暴れるが、


 「離さねえよ……!!!」


 意地でも動かない。

 

 この位置では、レランカもハビニックへの攻撃に巻き込まれてしまう。

 フェルフラムもそれは分かっている。


 が、これが正真正銘、最後のチャンス。


 命を懸けて敵を撃滅する覚悟など、最初から決まっている。


 「……おい……これでは……お前も……!!」


 「歯ァ食いしばれよ!!!!」


 拘束を辞めない、レランカ。

 急に大ピンチを迎えた、ハビニック。

 拳を振り被った、フェルフラム。


 「うおおおおおっ……!!!!」


 今、最後の一撃が放たれた。


 拳が、入る直前。 


 レランカに見えた――――未来の景色。

 

 「……あ……」


 それは、今すぐにでも手を放し、変えようと動かなければならない、非情な物だった。


 「アタシ……死ぬじゃん……」


 記憶魔法を覚醒させ、ここまで強敵と渡り合ってきたレランカ。

 この土壇場でも、その効果が彼女に現れていた。


 『生きる』という使命のために。 

 『死なない』という目的のために。


 レランカの内に宿る防衛本能が、彼女から死を遠ざけようと働いた。


 だが、それを見ても尚、


 「上等だっ!!!!」


 意志を全く緩めず、力を込め続けた。


 ――――炸裂。


 フェルフラムが放った命の拳が、ハビニックのド真ん中に打ち込まれた。


 拳の風圧だけでも、並みの魔物のならば塵にできるほどの一撃。

 限界を幾度となく超えた、度重なったダメージ。


 人間が出せる最強の拳が、直接肉体に叩き込まれる。


 「おおあっ……!!!」


 頑強な古代の魔物といえども、耐えられるものではなかった。


 「……そ……そんな……。……どこかに……こんな力……が…………」


 一撃。

 ハビニックの身体が、ボロボロと崩れ去っていく。


 あまりにダメージが大きすぎたのか。

 物凄いスピードで消滅していく。


 「……く……くそっ……」


 二本の宝を見つめながら、彼の肉体は完全に消滅した。


 だが、拳を放ったフェルフラム。

 そして、彼の拳の衝撃を受けたレランカの二人も。


 力尽きた様に、地面に倒れ込んだ。

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