第二百七十九話 『争奪戦』
「…………何だ……貴様は……」
トドメの一撃を妨害されたハビニック。
背後から殴ってきた男に目を向ける。
巨大な体躯が印象に残る、筋骨隆々な大男だ。
名を――――
「フェルフラム・ボンバだ」
聖鳳軍二軍、フェルフラムが現れた。
翔英とはジャーザンスの塔でほんの少し顔を合わせただけだが、長年に渡り軍の一員として活躍してきた人物だ。
「……助かったぜ、フェルフラム。礼を言っとくぜ、ありがとよ」
立ち上がったレランカが、不敵な笑みを見せながら彼に声を掛ける。
フェルフラムとレランカは同世代だ。
「……来たのがお前なのは正直ちょっと不安だけどな」
「相変わらず失礼な奴だな。レランカ・レルン」
付き合いが長い彼女の言葉。
照れ隠しの一種だと理解しているフェルフラムは笑いながら返事をする。
「……それより、お前がここまで追い詰められるとは、あの魔物、見かけによらずの強者のようだな」
「……ああ、情けねえが、アタシ一人じゃ勝てねえだろうよ」
驚きを見せるフェルフラム。
強気な彼女が、こうも簡単に力の差を認めるとは。
いや、それほどこいつが強いという事か。
「……でもよ、誰かと一緒なら、勝てる見込みはある。……フェルフラム、頼りにしてるぜ」
「任せろ」
並ぶ同世代二人。
このタッグで何とか勝ち星を挙げたいところだが、そのためには――――
「あれをあいつから取り戻すのが不可欠だ」
「……あれ、お前のあれか」
「そうだ。あいつに盗られちまってな」
「……いや、何を言っている……。……これは元々俺の物だろ……」
「うっせえよ」
「……レランカ、お前盗んだのか」
「うっせえって! 今はそんなことどうでもいいだろ!? ……それより、協力して取り戻すぞフェルフラム。真ん中狙われんのだけ気を付けろ!!」
「了解した。俺が先に行く。レランカは後ろで隙を伺ってててくれ」
「すまねえな」
狙いはハビニックの持つドスベセス。
タフなフェルフラムが先に飛び出して行く。
「……ようやく来たか……。……待ちわびたぞ……」
「はあっ!!!」
拳を振りかぶって突撃するフェルフラム。
彼の攻撃手段はこれしかない。
「……!! くっ……!!」
だが当たらない。
レランカよりも格段にスピードが落ちるフェルフラムの拳では、紙のようなハビニックを捉えることはできない。
「……はっ……!!」
逆にハビニックのカウンター。
ドスベセスを繰り出そうとする。
「フェルフラム!!!」
「……!! んっ……!!」
レランカの声が聞こえたフェルフラム。
咄嗟に身体の向きをズラし、即死攻撃を回避する。
やはりこのドスベセス。
来ると分かっていればそれ程の脅威は感じられない。
初見殺しとも言うべき、必殺の力だ。
と言っても、
ノーダメージではない。
斬り付けられた肩からの出血。
だがフェルフラムは表情を変えない。
彼の最大の特徴である頑強さが光る。
「……ふんっ……!!」
さらにもう一度斬り掛かるハビニック。
フェルフラムも同様、先と同じ対応で凌ごうとする。
――――が、
ドスベセスを右手で振り被ったの同時に、左手でも攻撃を仕掛ける。
懐に仕舞っていたもう一つの武器、ラルゴートを取り出し、フェルフラムの胸に突き刺した。
「ぐああああ!!!」
回転ドリルが胸の中で暴れ回る。
先程のとは打って異なり、甚大なダメージをフェルフラムに与える。
「そらっ!!」
ダメージで動きを止めた彼にドスベセスを当てようとするハビニック。
今度こそ、ど真ん中を捉えた。
そこに駆け寄る――――レランカ・レルン。
フェルフラムの影から忍び寄り、ドスベセスへと手を伸ばす。
「……お前に……気付かないとでも思ったか……!!」
だが、それは予想通りのハビニック。
レランカの動きに合わせ、ラルゴートを突き刺そうとする。
もはや有効打になるのは、ラルゴートの方だ。
しかし、
「……ぬっ……!? 抜けなっ……」
い。
フェルフラムが腹と腕でガッチリと抑えている。
「おらっ!!」
その隙に右手を蹴っ飛ばすレランカ。
アンバランスな体勢ということもあり、握っていたドスベセスを手放した。
「よっっしゃ!!」
奪還成功。
ドスベセスがレランカの元に渡った。
「サンキューフェルフラム!!!」
「……ちっ……!!」
早速仕掛けるレランカ。
だがペラッと避けるハビニック。
持ち主が変わっても同じだ。
狙いが分かっている攻撃は当たらない。
しかも、ハビニックの時とは異なり、ダメージを与えることができない。
「……うっ……!!」
ラルゴートに受けたダメージが大きいレランカ。
一発振るっただけで、次への動きがストップされる。
「……ふんっ……!!」
足を踏ん張り、力づくでラルゴートを引き抜くハビニック。
また右腕に武器が装着された。
「……また奪い返せばいいだけの事だ……。……いや、元々俺の物なのだ……。……その言い方はおかしいか……」
レランカにラルゴートを向けた。
そのまま、発射の構え。
――――だがその前に、
「……!! お前……」
フェルフラムが来た。
レランカに時間と隙を与えようと、命を懸けて立ち上がる。
「……邪魔だ……!!」
「ぐああああ!!!」
「フェルフラム……!!!」
レランカに向いた攻撃を庇うフェルフラム。
それを見たレランカは頭を巡らせる。
「(……フェルフラムが止めてる間に何とかしねえと……!! だがあの野郎にこいつを当てるには……さっきのあれを試すしかねえ……!!!)」
数秒で結論を出すレランカ。
彼女が取った行動は、じっと地面に手を付けることだった。
「……奴め……何をしている……」
「はああっ!!」
「……しつこい……!!」
「ぐああああ!!」
ボロボロになっていく仲間を目の前にしながら、動こうとしないレランカ。
彼女の狙いは、先程自分のピンチの際に見た、ビジョン。
だが、
「(……見えねえ……!! くそっ……!! 見えねえぞ……!! 気のせいだってのか……!?)」
望む光景は手に入らない。
その間にもフェルフラムが尽きようとしている。
「(やべえ……!! フェルフラムが……!! それはダメだ……!! あいつの死を犠牲にした勝利なんて望めねえ……!!)」
作戦失敗。
仲間が傷つく姿に耐え切れず、レランカは狙いを諦めた。
「おいてめえ!! こっちだ!!」
でかい声を出しながら、ハビニックに突撃するレランカ。
勝利よりも、仲間の死を避けることを選んだ。




