第二百七十六話 『許さない』
リュノン・アーリー。
先刻まで、マーノ・ジャッロ、ヒナノ・スエリア同様任務のために外部に出ていた。
救援要請を送られたことで、仕事を切り上げ急ぎ此方へと戻ってきたのだ。
二人よりも遠い所まで出ていたリュノンだが、ヒナノがマイヤールに足止めを食らっていたことで、彼女のすぐ後に到着した次第だ。
北の方から帰還して異様な音の方へ進んだところ、暴挙を働いていたミワルナに出くわした。
「……人間……。……丁度いいわね。お前から殺してやるわ!!!!!」
リュノンに妨害されたミワルナ。
一旦町の破壊をお預けに、現れたこの男に敵意を向ける。
「……なんでこんなことするんだ!? お前は!?」
だが、敵意が内側から溢れてきているのはリュノンも同様だ。
目の前で民家を破壊しまくるこの女。
どういう動機でこんな変なことをするのか。
「ムカつくからよ!!! こんな風に生意気に普通に生きてるカスどもが!!!」
「……なんだと……?」
「なんでかは知んないけどさ!! 本能って言うの!!? 見てるだけで壊したくなってくる!!!!」
「……イカれてやがんな、お前……」
表情も大分ヤバめだったが、対話をして見たことで明白になった。
こいつは、理解することのできない怪物だ。
許してはいけない化物だ。
ここで、確実に殺らないと。
「ふっ……!!」
懐から短剣を取り出し、ミワルナに斬り掛かるリュノン。
ミワルナは吹き飛ばされたかのような奇妙な動きで先制攻撃を回避する。
「!! なんだこいつ……」
「気が早いわね。お前が何軍か聞こうと思ってたのに。どうせここにいるってことは、一軍か二軍だろうけど」
「……聖鳳軍二軍、リュノン・アーリーだ」
「名前は聞いてないわよ。……二軍か、じゃあ負けることはなさそうねえ!!!! 一軍でも同じだけど!!!」
今度はミワルナが動く。
ミワルナが手を振り下ろした軌道。
そこにあるものが、
「……!! ……やべえ……!!」
跡形もなく、消滅した。
危機を察知したリュノン。
ミワルナの射程距離から一瞬で距離を置く。
リュノンの近くにあった家は闇の空間に消え去っている。
「中々いい勘してるじゃない!!?」
「!!! くそっ……!!」
足を止めたら終わる。
ノンストップで動き回り、ミワルナの即死攻撃を懸命に回避するリュノン。
「(……ああやって町を壊してたのか……!! あれを食らったら間違いなく人も……!! ……待てよ……あいつ……)」
回避の最中、能力についての考えを巡らせるリュノンだが、奴について引っ掛かることがあった。
赤髪。金のドレス。あのイカれた性格。
間違いない――――
「(……そうか……!! あいつが、レイの……!!!)」
レイ。
数ヵ月前、リュノンが保護した子供である。
レイは謎の怪人に襲われ、家と家族を奪われていた。
その過程でレイは、犯人の特徴である金色を見ると、襲撃がフラッシュバックするようになってしまった。
現在はトラウマを克服しつつあるレイだが、リュノンは彼に必ず犯人を見つけ、罪を償わせると誓っていた。
「おい!! お前!!」
「何よ!? 回避しながら話し掛けるなんて、余裕あるわね!!!」
「レイって子供を知ってるか!? 丁度お前みたいな野郎に、一人ぼっちにされたんだ!!」
「そら間違いなく私ね!!! そいつのことは覚えてないけどさ!!!」
「……やっぱりか……。どうやら、ここで俺がお前に会えたのは、お前を倒すためらしい……!!」
「どうでもいいわよそんなの!! さっさと死…………っ!?」
ミワルナが軌道を描くよりも速く近づき、敵の首を斬り着けるリュノン。
レイの件を知り、戦う理由が更に明白になったことで、リュノンの動きがより洗練された。
だが、回避しながらの攻撃。
ミワルナも無反応とはいかず、少し狙いはズレた。
そのミワルナは流れる血を確認すると、鬼の形相で地団駄を踏みながら暴れだす。
「ざっっっっけんな!!! てめえええ!!!!」
「それはこっちのセリフだ。覚えてないってことは、『何度も』ってことだろ。お前に奪われてきた人のためにも、絶対に倒してやる」
「あーあー……。あーあーあー!!!!!!! ムカつくんだよホントに!!! そうやって正義面してるてめえみたいなクズが!!!」
自分が生きていく意味。
それはもう、誰かを助けることしかない。
そう考えているリュノン。
この女を倒すことで、これから起こるであろう被害を無くすべく、全力の戦いに身を投じる。
そんな、リュノンとミワルナが殺し合いを始めた頃。
少し離れた、民家の陰では――――
「やばいー」
メイティーが、二人の様子を確認していた。
「ミワルナ様があんなに苦戦するなんてー。私がいても意味ないねー。ごめんミワルナ様ー。これはしょうがないってもんですよー」
リュノンの強さを見たメイティーは、無断帰宅を決意する。
メイティーにとってはむしろ、帰る名分ができたので、リュノンが来てくれてラッキーって感じだ。
「ちょっと君」
「ひー」
だが、帰ろうとしたところで見つかってしまったらしい。
男の声だ。
間違いなく、メイティーに言っている。
「なんですかー?」
仕方なく声の方を振り返るメイティー。
そこには、メガネの人間が立っていた。
マーノ・ジャッロだ。
「君、魔物だよね。今この町に来てるってことは、討伐対象になるのだけど、いいかな?」
「いいかなってー。何がいいんですかー?」
「君を倒してもいいかなって意味だよ」
「はー」
「でも万が一戦いを望まないというならば、僕の研究に協力してくるなら、戦いはしない」
「えー。本当ですかー?」
「うん。この後僕の所に来て、実験材料になってもらうけど」
「……実験材料ー? それって、自由に外出できないってことですかー?」
「うん、基本的にはそうなるね」
「じゃー、交渉決裂ですねー」
「……そうか、残念だよ」
「……戦うのは嫌だけどー、しょうがないー。戦うとしますかー」
マーノの元に行けば、絶対やばいことを察するメイティー。
ここまで盾にしてきた部下ももういない。
ミワルナも向こうで手一杯。
メイティーが漸く、戦闘態勢に入った。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そして、中央都市の西門。
レランカ・レルン対ハビニック。
「……くそっ……なんでだ……!!」
「…………やはり、あれは……」
二人の戦いは、長引いていた。




