第二百七十五話 『お散歩』
ティローナ、ソル、ラフェルとマビュートの死闘。
その一部始終を、離れた場所から隠れ見ている者がいた。
眠そうな目を擦りながら、任務のためにボーッと様子を見ていた少女の魔物。
名を、メイティー。
「あの人たち、ホントにマビュートを倒しちゃったー。ダクライズもやられちゃったみたいだしー、やっぱり人間もめちゃくちゃ強いねー」
五将悪の一人、ミワルナの副官を努める人物だ。
彼女は戦闘開始直後から、数だけは多い配下たちと共に中央都市へとやって来た。
道中、集結した聖鳳軍の面々に幾度となく遭遇するも、部下たちを盾にして逃げることで、ここまで何とか生き延びてきた。
しかし、もう側に部下は一人もいない。
今誰かに見つかったら、逃げ切れないかもしれない。
「じゃあそろそろ頃合いだよねー。連絡するとしますかー」
周囲を警戒しながら、電波を飛ばそうとするメイティー。
そもそも彼女は、主からある指令を受けてこの町に飛んできていた。
「…………あっ、ミワルナ様ー?」
「メイティー。そうよ、ミワルナよ。…………って、当たり前でしょ!!? あたしにしか繋がらないんだから!!!」
メイティーはミワルナといつでもどこでも連絡を取ることができる。
彼女たち二人だけが使うことのできる能力だ。
「ミワルナ様-。そろそろ来ても良さそうですよー。ダクライズもマビュートも死にましたし-」
「ええっ!!? あのババア死んだの!!? ……あいつを倒せる人間がいるなんて……」
「でもー。聖鳳軍の人たちもほとんど重傷ですー。今行けば、ミワルナ様でも勝てますよー」
「そう? それならよかったわ。…………はあ!?? 何言ってんのよ!!? あたしが人間如きに負けるわけないじゃない!!!」
「じゃー。連絡しましたのでー。お待ちしてますねー」
「ちょっ……!! メイティー!!! …………あのガキ……。……まあ、いいわ」
メイティーからの連絡を受けたミワルナ。
ポケットから、予めラスドラーゴに渡されていたスペアを取り出した。
そして、それを砕き、本来の仕事場である中央都市へと転送する。
ミワルナがメイティーに指示していたのは、「両軍、いい感じにボロボロになってきたら呼んでくれ」というもの。
ロジェにも話した通り、気に入らない奴を楽に殺したいからである。
マビュートのことも、人間に戦って削ってもらってから殺そうと思っていた。
まさかそのまま敗北するとは思っていなかったが。
「…………着いた。ここが中央都市か。嫌な感じだわ!!!!」
ワープされたミワルナ。
人間の町並みを見渡し、早々に大声でキレ出す。
近くには、誰もいない。
「…………あっ、メイティー? こっち着いたわよ。メイティー今どこ?」
「ミワルナ様ー。ここですよー」
「…………え? あっ……!! 何してんの!?」
少し歩いた所にあった民家。
その犬小屋の中で、副官を発見したミワルナ。
ミワルナが来てもなお、メイティーはそこから出ようとしない。
「早く出ろよてめえ!! やる気あんのかよ!?」
「あるわけないじゃないですかー。でもここにいれば絶対安全ですよー」
「うっっっさい!!! いいから出ろや!!」
「はいはーい」
かなり小柄なメイティー。
スペース的にも丁度よかった様だ。
「……じゃ、カスどもを殺しにいくわよ。メイティー」
「その前にいいですかー? ミワルナ様ー」
「……何?」
「私帰ってもいいですかー? 死にたくないんですけどー?」
「…………いいわよ、帰っても」
「ええー? 本当ですかー? やったー」
「その代わり、帰ったら殺すから」
「ひー」
張り切って町を歩くミワルナ。
その後ろをメイティーがトボトボと面倒くさそうに追従する。
「……聞こえるわね。ダクライズとマビュートが死んだのよね。……ってことは、この音はラスドラーゴとあのキモいのか」
「そうみたいですねー」
「ダクライズとマビュートと戦った人間はどこ? そいつら殺しに行きたいんだけど」
「知りませんー」
「……ま、まだ町のどっかにいるだろうし、探そっか。ラスドラーゴたちのとこへは、今のが終わったら行こ」
「了解ですー。…………いてー。どうしましたー? ミワルナ様ー」
突如散歩を中断し立ち止まるミワルナ。
上を見ながら歩いていたメイティーは思わずミワルナの背中に顔をぶつける。
そのミワルナは、目をピキピキさせながら家を見つめていた。
「……随分といい家ね……。……そう言えば、人間を見ないわね。この家とかに住んでる人間はどこにいるの?」
「あー。私たちが来てすぐどっかに避難しましたよー。多分もう町には残ってないと思いますー」
「……そういうことね。……ってことは、この町には戦える奴しか残ってないってわけだ。…………ま、そりゃそうか。探しに行くのも面倒くさいわね」
「ミワルナ様ー。二人を倒した人を探すんじゃないんですかー?」
「……それはそうだけど、ちょっとその前にさ。この辺の家、ぶっ壊してからにするわ。帰ってきて家がないって、面白いでしょ?」
「はー」
「手始めに、こいつからぁ!!!!」
ミワルナが描いた軌道。
空間を削りながら、家を跡形もなく消していく。
「はっは!!! 楽しいぃ!!!!」
住宅街。
並んでいる家を順番に順番に消滅させていくミワルナ。
その表情は、物事を心から楽しんでいる無邪気な子供のよう。
メイティーはじっとミワルナの背中を見つめている。
が、このままでは町の家全てを壊しかねないので、
「ミワルナ様ー。隠れる場所失くなっちゃいますよー。それにー。こんなことしてたら、向こうから誰か来ちゃいますよー」
一応注意の言葉を添える。
「それがなに!!? 隠れる場所なんて必要ないし、別に来たって返り討ちにしてやるわ!! それに例の奴がこの辺で休んでるかもしれないし!! 出で来たら超ラッキー!!!!」
「そうですかー。…………あー」
住宅破壊に夢中のミワルナに迫る人影を確認したメイティー。
ミワルナは全く気付いていない。
教えてあげようと思ったが、「やっぱりいっか」と黙ってることにする。
「お前!!! やめろ!!!」
「!!?」
ミワルナを蹴っ飛ばす現れた男。
短剣を携え、二体の魔物に敵意を向ける。
「…………こんなに家をめちゃめちゃにしやがって……。許さねえぞ!!」
颯爽と駆け付けたのは、リュノン・アーリー。




