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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第九章
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275/280

第二百七十四話 『天使』

 「――――嘘……でしょ…………」


 死闘が続く中央都市。

 ダクライズに続き、マビュートまでも撃破したが、その代償は大きい。


 仲間の命で、敵の命。

 そんな言葉では、抑えられない感情がある。


 「……ソル……ティローナ……。……起きて……起きて……!!!」


 目的地に現れたヒナノ・スエリア。

 都市に入って早々、信じがたい光景を目の当たりにした。


 一番近くに、倒れ込む親友。

 その奥には、身体が消えていく妹。


 「……ヒナノさん…………」


 「……何……泣いてるのよ、ラフェルくん……。二人とも、今から私が治すから……絶対……!!!」


 涙を浮かべる少年を退かし、もう半分程度しか肉体を残していないソルの治療を始めるヒナノ。

 ティローナの元にも今すぐ向かいたいが、ソルの方に先に行くことを迷わず決められるほど、ソルの身体は見るからに重体だった。

 

 ヒナノは涙ながらに、全力で命を繋ごうと魔法を掛ける。


 「お願い……!! ソル……!! 帰ってきて……!!!」


 だが、ヒナノと言えど、消えていく肉体を止める術は持たない。

 彼女が到着してからも、ゆっくりとソルの肉体は溶けていった。


 「……やだ……やだよ……やだよソル……!!! 行かないでよ……私より先に行かないでよ……!!!」


 アンヴァサイトを完全顕現させたこと。

 それが原因となり、完全な魔物となったソル。

 彼女の肉体は、この世に留まることなく、無数の光となった。


 「…………ソル……」


 受け入れられない悲しみに暮れるヒナノ。

 言葉も出ないラフェル。


 そんな二人の前で、消え去った光が集合した。


 『……姉さま……。よかった……最後に会えて……』


 「……ソル……? ソル……。ソル……!!!」


 その姿は人間でも魔物でもなく、天使の様。

 いつものような穏やかな笑みを見せながら、優しい目で此方を見ている。


 『……姉さま。お礼を言いたかった。ありがとう。私のお姉ちゃんになってくれて。私は、貴女の妹で、幸せだったよ』


 「……辞めて……辞めてよソル……。泣かせないでよ……。私、貴女に何もしてあげられてない……。……『これから』だよ……!!! 貴女にそう言ってもらえるようになるのは……!!! だから……降りてきてよ……!!!」


 『ううん。私はもう行かないと。――――姉さまは、ティローナさんを治してあげてください。ティローナさんはまだ、生きていますから』


 「ティローナ……!! でも、貴女は……!!」


 『さよなら姉さま。ラフェルくんも。必ず、生きてくださいね。それから、皆さんにもよろしくお願いします』


 「ソル……!!!」


 光は消え去った。

 ソルは、新たな自らの居場所へと登っていった。


 あの時も、そして今も、ソルを助けられなかった悲しみに暮れるヒナノ。

 溢れ出る涙を止められずにいるが、


 「……泣いてる場合じゃない……。ティローナを……何とかしないと……」


 心の傷を抑え、急ぎ親友の元へと向かう。


 ティローナに対しても、持てる全てを使って治療を施す。


 ティローナだって瀕死の重体。

 今すぐにでも命を落としてもおかしくない。


 「……ティローナ……!! 戻ってきて……!!」


 現在の聖鳳軍において、最も治癒能力の高いヒナノの懸命の治療。

 そして、人の限界を超えているティローナの肉体。

 その二つが合わさり、


 「……ごはっ……!!」


 ティローナは目を覚ました。


 「ティローナ……!!」


 「…………ヒナノ……。来て……くれたんだ……」


 だが、串刺しにされた傷は完治していない。

 あまりにもダメージは大きく、立ち上がるので精一杯という状態。


 「……ラフェルくん。次は貴方を治すわ。こっちに来て」


 「……ヒナノさん……」


 二人比べれば軽いが、それでも多大なダメージを負っているラフェル。

 彼にも、回復魔法を掛けるヒナノ。


 その姿を見たティローナは、

 

 「……ラフェルくん……。……ソルは……ソルは……どこにいるの……?」


 姿の見えない彼女について尋ねた。


 「……………ソルは…………空に行ったわ」


 「………………ごめん……ごめんヒナノ……本当にごめん……」


 聞く前から気付いていた。

 でも、信じたくなかった。

 だから、聞いてしまった。


 謝罪の意味。

 それを言わせてしまったこと。

 役目を全うできなかったこと。


 「……なんで貴女が謝るのよ……。その姿を見たら……いや、見なかったとしても、貴女が何をしていたか分かるわ」


 「……でも……ソル…………。ソル……!!!!」


 「……ラフェルくん、これで大丈夫よ。……ティローナ、私は次の所に行くわ。……いや、やっぱり貴女達を安全な所に連れてってからね」


 「……ヒナノ……」


 プロとして、次に向けた話を進めるヒナノだが、ティローナは彼女の悲痛な思いを感じ取る。


 でも、一番辛い彼女が前を向こうとしている以上、これ以上聞くことはできない。


 ティローナは、うつ向いたまま立ち尽くした。


 「……さあ、ティローナ。私の手に捕まって。移動するわ。ラフェルくんは自分で歩ける?」


 「……ヒナノさん……。……俺……ソルに助けられたんだ……。ソルに命を救ってもらった……。ごめんヒナノさん……俺が……俺がもっと強かったら……!!!」


 「……だから、謝らないでって言ってるじゃない。ソルは、自分で選んでそうしたんでしょ。……私はソルの行動を正しいと思ってるし、誇りに思ってる」


 「……ヒナノさん……」


 「……だからさ……!! 褒めてあげて……!!! 忘れないでいてあげて……!!! あの子を……私の妹を……!!!」


 力不足を一番嘆きたいのはヒナノ自身だ。

 妹の、親友の、仲間の危機に駆け付けることもできなかった。


 悔やみきれない。

 止めようと食い縛られなければ、永遠に後悔と哀しみの涙は溢れ出てくる。


 それでも、まだ後ろを振り替えることはできない。

 悔やんでいる場合じゃない。

 

 あの子の分まで、私が皆を助ける。


 「……ヒナノ……そうだよね……。ソルが護った想いは、私たちが継いでいかなきゃ……」


 「……うん……。分かった……。俺……もっと頑張るよ……ソルが……俺を護ってくれたこと、間違いじゃないって言えるように」


 「……ありがとう。二人とも、それじゃあ、行きましょう」


 ティローナはヒナノに背負われながら。

 ラフェルは何とか風を起こしながら、戦場を後にした。


 飛び立つ三人の背後。

 優しげな微笑みを浮かべた少女が、手を振っていた。

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