↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第九章
PR
271/272

第二百七十話 『本物の』

 「…………え……?」


 思わぬ名詞が耳に入り、黒い顔を上げるソル。

 マビュートは正解を引き当てたような、満足した表情を浮かべている。


 「ソルちゃん? 貴女のご両親は人間かしら?」


 「…………人間……です……」


 「……あらそう……? ……じゃあ、違う……?」


 「……違います……。私も私の家族も、人間です……。れっきとした……」


 「いやいや、その姿で言われてもねえ。……まあ、こうやって私とお話できる理由が分からないのは確かだけど……」


 ソルの中にアンヴァサイトがいないことは確認済みのマビュート。

 でもこの姿は間違いなく、かつて何度も見た自分の子供。


 ……いや、もしかしたらソルが嘘をついているのかもしれない。

 ……そうなったら、これ以上理由を考察する意味は薄い。


 「…………まあいいわ。気にならないといったら嘘だけど、貴女が違うというのなら、これ以上聞いても仕方ないしね」


 そう言うマビュートだが、彼女は既に結論を出している。

 ソルは違うと言ったが、先程の自分の予想は概ね正しいと。

 

 ソルは嘘を憑いているわけではない。

 知らないのだろう。

 

 両親ではないかもしれないが、血縁者にアンヴァサイトが間違いなくいる。


 対するソルは、震えながら頭を回転させていた。


 マビュートの先の質問。

 ソルは否定で答えたが、確信が持てていた訳ではない。


 何故ならソルは、父親と会ったことがないから。


 彼女が物心つく前、父は既に他界していた。 

 母と姉が言うには、自分が生まれてすぐに亡くなったらしい。


 ……もしかしたら。

 二人は口にしなかったが、父親は『そう』だったのかもしれない。


 いや、マビュートがそう予想してきた以上、限りなくその可能性は高いだろう。

 

 ……妙な感じだ。


 長年憎み続けていたこの姿。

 この女から産まれ、それが父、そして自分に降りてきた。

 その姿を自分の物とし、その産みの親に牙を向けている。


 そしてこの女は、会ったこともない父の仇なのかもしれない。 


 でも、怒るべきなのか、悲しむべきなのか、どういう感情になればいいのか分からない。 


 ……いや、真実がどうかは今は確かめようがない。

 ただ、この場ではこの運命を受け入れ、得た力を持って、皆を護ることだけ考えればいい。


 ソルは、戦う目に戻った。


 「……いいわね。そうこなくっちゃ。ごちゃごちゃ考えるのはよしましょう。私たちはただ、戦えばいいのよ」


 「…………クッ……!!」


 鋭利な牙と爪を剥き出しにし、一気に戦闘態勢へと入るソル。

 マビュートも相変わらず笑みを浮かべながら、両の拳を握り構える。


 「…………ウアアッ!!!」


 雄叫びとともにソルが仕掛けた。

 肉を引き裂くように爪を立て、マビュートへと振り下ろす。


 「…………ふっ。……やっぱり、これくらいよねえ……。残念っ!!!」


 再び右ストレートを噛ますマビュート。

 ソルは痛みに吠えながら壁へと打ち付けられ、胸を押さえながら踠いている。


 「……あーあ……。半端なのが惜しいわねえ。久し振りだし、百パーセントの力が見たかったけど、コントロールされちゃ、こんなものよね」


 アンヴァサイトをマビュートが作り出す目的。


 それは、自分の遊び相手、つまり、戦う相手を作るためである。

 かつてのマビュートは暇な時、これを何でもない人に取り憑かせ、力試しがてら殺しまくっていた。


 思考や理性はいらない。

 ただ、破壊だけを求める怪物の方が都合がいいから、そうなるようにした。


 一匹で長く楽しみたいという彼女の要望に応えるように、産み出せる魔物は、『耐久力』を一番の武器とするものになっていった。


 それこそが、マビュートの強さの理由の一つ。

 彼女は時間さえあれば、自分で作った怪物と戦っていた。


 だが、その過程でパワーダウンしたソルに、そんな耐久力は備わっていない。

 強さだって、存分には引き出せていない。

 

 マビュートにとっては、赤ん坊状態だろう。


 「……限界そうね。ソルちゃんもティローナさんも、もう引き出せるものは無さそうだし、そろそろ次の相手を探しに行くかしら。貴女達を殺してからね」


 決着へと向かうマビュート。

 まずは一番近くにいるソルへと手を伸ばす。


 「やめて!!!」


 「あら」


 その前に立ちはだかるティローナ。

 ソルを庇うようにマビュートの射程へと割って入る。


 そのまま正拳突きを繰り出すが、


 「貴女から先の方がいいかしら!?」


 「うわっ……!!」


 軽々と躱され、逆にカウンターを貰ってしまう。

 

 特に順番を決めていないマビュート。

 標的をティローナへと移し、彼女に迫る。


 「……グアアアッッ……!!」


 その前に、背を向けたマビュートにソルが吠える。


 怪物ならではの攻撃。

 口から渾身のゲロビームを放出した。


 「……!! ふんっ……!!」


 だが、放った攻撃はいとも簡単に素手で掻き消された。


 「……そんな…………」


 「効かないわよ。でも、こう邪魔されると面倒くさいわね。同時に行くかしら」


 触手。

 マビュートの背中から生えている五本の触手が伸び出した。

 

 そして、五本はティローナに襲い掛かっていく。


 「っ…!! うああっ……!!」


 本体はまたソルの元へ。

 拳を強く握りしめ、怪物の顔面を殴打する。


 三発で、ソルの背中は地面についた。


 「……面白いものが見れたわ。一応お礼を言っておくわね。ソルちゃん。ありがとう!!」


 感謝の言葉と共に拳を振りかぶるマビュート。

 完全に終わらすべく、急所へと狙いを定めながら。


 ……しかし、


 「……!!」


 その拳は僅かに軌道がそれ、急所には命中しなかった。

 痛みの声を上げるソルだが、その命は首の川一枚繋がっている。


 「……ソルから……離れろ……!! ババア……!!」


 「……まだあの子がいたか……。それにしても、邪魔が本当に好きねえ。貴方たちは」


 ソルから回復を受けていたラフェル。

 何とか身体を起こし、マビュートの攻撃を反らしていた。


 マビュートは特に気にすることなく、もう一発ソルへと拳を入れる。


 「やめろっていってんだろっ!!!」


 「……速いわね」


 トップスピードで距離を詰め、マビュートをソルから遠ざけるラフェル。

 一人、マビュートに挑む。


 だが、


 実力の差は明白。

 終わりを見据えたマビュート相手では、数十秒と持たない。


 「こっちも終わったようね」


 隣ではティローナが倒れている。

 五本の触手に、全身を串刺しにされながら。 


 ソル、ラフェル、ティローナ。

 ここに集った三人の戦士が、動きを停止した。


 「――――じゃあ、さよなら。…………何!?」


 だが、動き出している者がまだ一つ、いた。

 

 それは、ソルでもラフェルでもティローナでもなく。


 「ヴウウアアアアッッ!!!」


 少女に眠る、『本物の怪物』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。