第二百六十九話 『獣の真実』
「――――あれは……!!」
身体を起こすティローナ。
マビュートの猛攻が止まった原因を確認する。
少し前の記憶。
自身も交戦した悲しき生物との再びの対面。
怪物と化したソル・スエリアが、マビュートの注意を引き付けていた。
「……ソル……!!」
だがその心までもが、怪物と化した訳ではないはず。
ヒナノを通じて聞いている。
ソルは、あの力を物にしつつあると。
だとすれば、今やこれはソルの戦法の一つのはずだ。
現に、今のソルは、気絶しているラフェルを庇うようにして立っている。
「…………なんてこと……」
ティローナが考えを巡らせる中、マビュートが驚いたように呟いた。
かなりショックを受けているらしい。
衝撃映像でも見たかのような目の開き具合だ。
「……その姿……」
「ウアアアウッ!!!」
何か言い掛けたマビュートを怪物したソルが突き飛ばす。
そして、ティローナの方を見ると、笑顔で親指を立てて見せた。
「ソル……!!」
――――大丈夫だ。
ソルはソルのままだ。
ティローナはソルの元へと駆け寄った。
「すごいねソル!!」
「ありがとう!! ティローナさん!!」
「ええっ!? 喋れるの!!?」
「うん!!」
「あははは!! すごーい!! ホントにソルだ……!!」
姿形は違うが、ソルであることは間違いいない。
彼女の言葉を聞いたことで、それを強く実感するティローナ。
何より、完全にコントロールしてる証拠だ。
それにこう見ると、この姿も何だか愛らしい。
「――――おかしいわね……」
「……来たっ……!!」
また立ち上がったマビュート。
埃の中から、こちらへと向かってくる。
横並びになったティローナとソルが迎え撃つ。
「……ティローナさん。とりあえず、ラフェルくんの回復は一段落ついてます。今は、この人を倒しましょう」
「うん……!! ……情けないけど、私一人じゃ厳しい……。ソルが隣に居てくれたら、ものすごい助かるよ……!!」
普段のソルでも勿論だが、この状態の彼女が味方なのは心強い。
一度戦ったことがあるから尚の事だ。
不死身だと思うようなこの女相手でも、倒せるのではと勇気が湧いてくる。
「……ねえ、ティローナさん。……それは、どういうことなのか説明をもらえるかしら……?」
怪物ソルを見ながらティローナに尋ねるマビュート。
こちらに勝負を急ぐメリットは少ない。
ティローナは質問に応じる。
「ソルだよ」
「……それがどういうことなのか聞いてるのよ。何故喋れるの? 何故落ち着いてるの? 何故貴女の隣に立てているの?」
「……ソルが頑張ったからじゃないの? ねえソル」
「はいっ……!! 頑張りました……!!」
「いやいや、頑張ってどうにかなるものじゃないわ、そいつはね。人間が力として使うなんてありえない」
「……え……?」
マビュートの口振り。
まるでソルのこの形態を知っていたかのようだ。
そして、すぐにその答えは、明らかになる。
「――――そいつは、私から生まれた魔物によるものだもの」
「……え……。……どういうこと……!?」
「私はね、この触手から、生物に寄生する魔物を産み出せるの。名を『アンヴァサイト』。私の子供よ」
「……うわっ……!!」
マビュートの背中から産み出された黒いたんぽぽのような魔物。
うねうね動く気持ち悪さに顔をしかめる二人だが、それ以上に……
……何を言ってるんだこいつは。
「こいつはね、脳に取り憑くことで、ゆっくりと時間を掛けながら、生物の身体を魔物へと変えていくの。ソルちゃん、貴女の今の姿は、アンヴァサイトが取り憑いた生物の姿にそっくり。いや、それそのものだわ。気が一緒だもの」
「……何ですか……それ……」
「……でもね、その状態となった人間は、ただの破壊獣になるはずなの。でも貴女は今、こうして自我を持ちながら、あろうことか『ソル・スエリアとして』親の私へと敵意を向けている。それがどういうことなのかって話よ」
「…………ってことは……ソルは…………」
目を伏せる獣のソル。
ティローナは彼女の方を心配そうに見つめる。
この魔物に襲われたのだと確信するが、言葉の先は出てこない。
しかし、ソルの方はそんな覚えはない。
彼女の認識は、『ある日突然なってしまった』だ。
気付かぬ間に襲われていた。
その可能性も否めないが。
「……それとも本当に、アンヴァサイトを自分の力にしたというの? …………いえ、実際にしてるのだから……そうよね……!!」
自分の背中から出したアンヴァサイトを踏み潰すマビュート。
アンヴァサイトは霧のように消え去った。
「――――凄いわソルちゃん。最高よ。……じゃあ、貴女の『その力』を見せてもらおうかしら」
「………………」
ソルは考える。
自分が、姉が、母が苦しんだのは、この女のせいだった。
あの力のせいで家は壊れ、姉には多大な負担を掛けた。
自分が本当に人間なのか悩んだこともあった。
だが、結果オーライかもしれない。
この力を受け入れてものにした今、皆を護るための武器となった。
この女から貰った力を持って、こいつを倒す。
「ウ……ウエアアッッ!!!」
獲物に襲い掛かる肉食動物のように、仇敵となった女へと飛び掛かるソル。
対するマビュートは合気道の達人のように構え、
「オアッ……!!」
軽々とソルを投げ飛ばした。
「ソル!! くっ……!!」
「邪魔よ!!」
「うあっ……!!」
助けに入ったティローナも一撃で吹き飛ばされる。
ソルはフラフラになりながら身体を何とか起こすが。
既にマビュートは目の前に立っている。
「ふんっ……!!」
「ゴオッ……!!」
胸に右ストレートが打ち込まれる。
その威力は魔獣となったソルでも耐えられるものではなく、瞬く間に膝を着きダウンした。
「……やっぱりまだまだおかしいわ……。これだけで膝を付くなんて……。人間にコントロールされたから弱体化したのかしら…………」
困り果てるマビュートは、痛みに苦しむ獣ソルの頭に手を当てた。
そして何かを読み取り、驚きの顔を見せる。
「……あら……!! 貴女の中にはアンヴァサイトがないわね!! ということはその姿、貴女自身に寄生したものではないわ!! ――――じゃあ貴女のその姿……。 ……もしかして……」
弱体化。コントロール。
アンヴァサイトの力が半減している。
それらから、
「貴女のご両親かしら!? アンヴァサイトが憑いたのは!!」
マビュートは新たな答えに辿り着いた。




