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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第九章
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第二百六十八話 『狂戦女』

 「――――やったな、ソル……!!」


 「うん……!!」


 ラフェルとソルが魔法を決めた。

 激しい渦の中で炎に焼かれ、マビュートの悲鳴が聞こえてくる。


 「ソル……!! ラフェルくん……!! ありがとう……!!」


 心が折れかけていたティローナが二人に合流。

 彼らが時間をくれなかったら、まだ転がっていたかもしれない。


 「……大丈夫ですか……? ティローナさん……」


 「……うん……!! 二人のおかげで、何とか大丈夫……!!」


 確かにティローナにそこまでの傷はない。

 彼女であれば、問題なく戦闘を続行できるようなケガだ。


 だが、その答えをもらっても、ソルの心配は拭えない。

 彼女の答えに、いつもの明るさを感じない。


 何というか、不安がっているのを隠しているような。


 「でもさっ!! 今の大分効いたでしょ!? ――――ほらっ……!!」


 マビュートの悲鳴が聞こえなくなっている。

 変わらず風は渦巻いているが、彼女の姿は見えない。


 ラフェルはその方向を指差し、 

 

 「あいつの声が聞こえなくなった!! 今ので倒したんじゃない!?」


 と、嬉しそうに伝える。


 だが、ティローナの表情は固い。

 ソルも同様だ。


 「……いや、ラフェルくん……。まだあの人は、元気だと思う……」


 「えっ……!?」


 全力のカルダを叩き込んでも尚、笑みを見せながら立っていたマビュート。

 確かに、並みの魔物なら勝負が付いていたであろう凄まじい威力を持っている魔法だったが、あの女にとっては、「この程度」って感じだろう。


 そして、ティローナの嫌な予想は当たり、渦の中心からロケットのように飛び出すマビュートの姿が目に映った。


 「……!? 本当だ……!! 元気いっぱいだ……!!」


 気を引き締める三人の前に飛び降りてくるマビュート。

 彼女は、ソルとラフェルの顔を確認すると、これまたニヤつきながら口を開く。


 「……今、魔法をぶつけたのは、貴女ね。可愛らしいお嬢さん。そして、風。これも見事だったわ、お坊ちゃん。……お名前を聞いてもよろしいかしら?」


 「……なんで?」


 「強者に敬意を払うのは当然でしょう? 少なくとも、私にダメージを負わせることができる。そんな人間は、そう多くない。それに、名前を呼べないのはストレスだわ。貴方の態度は、気になるけどね」


 既に身体はボロボロに見える。

 それなのに、なんでこんなに普通に、何事もないように会話をしようと思えるんだ。


 そんな恐怖が少年少女を襲うが、臆すまいとラフェルは強気に出る。


 「ラフェル・フルミーネだよ。おばさんは?」


 「…………まあ、いいわ。今は流してあげる。名前はマビュートよ。そっちのお嬢さんは?」


 「…………ソル・スエリア……」


 「ソルちゃん、可愛い名前ね。羨ましいわ。……じゃあ、ラフェルくん、ソルちゃん。貴方達の全力を私にぶつけてみなさい?」 


 「えっ……!?」


 「何を驚いているの? さっきのが全力じゃないでしょ? 見せてほしいのよ。貴方達の本気をね。受け止めてあげるからさ」


 ティローナと同様、二人は警戒を強める。

 

 だが、ラフェルはこれをチャンスだと捉える。

 舐めてることを後悔させようと気合いを入れる。


 「……いいよ。やってやるよ。俺たちの最大魔法をね。行くぞ……!! ソル……!! 炸裂魔法弾だっ……!!!」


 隣のソルに渇を入れるラフェル。

 彼女の動揺を消し去ろうと、肩をポンと叩きながら。


 「うん……!! 分かった……!!」


 ソルも応じる。

 これまで成長させてきた、合体技を使用するために。


 ティローナとマビュートが見守る中、ソルが炎をどんどんと燃え上がらせていく。


 そこからラフェルが風を起こし、炎を膨れ上がらせていく。

 すると、巨大な風船のような炎のエネルギーの塊が誕生した。


 翔英と共に鍛え始めた時から数ヶ月。

 互いの力が更に上昇、そして、洗練されたことによる合体魔法だ。


 「死んでから後悔すんなよ!! マビュートおばさん!!」


 ラフェルが突風を起こし、その塊をマビュートに向けて飛ばす。

 宣言通り、マビュートはそれを、受け止めた。


 「おうあっ……!!!」


 思いっ切りボールをぶつけられたように怯むマビュート。

 そこから更に、内部に圧縮された熱がマビュートの身体を焼いていく。


 そして、爆発。

 身体は焼け焦げ、地面に倒れた。


 「やったぞ……!! ソル……!! 決まったな……!!」


 「うんっ……!!」


 ハイタッチするラフェルとソル。

 その姿を微笑ましく見つめる二人。


 「確かによかったわよ」


 「なっ……!!」


 その一人、マビュートが二人に声を掛けた。

 もう一人、ティローナは「やっぱりか」と顔をしかめる。


 「……でも、七十五点ってとこね。……さっきこれが最大って言ったわよね。残念だわ」


 「……なんて奴…………うあっ……!!!」


 「ラフェルくん……!!」


 ラフェルがマビュートに殴り飛ばされた。

 そして、何軒か壁を抜きながらダウン。


 「……何より、何度も喰らったことある痛みであまり面白くない。リピートは無しね」


 今度はソルに拳を構える。

 頑丈なティローナだから何とかなっていたが、一撃でダウンさせる程の威力を孕んでいる拳を。


 「ソル……!! ……させないっ……!!」


 だがその前に、ティローナが突っ込んできた。

 不意打ちでマビュートを殴り飛ばし、彼女の前に立ちはだかる。


 「……ティローナさん……」


 「ソル……!! ラフェルくんを見てきて……!! この人は私が……!!」


 「今のはよかったわよティローナさん。最初の貴女に戻ったって感じね。……さあっ!!! どんどん来なさいっ!!!!」


 「……うっ……。……やああっ……!!!」


 戦意を取り戻したティローナ。

 一人の時は勝機を見出だせずにいたが、二人のピンチを救うために無理矢理身体を起こす。 


 やはり、彼女が最も力を出せるのは、誰かを護る時だ。


 その隙にソルはラフェルの元へ。


 「……ラフェルくん……!!」


 「……うう……」


 「よかった……!! 今、治すね……!!」


 瓦礫に埋もれていたラフェルを見つけ、回復魔法を掛けていくソル。

 

 だが、ダメージは深刻だ。

 これは結構時間が掛かる。


 「うあっ……!!」


 「……あっ……!! ティローナさん……!!」


 だが、その付近にティローナが飛ばされて来た。

 奥には、こちらに迫るマビュートの姿が見える。


 「……カルダを受けるのは面白い。でも、ちょっと時間が経ちすぎたようね。貴女のマナは減り始め、威力が落ちてきている。これ以上は望めないわ。残念だけどね」


 「…………くっ……!!!」


 もう最高ダメージは超えてこない。

 そう判断したマビュートは、ティローナとの勝負を終わらせる決断をした。


 「貴重な体験だった」と感謝しながら。


 「本気で行くわよ、ティローナさん。…………っ!? この気配っ……!?」


 だが、マビュートの意識は、突如出現した獣の気配に持ってかれた。

 

 彼女の視線の先には、『黒い獣』が映っていた。

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