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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第九章
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268/270

第二百六十七話 『恐怖を払う』

 ――――何を言ってるの……?


 鳥肌を立てながら一歩後退るティローナ。

 目の前の女性から、底知れない恐怖を感じ取り、戦いの拳を引っ込める。


 カルダは通じない。

 そう思った矢先に、何を言い出すんだ。


 「そんな顔しないでよティローナさん。貴女にとっても悪い話ではないはずよ。貴女のカルダはまだ、生きてるんだから……ね!!!」


 壊れた腕をブラブラさせながら、満面の笑みで口を開くマビュート。

 その姿もまた、ティローナの戦意を鈍らせる。


 「――――さあさあっ!! どんどん打ってきなさいっ!! 全て受け止めてあげるわっ!!!」


 「……っ……!!」


 敵の理解が全く出来ないティローナ。

 意味が分からない。

 こんな人に会ったことはない。


 彼女の揺るぎない自信に怯えが付き始めた。


 「……その顔……どうしたの? ここ、空いてるわよ?」


 まだ破裂していない右頬を指差しながら、「打ってこい」とばかりにアピールするマビュート。

 それを見たティローナは、


 「…………はあっ……!!」


 溢れ出る恐怖を抑え込み、カルダの力で指差す方へと拳を突き刺した。


 ボンッと破裂音が町に鳴り響き、マビュートの顔に更に傷が生まれる。


 「……やっぱり面白いわね。この感覚、堪らないわ」


 「えっ……!?」


 「…………でもね、さっきの方がよかったわ……。ティローナさん……貴女今、鈍ったわね、拳が」


 「……え……?」


 「……どうしてかしら? ……まさか、怖がっているの?」


 「……いや、そんなこと……」


 「貴女の覚悟はそんなものだというの!!? せっかくいい力を持っているのに!! 失望させないでよ!!」


 急にキレ出したマビュートの拳がティローナに炸裂。

 鈍い音を立てながら、ティローナの身体を吹き飛ばす。


 「ごはっ……」


 ノーガードでモロに喰らった。

 敵の言葉に動揺し、反応が遅れた。


 ……それに、立てない。

 いつもならすぐに立てるのに。

 

 身体が鈍い。

 足が重い。

 

 「早く立ちなさい!! 私を楽しませなさい!! ティローナさん!!!」


 ……倒せる気がしないからだ。


 カルダを楽しもうとする敵の異常さに、拳が出せなくなるほど動揺している。

 

 見る限り、敵の身体はかなりボロボロ。

 それなのに、眩しいほどに笑いながら、拳のおかわりを要求してくる。


 強い上に、恐い。


 そんな彼女に、勝機が見えない。

 戦意を見い出せない。


 みんなのために、立ち上がらなきゃいけないのに。


 体ではなく、心が悲鳴を上げている。


 「………………何……何よおっ!!!! どうしたっていうの!!? さっきまであんなに自信たっぷりだったのに!? 冗談じゃないわ!!!」


 転がりっぱなしのティローナに、地団駄を踏むマビュート。


 彼女からしてみれば、超久しぶりに起きたら、物凄い楽しい遊び相手がいきなり現れたと思ったのに、その相手がこれまたいきなりふて寝を始めたようなものだ。

 当然、もう一回遊ぼうと起こそうとする。


 「……しょうがない。無理矢理にでも起きてもらおうかしら……。簡単に死なないでよね!!?」


 まだ起き上がらないティローナに痺れを切らし、急接近するマビュート。

 まだまだ、遊び足りないという感じだ。


 勝機は見えなくても、敗北は許されない。

 そんな思いで、ティローナは何とか体を起こす。


 が、


 「うあっ……!!!」


 起き上がった瞬間に飛び蹴りが飛んできた。

 せっかく起きたのに、また地に寝かされる。


 「何よその顔は!!!? 勝つのを諦めたかのような顔だわ!! 情けないっ!!! あの美しい目に戻るまで、説教よっ!!!」


 今度は間髪入れずに来た。

 理不尽に激怒しながら、更にティローナに襲い掛かる。


 「(……避けないと……。ダメだ……間に合わない……)」


 回避する時間がない。

 これでは、マビュートの連撃が止まらない。


 そう思った時、


 「……んんっ……!? 何……!? これは!?」


 何処からか吹き出した突風が向かい風となり、マビュートの接近を遅らせた。

 その生まれた時間に起き上がったティローナは、急いで敵との距離を取る。


 「……今の風……。人為的な物ね……。どこにいるのかしら!? 出てきなさい!!!」


 「言われなくても今出てくよ。おばさん」


 西に見える民家の屋根の上。

 そこから顔を覗かせる、少年。

 

 「……ラフェルくん……!!」


 聖鳳軍二軍、ラフェル・フルミーネ。


 翔英唯一の同期であり、史上最年少で聖鳳軍の一員となった天才児が、そよ風と共に颯爽と現れた。 


 「……お坊ちゃん。初対面の人に「おばさん」と呼ぶのは失礼よ。その辺の教育はママにされてないのかしら?」


 「何言ってんのさ。ティローナ姉ちゃんのこと傷つけるようなババアに、そんな配慮するわけないだろ」


 「……ババア……ねえ……。……分かったわ。それなら、私が教えてあげるわ!!! 敬うべき強者に対しての態度ってのをねえ!!!」


 対ティローナの邪魔をされたことに加え、地雷となるワードを浴びせられ、大人げなく激怒するマビュート。

 ティローナへの狙いを一旦忘れ、屋根の上のラフェルへと肉食動物のように襲い掛かる。


 「ラフェルくんっ……!!」


 ラフェルの名前を呼ぶティローナだが、彼女の手は間に合わない。

 だが、当のラフェルは全く動じず動こうともしていない。


 「言い忘れたけど……その道、気を付けてね」


 「はあっ!? 何をっ……!?」


 「獲物を狙ってるからさ」

 

 「……なっ……!! おえっ……!!」

 

 ラフェルへの道中の開けた道路。

 そこで、マビュートは右に光を見た。


 そちらへと顔を向けた同タイミング、光の正体がマビュートの顔面にぶち当たる。


 「……!? あれは……」


 「……ふぅ……。上手く当たってよかったです……」


 「……ソルっ!!!」


 聖鳳軍二軍、ソル・スエリア。

 姉譲りの炎魔法をぶつけたのは、彼女だった。

 

 ラフェルが敵を誘き寄せて、予めエネルギーを最大に溜めていたソルが魔法を見舞う。 

 

 先程合流していた二人の作戦は、無事に決まった。

 

 「ナイスソル!! 次は……俺だっ!!!」


 間髪入れずにラフェルが竜巻を落とす。

 マビュートはその中心で身体を痛めながら猛回転。


 「はあっ……!!」


 更にその隙にソルが爆破。

 渦の中心で、爆発を起こす。


 「うああっ……!!」  


 中でマビュートの痛そうな声が聞こえる。

 

 あの時から更に洗練された二人の魔法の組み合わせが、強大な敵へと牙を向いた。

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