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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第九章
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第二百六十六話 『戦いへの愉楽』

 ――――何をしたの……?


 知らぬ間に腕が破壊され、今殴られた頬も破壊されている。


 破裂した顔面でティローナを見つめながら、状況を分析するマビュート。


 「(……私の顔……あの子に殴られてこうなった……。……ということは、この腕は……あの時か……)」


 先程一度拳を受け止められた時、軽く殴られていた事を理解する。

 この二つのダメージは、同じ原理。

 ティローナの拳をもらったからだ。


 「どういう理屈なのかしら? これは?」


 思わぬ反撃を貰ったことで、ティローナへの興味を強めるマビュート。

 攻撃の原理を知ろうと、再び彼女との会話を試みる。


 「…………私の技って事は教えてあげるよ。それにしても、効いてて安心した」


 「……そ。……ま、正直理屈なんてどうでもいいわ。ただ貴女が、可笑しな力を持ってるってことが分かったからね」


 ……今の会話で安心したことがある。

 

 ティローナは、この魔物が「カルダ流を知っているのではないか」、あるいは「対処方法を知っているのではないか」と予想していた。


 だから使うのを少し躊躇った。


 かつての使い手が仲間にいたのだ。

 情報が共有されていてもおかしくない。


 だが、今分かった。

 

 こいつは、カルダを知らない。

 こいつに、カルダは有効だ。


 切り札である力を構えるティローナ。


 トライフは他の仲間とはほとんど話していないため、また、上級魔物がティローナと接触するのを妨害していたため、カルダを知っている魔物はほぼいない。

 

 あの時、ティローナについての情報をジャーザンスが知らなかったのもそのためだ。


 「……でも、ティローナさん。こんな力を持っているのに、あんな言葉が出たの?」


 「…………そうだけど」


 「変だわそれは。こんなの、ただ破壊するためだけの力じゃない? そんな力を持っていながら、何故戦いを好きにならないの? 戦い嫌いが持って良い力じゃないわ」


 二ヵ所壊れながらのマビュートの言葉に目を細めるティローナ。

 「だから欲しくて得た力じゃないんだよ」と出てきた言葉を抑える。


 今は、あの日を乗り越えた今は、一族間で継がれてきたこの力に誇りを持ちたいと。

 力を得た意味を持ちながら戦いたいと思っているから。


 「……確かにあなたの言う通り、この力は破壊の力だよ。……でもね、私は、破壊に意味を持ちたい。壊すためじゃない。『護るため』の破壊の力。だから、変じゃないよ。どんな力も、使い方次第だから」


 「……あらそう。……でも、その力さんも、貴女みたいのに使われるなんて気の毒だわね。きっともっと、壊したいと思っているだろうに」


 「……!! ……そんなわけないよ……!! カルダは……護るための力だから……!!!」


 完全武装で飛び掛かるティローナ。

 対するマビュートは、背中から触手を生やしながら迎え撃つ。


 「(……『カルダ』というのね……。あの子の手に触れたものを破壊する力……。……でも、初めての体験で面白かったわ。さっきはちょっとびっくりしちゃったけど……)」


 「(……カルダは効く……!! だったら、この人の全身に叩き込み続ける……!! 倒れるまで……ひたすら……!!!)」


 「――――ふんっ……!!!」


 ティローナのボディブローが入った。

 カルダも同時に炸裂し、マビュートの腹が弾け飛ぶ。


 更にもう一撃。

 今度は胸の辺りを破壊する。


 「まだまだまだっ!!!」


 相手に反撃の暇を与えることなく、宣言通り全身をボコボコにしていく。

 一発打ち付ける度に、マビュートの皮膚が飛び散り、身体に穴が空いていく。

 見るからに無事とはいえない姿と変化していく。


 ――――だが、


 「(倒れない……!!)」


 全く倒れない。


 カルダ流は本来、早期決着を前提とした技法である。

 

 肉体の内部からの破壊。

 そんなものを受ければ、直ちに決着はつく。


 また、カルダート家は魔物にしか使わないと決めている。

 人間が耐えられるものではないから。


 それなのに、この女は立ち続けている。


 その姿は、痛みに耐えながら懸命に拳を振るティローナに対して、精神的なダメージを与えた。


 ――――それどころか、


 笑っている。


 血の匂いがする歯を見せながら、痛ましい姿で笑っている。


 「面白いわねえ!!!」


 「!!?」


 顔を上げながら、急にマビュートが叫んだ。

 それを見たティローナは、攻撃が止まり、反射的に距離を取る。


 「理屈は分かったわ!! 貴女の膨大なマナを尋常じゃないほど送り付けることで、私の内部を破壊しているのね!!?」


 「(……バレちゃった……。……ううん、別にそこは大した問題じゃない……。――――問題なのは、倒れないこと……)」


 「……その顔、正解のようねえ。……そして、ということは!!」


 「(――――でも、生物なんだから、倒れないなんてことはないはず……!! それに、長引かせたくない……!! この人、怖い……!!)」


 テンションが上昇したマビュートに戦くも、もう一度距離を詰めるティローナ。

 再び洗練されたマナを纏わせ、マビュートに拳を振り掛かる。


 マビュートは目をガン開きながら、拳の軌道に腕を伸ばした。


 「…………!! あれっ……!!?」


 拳を振るった側、ティローナが動揺する。

 

 爆発が起きない。

 カルダが炸裂していない。

 確かに拳は、マビュートの腕に触れているのに。


 ――――まさか……


 「こういうことよねえ!!!」


 「ええっ……!? ……ううっ……!!」


 拳を止められたティローナ。

 驚きで動きも止まる。

 その隙にマビュートが一撃。


 すぐにバク転して起き上がるが、動揺は抑えられない。


 「それを防ぐには、貴女のマナに、私の方からもマナをぶつければいいんでしょう!? ――――やっぱり面白いわ戦いって!! こういう風に、正解を見つけた時とか特にね!!!」

 

 「……そんな…………」


 初めてだった。

 戦いの中で、カルダの対策法を見破られたのは。


 数発受けたとはいえ、尋常なダメージを伴いながら、冷静に分析して答えを見つけ出すなど、できることではない。


 だが、マビュートの天才的な戦闘センス、そして、痛みをも幸福に変える狂気的な戦いへの想いが、それを可能にした。


 「(……どうする……。カルダは通じない…………。カルダ無しで戦うしかない……!!)」


 すぐに切り替えるティローナ。

 武装無しでの、素手での戦闘に望もうとする。


 だが、


 「でも、安心なさい。今のはもうやらないわ」


 「……え……!!?」


 「貴女のそのカルダってのを受けるの、気持ちが良いもの!!!」


 それ以上の恐怖を、感じ取った。

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