第二百六十四話 『出発』
「――――え……? 何を……言ってるんですか……? ショウエイさん……?」
レウラ戦の戦利品としてワープアイテムを拾った翔英。
彼の発言に、ルンベは思わず聞き返してしまった。
「……ルンベ、どこに行くかは分からないけど、俺はこいつで飛ぶ。……きっと、奴らに関するところへ飛べるはずだ」
「……いえ、だから、何故そんなことをするんです……!? いずれそれを使うとしても、あなた一人では危険です……!! せめて、一軍のどなたかと合流してから……!!」
分かっている。
ルンベが言っていることは正しい。
それはよく分かっている。
そもそも、見当違いの場所へと飛ばされてしまう可能性もある。
人間が生活出来ない場所の可能性だってある。
行き先が分からないどこでもドアを使うのは、あまりにもリスクが高い。
それに、ルンベの言う通り、一人ではどうしようもない状況に陥るかもしれない。
いや、その確率の方が高いだろう。
――――それでも、
「俺は……ミネカを助けたいんだ」
「え……!?」
「俺は今、そのために生きているんだよ。……こんなことを言うのは間違っているかもしれないけど、俺は……『ミネカだけ』は、絶対に助けたいと思っている」
「……ショウエイさん……」
「……皆のことだって心配だけど……。でも、それでも、ミネカさえ無事ならって……そんな風に思ってしまう自分もいるんだ」
「……………………」
「……だから……これがミネカに繋がっている可能性がゼロではない以上……俺は、こいつを『今すぐ』使いたい」
「…………その気持ちは、分かりますよ……。でも、一人では……!! さっき言ったじゃないですか……!! 他の魔物もそれを持ってるかもしれないって……!! 倒して複数奪ってから、一斉に行った方が……!!」
「待ってるんだ……!!! あの子はずっと……!!!」
――――ルンベの言う事は相変わらず正しい。
でも、長い間、ずっとミネカは待っている。
誰かが来てくれるのを待っている。
『それ』は自分だと驕らせてくれ。
あの子を苦しめてしまった罪を償わせてくれ。
……それに、誰かと合流できるとは限らない。
これを他の魔物が持っていると言い切れるわけではないし、はたまた倒せるかどうかも分からない。
今確定していることは、ずっと求め続けてきた手掛かりがやっと、自分の手の中にあることだけだ。
待てない。
待たせられない。
すぐに、今すぐにでも、試さなければならない。
翔英に眠っていた『捨てる判断』が、ミネカが関わったことで顔を出した。
「……ならば、せめて……私も行きます……!! お役に立てるか分かりませんが……せめて……!!」
翔英の思いを理解したルンベの妥協。
彼が何のために聖鳳軍に入隊したのかも、概ね分かっている。
何より、自分はいてあげられなかったが、目の前でミネカを助けられなかった彼の気持ちは痛いほど理解している。
できるなら、その痛みを変わってあげたいくらいだ。
――――でも、彼の一番の思いは、翔英に「死んで欲しくない」ということ。
それでも引き留めることが出来ないならば、せめて、命の共有を求める。
だが、
「……いや、ルンベは、この町に残って、皆を助けてあげてくれ」
「な……!! どうして……!!」
「……ルンベの力を必要としている人がいるのは、この町だからだよ。俺一人よりも、聖鳳軍の皆の所に行って欲しい。それに、こいつの事を、皆に知らせる人がいなくなっちゃうしさ」
「……ショウエイさん……」
翔英はそう述べる。
ということに加え、このルートが決まっているワープゲートで飛べるのは、実は一人だけだ。
二人は知ったことではないが。
「……それに……大丈夫……!! 別に死にに行こうってんじゃないから!! ミネカを助けるまでは死ねないし!」
ルンベは優しい人間だ。
ルンベの思いを察した翔英。
その思いに応えようと、屈託のない笑顔を浮かべながら答える。
紛れもない本心を述べながら。
「…………分かりました……」
それを聞いたルンベはうつむきながら、目をそらしながら口を開く。
「ありがとう、ルンベ……!!」
こっちで最後に話せたのが、彼でよかった。
彼と話していると、ミネカと初めて出会った日のことが甦る。
あの子の笑顔が見たいと、強く思わせてくれる。
そして、こうして、
「ショウエイさん……!! 待っています……!! あなたの帰りを……!!」
やはり笑顔で送り出してくれる。
憧れていた敬礼をしながら、無事を祈っていてくれる。
「おう……!!」
翔英は返事と共に、持っていた玉を握り潰した。
使用方法は、あの時見ている。
すると、玉は紫色の渦を生み出し、翔英を吸い込んでいく。
空が視界に入る間、力強い目で見つめるルンベを目に移しながら、翔英は次元の狭間を翔んだ。
「……ショウエイさん……。……すいません……」
一人残ったルンベ。
彼はまたしても、自身の無力さを悔やんだ。
あの時、肩を並べて共に戦った彼。
いつの間にか、遥か高みへと行ってしまった。
その動力となったのは、間違いなく、ミネカ・ベルギアだったのだろう。
そんな思いの彼を止めることなどできなかった。
『ミネカのため』と言う、彼の行く手を止めることなど。
「(いや……!! そんなことを言ってる場合じゃない……!! 行かなければ……私も……!!)」
あれが本物だと分かった。
使用方法も今分かった。
嘆いている暇などない。
皆戦っているんだ。
他の皆に伝えて、あれを手に入れ、必ず翔英の元へ行くと心に誓うルンベ。
彼の戦いはまだ終わっていない。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
翔英が一人中央都市を離れ、孤独な戦いを始めようとしていた頃。
各地に散らばっていたミワルナ軍は、ソル・スエリア、ラフェル・フルミーネ、フェルフラム・ボンバといった聖鳳軍上位の面々によりほぼ壊滅。
副官のメイティ-は、残り少ない残存兵士を盾にしながら逃亡を続行中。
残る強敵は、三体。
中央都市各地の三ヵ所で、三つの大きな戦いが続いていた。
東で戦う、ヴァナベール・ソルシードとラスドラーゴ。
西で戦う、レランカ・レルンとハビニック。
そして――――
「……中々やるじゃない……。お姉さん」
「……ありがとう……!!」
――――南。
ティローナ・カルダートとマビュートが、拳を交えていた。




