第二百六十一話 『妨害する不死』
中央都市から少し南へと行った、何もない道端。
そこで対峙する、二人。
「――――おお、その気になってくれて嬉しいぞ。じゃが、ちょっととは寂しいのう。永遠にでも遊びたいところじゃよ」
魔物側。
嗄れ声で爺さんが口を開く。
「……馬鹿言わないで。さっきも言ったけど、私急いでるの。待ってる人がいるのよ」
人間側。
凛とした声で、姉さんが口を開く。
「まあ別によ……」
「はあっ……!!」
更に話を続けようとするジジイを無視し、先制攻撃を仕掛けるヒナノ。
一撃で仕留めようと、渾身の炎雷魔法を放った。
「ぎょえええっ!!」
不意打ちを喰らったジジイは、情けない悲鳴を上げながら地面に倒れる。
彼が地に崩れるのを見たヒナノは、急ぎ帰還を再開する。
――――が、
「なっ……!!」
焼け焦げているジジイの腕が伸び、行こうとするヒナノの腕を掴んだ。
それだけでなく、炎と雷で焼かれた腕がみるみるうちに元の色に戻っていく。
「放しなさいっ…!!」
そんなジジイの腕をヒナノは魔法で切り落とした。
そして、不気味な老人から距離を置く。
「……!!!」
先程の一撃で戦闘不能にしたはずなのに。
焼け焦げた全身は元に戻り、切り落とした腕もいつの間にか生えている。
「……何者なの……? あなたは……」
「……おお、お前から質問してくれるなんて嬉しいの、ヒナノ・スエリアよ。……ま、名前くらいは教えてやる。マイヤールじゃ」
「名前なんてどうでもいいわ!! あなたが何者かって聞いてるの!」
「……魔凰軍のジジイじゃ。それ以上でもそれ以下でもない」
「……ふう……」
――――マイヤール。
四十年前の戦いから既にジジイであった、魔凰軍の古参。
前線でバリバリ戦うような武闘派ではなく、基本的に後方支援を担当していた男だ。
今回の戦いでマイヤールは、ラスドラーゴから別の仕事を与えられていた。
それは、ヒナノ・スエリアの足止めだった。
明朝。
ヒナノが中央都市を離れたことを確認したラスドラーゴ。
これは偶然ではあったが、戦況を優位に進めるまたとないチャンスだと捉えた。
ヒナノが戦場にいないとなれば、かなりやりやすくなる。
だが、戦闘が始まればすぐにヒナノは帰ってくるだろう。
そこで、ヒナノが来るまでの時間稼ぎを任されたのが、このマイヤールだった。
彼は、何十年も積み重ねた研究と元々自身が持っていた魔能を組み合わせたことにより、ほぼ不死身の肉体を持っている。
身体が焼け焦げようが、すぐに再生する。
腕が取れようが、新しいのがまた生えてくる。
ヒナノがマイヤールを「倒す」と決めてくれたのは好都合。
まさに、マイヤールは足止めにうってつけの人選だった。
「――――まあいいわ。あなたが治せないぐらいの勢いで、攻撃し続ければいいだけでしょ」
ヒナノがまた動く。
自らが持つありとあらゆる攻撃魔法をノーガードのジジイにぶち込んでいく。
「……流石はヒナノ・スエリア。随分技が多彩じゃのう……。……じゃがっ……!! わしは倒せんぞおっ!!」
だが、攻撃を受けた所からすぐに回復していく。
奴が、地面に背中を着けることはない。
「……なら、これはどうかしら?」
「んんっ!!?」
直ぐ様次の手に移るヒナノ。
足を加速させ、距離を一気に詰め、敵の胸に手を置いた。
「……ううっ……!!」
発動したのは、死滅魔法。
胸に触れている間、みるみる身体が崩れていく。
「……このっ……!!」
堪らず拳を振るうマイヤール。
だが、ヒナノが纏わせているバリアを壊すことは出来ない。
「……ちぃっ……!!」
「さっさと消えてくれるかしら?」
「うあっっ……!!!」
数十秒の後、マイヤールの全身は崩れ去った。
マイヤールが粉々になったことを確認し、ヒナノはまた本部へと進んでいく。
だが、
「……まさか……」
風がヒナノに纏わり付いてくる。
その風はやがて、崩れた肉体を再生した。
「……何なのよ……」
風から復活したマイヤール。
再びヒナノの腕を掴み、彼女の行く手を阻む。
「……まだまだ、遊び足りんぞ」
「……放しなさいっての!!」
先の再現。
またヒナノがマイヤールの腕を切断する。
「(……こいつ……バラバラになっても生きてるなんて……。……面倒ね……)」
切断された腕を復活させるマイヤール。
イライラを隠せないヒナノを見て笑みを零す。
「さて……どうする? ヒナノ・スエリアよ。そんなものでは、わしは殺せんぞ?」
「…………しょうがない。あなたみたいのが向こうへ行ったら、厄介だものね。ちょっと疲れるけど……これで始末してあげるわ」
「ほう。何をするか楽しみじゃのう」
ヒナノが動く。
人間に対して使用することを自ら禁じている魔法をしつこいジジイに掛けていく。
「(ほっほっほっほっ。そうやって時間を掛けてくれるのは好都合じゃ。わしの目的は、皆が聖鳳軍を片付けてくるまでこやつの足止めをすること。そう時間は掛からんじゃろうし、楽な仕事じゃ。いくらヒナノ・スエリアと言えども、わしを殺すことなどでき…………んっ……!?)」
長々とモノローグを語っている間に、マイヤールに異変は起きていた。
ヒナノが魔法を掛け終えたのだ。
「ど……!! どこじゃここは!!? ヒナノ・スエリアはどこに!?」
いつの間にか、景色が大幅に変化していた。
先程までいたのは何もない道路。
今自分がいるのは、崖っぷち。
目の前には、底の見えない崖下が広がっている。
「おおっ……!!」
後ろも同様だった。
立っている場所は、奈落の底に挟まれている。
しかも、
「……な……なんじゃ……!! 身体が思うように動かんぞ……!!」
というおまけ付き。
「(……いや……落ち着け……!! ここは間違いなく、ヒナノ・スエリアが作った幻の世界……!! 現実ではないはずじゃ……!! ならば……!! 必ず出口があるはず……!!)」
爺にしては冷静に頭を働かせ、現状を分析するマイヤール。
そう考えれば、この崖も怖くはない。
「いいえ。出口はないわ」
「!!?」
また気付く間もなく、ヒナノがいつの間にか現れた。
見上げた場所に、天使の様に浮かんでいる。
「ヒナノ・スエリア……!! そんなことを言っても無駄じゃ……!! こんな場所、今に抜け出してくれるぞ!!」
「あら、気を付けてね。その足場どんどん無くなってから」
「……なっ……!? いやいやここは虚構の世界……!! 落ちても問題はない……!! ――――むしろ!! この先が出口だと見切ったわ!!」
自分を信じたマイヤール。
底の見えない崖下へと飛び降りた。




