第二百六十話 『足止め』
「――――は……!!」
意識を取り戻したのは、バール・バーランド。
目覚めと同時に左右に目をやり、近くに座っていた男に気付く。
「……目が覚めましたか。バールさん」
「……お前……マーノか……?」
「ええ。命が助かって何よりですよ」
聖鳳軍一軍、マーノ・ジャッロ。
バールを救出したのは彼だった。
ここは建物の中。
ダクライズとの戦闘があった場所の近く。
「……そうじゃ……!! ルナレジェンは!? オーは!? 二人もこの辺りに倒れていたはず!!」
「……ルナレジェンは無事ですよ。あそこで敵の接近を見張っています。貴女が気付かないなんて、やはり相当の深傷だったようですね」
「そうか……」
マーノの視線の先には、意識を取り戻したルナレジェン。
彼女は特殊な肉体の影響で、バールよりも先に目を覚ましていた。
当然、助けが来るのが少しでも遅かったら、確実に命を落としていたが。
そんなルナは起き上がって早速、見張りを行っていた。
ここは既に、戦場と化している。
油断は出来ない。
マーノは「やめておけ」と言ったが、ルナは「自身の能力が一番見張りに適している」と、見張り役を買って出た。
確かに、バールの治療をしなければならなかったマーノは、ルナの提案を受け入れた。
「……残念ながら、オーさんは……亡くなっていました」
「……やはりそうであったか……。我らは最後にオーに助けられた……」
「……ええ、そのようですね……」
「…………マーノよ。他の者の様子は見たか?」
「いえ。まだです。異様な気配を感じたもので、急ぎここヘ飛んできた次第です。…………まさか、こんなことになっているとは思いませんでしたよ」
マーノは明朝。
私用のため、中央都市から離れていた。
先程、本部への召集命令を受けたため、中央都市へと帰還した。
偶然にも、北の方に出ていたマーノは、帰り際にダクライズの邪気を感じとり、ここに戻ってきたというわけだ。
「……そうか……。……それにしてもお主、よくあれを治療できる手段を持っておったな……。いや、もちろん感謝はしておるが……」
「はい。有害物質や猛毒を放出してくる魔物がいると聞いたことがあったので、解毒薬を前々から作っていたんです。……役に立ってよかったですよ」
「ほう。流石マーノ・ジャッロじゃな……」
魔物の研究の過程で製作したことは伏せつつ、バールの質問に答えるマーノ。
そしてバールの顔色が良くなっていることを確かめると、彼は立ち上がった。
「…………では、私もこれから戦場へと参じようと思っております。バールさんは、此方でお休みになっていて下さい」
「……そうか。気を付けてな。わしも一息ついたらまた向かう」
マーノを見送るバール。
彼は、見張りをしていたルナにも声を掛けると、町の奥へと進んでいった。
マーノと会話を交わしたルナは、バールの元へと戻ってくる。
「……大丈夫なのか? ルナレジェン」
「うん。大丈夫や。バー婆は?」
「見ての通りじゃ」
「そっか。なら良かった。オーさんのことは残念やったけど……」
「……奴は、役目を全うしたのだ。奴の分まで、この世界を護らにゃいかんな」
「……………そうやな」
マーノの治療はかなり効いている。
もう、並みの魔物が襲ってきても軽く返り討ちにできる程度には回復している。
だが、バールとルナレジェンはもう少しこの場に留まること、そして、とりあえず終戦までは共に行動することを決めた。
「(オーよ……わしもいずれ行くだろう。少し待っておれ……)」
ダクライズの他にも、強力な魔物の気配は感じる。
でも、流石にダクライズクラスの魔物が相手では足手まといになってしまう。
今は、無理やりそんなとこに参戦するのは得策ではない。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
――――マーノの他にも、任務により外部に出ているメンバーが三名いた。
リュノン・アーリー。
ヒナノ・スエリア。
アルシル・モアノールの三名だ。
ヴァナベールから指示を受けた三軍以下のメンバーが、特殊任務により行き先が分かっていないアルシル以外の二名には救援要請を出している。
「……サツヤさん!! 住民の避難が完了しました!!」
「……そうか……!! わかった……!! 後は、残っている人たちが魔物を倒してくれれば終わりだっ……!!」
救援要請及び住民の避難の指揮を取っていた、聖凰軍三軍、サツヤ・グル。
とりあえず、もう二人戦場に駆けつけてくれる。
特にヒナノは、攻防に長けた、一人で戦況を傾ける力を持っている、まさに主力と呼ぶべき人材だ。
「……よし……!! 俺は逃げ送れた人がいないか見てくる……!! ……お前も来てくれ!!」
「了解しました!!!」
リュノンは少し距離が離れた場所にいるので時間が掛かってしまうが、ヒナノは魔法を使ってすぐに戻ってきてくれる。
彼女の帰還は、人間側の勝機の一つだ。
……はずだったが……。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「――――どいてもらえるかしら。私、急いでるのよ……」
「そうはいかんのじゃ。ヒナノ・スエリア。お前には、わしと遊んでもらうぞ」
帰り道。
ヒナノは足止めを喰らっていた。
相手は、ボロボロの服を着用した小汚ない老人。
だが、こいつが普通ではないことは既に分かっている。
ヒナノは本日、前々から引き受けていた仕事のために南にある町に訪れていた。
その仕事途中、中央都市の危機についての情報がヒナノに耳に届いた。
彼女は仕事を引き上げ、急ぎ中央都市へと飛び去って行ったが。
その道中、この老人に妨害された。
背後から不意打ちを喰らい、地面に落とされたのだ。
「(……このおじいちゃん……。『今』こうやって邪魔してきたってことは、魔物なのは間違いないけど……。……不意打ちとはいえ、私が落ちるなんて。……ただの魔物じゃなそうね……)」
今すぐにでも向こうに戻らなくてはならない。
ヒナノはこいつをどうするか考える。
できれば無駄なマナは使いたくない。
向こうで待っている戦いのために、消耗は避けたい。
こいつを振り切ることは可能だろう。
全力を逃亡に注げば、すぐに都市へと戻って来れる。
しかし、それではこいつもまた、いずれ都市へとやってくるだろう。
――――しょうがない。
「……分かったわ。遊んであげる。ただし、ほんのちょっとだけね」
ヒナノはここで、こいつを倒すことを決めた。




