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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第九章
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第二百五十八話 『消えない執念』

 「(――――『凍らせる』……か……)」


 氷魔法を使うことのできる人間は、そう少なくはない。

 だが、離れた物体を瞬く間に凍結することのできる人間は、聖鳳軍にはヒナノ・スエリアの一人しかいない。

 

 ルナレジェンもまた、使用することは出来ない。

 むしろ彼女は、魔法を得意としていない。

 使えるのは、簡単なものだけだ。


 バールはそれを知らない。

 知っているのは、ルナが不思議な力を持っているということ。


 彼女ならば、使えるかもしれないと思った故の提案だった。


 ルナはそれを引き受けた。


 この状況では、それ以外の策は思い付かない。


 「(…………あれを使うしかない……)」


 だが、彼女は魔法を使わなくとも、物体を凍らせる可能性のある力を持っていた。

 それは、人間のものではない、力。


 ……しかし、雨漏りしているとはいえ、屋内では使うことができない。

 ターゲットが見える場所に行かなくては。

 土砂降りの中へと入っていかなくては。


 「バー婆!! ボクを外に飛ばしてくれ!!」


 「……!? それでは雨が直撃するぞ!!!」


 「構わない! そしたらボクが雲を固める……!! バー婆は離れててくれや!!!」


 「……承知……!!」


 激しい雨に撃たれ、今にも崩れて来そうな天井。

 穴はどんどん増えていき、安全な場所が消えていく。


 「――――はあっ……!!」


 その前にバールが動く。

 再度杖を投擲し、ルナを外へと突き飛ばした。


 「……!? 出てきやがったのか!? バカがっ……!!」


 その姿を見たダクライズは、ルナの上にも雲を作り出す。


 「(そこにも仲間がいるのは分かってるからな……。そっちも続けるぜ……!!)」


 ダクライズが作り出す雲は、自身の頭上にある母雲から生まれている。 

 疲労を伴うが、母雲さえ無事ならば何個でも増やすことができる。


 今、彼はルナとバールの上に、闇の雲を設置した。

 

 その間にルナは、杖を飛ばされた方角へと投げ、力を使おうと試みる。


 「(……これを使うのは、リスクが高い……。でも……こいつを倒すには、これしかない……!!)」


 そう。

 ルナレジェンが使用できるのは、動物の力だけではない。

 彼女は、一部の魔物の能力を使うことが可能。


 その中に、氷結能力も備わっている。

 この力を他人に見せることのリスクは高いが、今は盲目のババアしか近くにいないし、そんなことを言っている場合でもない。


 「(……これで…………うっ!!)」


 しかし、一足遅かった。

 

 全身に負荷が係った状態での力の解放。

 それを完了する前に、再び雨が降ってきた。


 「そう耐えん方がいいぜ。さっさと死にやがれ!!」


 「うあっ……!!」


 普通の雨だとしても耐えられないであろう衝撃。

 

 やはり飛び出していくのは無謀だったのか。

 ルナの意識は、また消えかけようとしていた。


 「ルナレジェン!!!」


 それを感じたバールも彼女を助けようと丸腰で飛び出そうとする。

 だが、彼女の鼓動を感じたことで足を止めた。

 

 ここでルナを助けたとしても、そこからの反撃の手立てはない。

 今は、ルナを信じることが最善の策だと、老兵は目を瞑った。


 そんな、ルナは――――


 「(……いや、ボクがやらなあかん……。ボクが止めればきっと……やってくれる……)」


 何とか意識を保ち――――


 「(――――それに……『あの人』のためにも、ボクはまだ死ねんやろ…………? ……動けや……まだ、ボクの死に場所はここやない……)」


 土砂降りの中、顔を上げた。


 「…………おい耐えるな!! 早く終われっ!!!」


 「そうはいかん……。ボクは、お前に勝たなあかんねん」


 震える手を翳すルナレジェン。

 そして、呼び起こしていた魔物の力を解き放つ。


 「……!? なんだ……!? 何をする気だ……!? この感じは……まるで……!!」


 魔能。

 同族が能力を使う際に発する力を、正面から感じとるダクライズ。


 そして――――


 「……!? なんだ……!? 雨が……!?」


 凍った。


 ダクライズの頭上、浮かぶ雲。

 邪悪なエネルギーを固めた作った雲状の兵器が、その動きを停止した。


 大元が停止したことで、残りの二つも機能を失う。


 「……凍らせたのか!? ……はは……!! そんなもん……また新しく作ればいいだけのっ…………んはっ……!!」


 雨が止んだ、数秒。

 一瞬の快晴を逃すことなく、猛然と飛び出した黒い影。


 バール・バーランドが、ダクライズの元へと駆けてきていた。


 ルナが顔を上げた瞬間。

 バールは移動の準備を済ませていた。

 必ず彼女が作ってくれるであろう隙を、命を懸けて生み出した時間を、絶対に無駄にしないために。


 「……てめっ…………」


 「遅いわ。ど阿呆」


 彼が動くよりも早く、バールの閃光が胸に刻まれる。

 巨大な魔物の上半身は、地面に転がり落ちた。


 「……やった……バー婆……」


 その様子を閉じかける目に映すルナレジェン。

 敵が真っ二つになったのを確認すると、バタンと眠りについた。


 「……なん……だと……? ……身体が……動きやがらねえ……。……それに……足の感覚が……」


 「当然じゃ。貴様の胴体を斬った。観念するんじゃな」


 「……あ? お前に……?? 斬られたのか? 俺の身体が? ……はは、悪い冗談だ」


 「……冗談などではない。お前は死ぬんじゃ。……というか、さっさと死んどくれ」


 「ぐあっ……!!!」


 身体が離れて尚喋り続けるダクライズに、容赦なく仕込み杖を突き刺すバール。


 さすがに限界を迎えたのか。

 彼の下半身が消滅していく。


 「……なるほどな……。お前らの力を侮っていたってわけか……。はは……まさか俺が……てめえみたいなババアと女に殺されるなんてな……」


 「本当にしつこいのう。あの世に行けと言っとろうに」


 「……慌てんなよ。もう俺は死ぬさ……」


 ダクライズの言葉通り。

 彼の上半身もこの世から姿を消していく。

 ようやく、古の魔物を一人、葬ることができた。


 四十年越しの勝利をものにすることができた。


 「……だがよ、俺もただで死ぬのは嫌なんだぜ……」


 「!? 何をっ!!」


 死ぬ間際。

 両手を振り上げたダクライズ。

 その行動に反射的に動き、腕を切断するババア。


 だが、


 「……意味ないぜ。それを斬ろうともな。『こいつ』は強制的に発動する」


 「……何を……」


 「ははははははっ!!! 死ぬぜお前らっ!!! ザマあみやがれっ!!! あっはっはあー!!!」


 「……!? これは……!!」


 ダクライズの両手が浮かんでいく。

 バー婆はそちらへと警戒を集中させる。


 「――――じゃあ、待ってるからな。お前ら」


 そう言い残し、ダクライズは死亡した。

 だが、両手だけは空に浮かび残っている。


 それを見つめるバールの前で、両腕は、爆発した。

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