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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第九章
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258/269

第二百五十七話 『死の雨』

 「――――ちぃっ……!! くそがっ……!!」


 度重なった上空からの狙撃。

 さらに胸を一突きにしたルナの不意打ち。


 かなり効いている。

 既に致命傷となるほどのダメージを受けている。


 ダクライズは地に背をつけた。

 敵の前で、倒れるのは初めてのことだった。

 否が応でも、人間の進化を感じざるを得なかった。

 

 「……トドメ刺したるわ」


 戦況逆転。

 先程とは逆の立場。


 心臓を貫いた一撃は重い。

 今にも、処刑されようとしている。


 「……ふざけるな……。俺が……二回も見下ろされるだと……!!」


 「見下ろされるだけやない。殺されるんや」


 「ぐおっ……!!」


 さらに突き刺すルナレジェン。

 一刻も早く敵を倒すため、この時間を物にするため、容赦はしない。


 ……だが、中々しぶとい。

 ルナの火力不足というよりは、ダクライズがしぶとい。

 全身を攻撃しているのに、その肉体が限界を迎えることはない。


 「タフな奴やな……。さっさと…………。んっ!?」


 肉体が尽きる前に、ダクライズの身体は叫びを上げた。

 噴水のように、彼の体液が勢いよく上空へと飛び出した。


 その勢いは、尋常ではない。


 「……!? これは……!? ……やばいっ……!!」


 その光景の異様さを感じ取ったルナレジェン。

 攻撃をストップし、ダクライズから距離を取る。


 絶好のチャンスを投げてもしょうがないほどの恐怖が、今の奴にはあった。

 

 「……ははは……。距離を取ったところで、意味はねえぞ……」


 攻撃を受けまくってボロボロのダクライズが何とか身体を起こす。

 そんな彼の上空には、『小さな雲』が浮かび上がっていた。


 「……まさか…………。……あれは……」


 警戒を敷くルナ。

 ルナはあの雲のような物から、あれが降ってくることを予想する。


 「(……やばいな……。ってなると、あいつの元に行ったらあれに撃たれまくる可能性が高い……。近づくのは危険か……。だったら……)」

 

 ダクライズを見張りながら、ルナは上空から連発していた衝撃波の構えに入る。

 ダクライズの方は突っ立っている。


 「(……近づいてこない……。ならこっから撃ったる……)」


 彼はまだ、動いてこない。

 いや、動けないといった方が正しいのか。


 射撃に入るルナ……だが、


 「……!? これは……」


 急に足元が暗くなった。

 日の光が遮られたように。


 「!!?」


 反射的に空を確認したルナは青ざめる。

 

 奴の頭上にある雲。

 それと同じ物が、自身の頭上に浮かんでいた。

 

 ……だけでなく、雨が降ってきた。


 『灰色』の雨が。


 「……やばいっ……!!」


 幸い雲は小さい。

 すぐに範囲から抜き出そうとするルナ。


 だが、


 「……マジか……」


 雲が追いかけてくる。

 死の雨を降らせながら。


 「ぐっ……ああっ……!!」 


 粘液を纏っているとはいえ、こう連続で浴びせられたら流石にマズい。

 ルナは足を加速させ、一気にダクライズの元へ近づこうとする。


 「……ははは。こいつは使いたくなかったんだがな……」


 発動されたのは、ダクライズの切り札。


 自身の頭上に核となる雲を設置。

 さらに、ターゲットの頭上にも置くことができる。

 その雲は一滴で身体の痺れる雨を降らせる。


 しかし、最初から使わなかった様に、この技には体力を激しく消耗する。

 

 ダクライズはこの戦いを前哨戦だと捉えていた。

 さっさとオーとルナを倒して、次へ次へと進むつもりだった。


 だが、彼はその認識を改めた。

 「生き残る」ために、この戦いのみを見ることにした。

 

 よって発動。

 撤退はプライドが許さない。

 

 こいつらに勝ったら、一旦帰ることを決めた。


 「……ああ、そう来るよな」


 動けないダクライズに迫るルナレジェン。

 雨に撃たれまくっているが、鬼の形相でこっちに向かってくる。


 「……来るんじゃねえ」


 「……ぐあっ……」


 だが、ルナの進行は止まった。

 固体となった雨に、串刺しにされたことで。


 「……うああああっっ……!!!」


 針となった毒の雨が、ゲリラ豪雨の様に降り注ぐ。

 地面に這いつくばるルナ。

 文字通りの矢の嵐に、動くことすらままならない。


 「ははははっ……!! いい光景だ……!! ――――さァ……さっさと死ぬがいい……!!!」


 これでは粘液の意味もない。

 確実に兵器は身体に染み込んでいく。

 

 「(……あ……あかん…………これ…………。身体……動かへん……)」


 能力の併用を続けてきたことに加えて、自由を奪う悪魔の体液。

 いくら怪物のルナレジェン・ペサンテといえども、反撃の手立てがない。


 雨に撃たれたまま、命は尽きようとしていた。

 

 「……!? なんだあいつは……!!」


 だが、そんなルナを恐怖の雲の下から救出する者が現れた。

 

 現れた彼女は遠くから杖を投擲。

 ルナは勢いよく吹き飛ばされ、そのまま窓を突き破り近くの民家へと逃れた。

 彼女もルナを追いかけそこへ逃げ込む。


 「……ちぃっ……!!! ゾロゾロとまた邪魔に来やがったか……!!! まあいい……そんなとこにいても、何人増えようとも同じことだ……!!!」


 雲は自身の見えるところにしか設置することが出来ない。

 身体が重くて歩くもしんどい彼。

 二人が逃げ込んだ家の屋根の上に、雲を移動させた。


 「……ありがとう……助かったわ……。バー婆……」


 「……大丈夫か? ルナレジェン」


 ルナを間一髪で救出したのは、盲目の老婆、バール・バーランドだった。

 翔英の昇格試験の試験官を担当した人物だ。


 「……いや、大丈夫やない……。あちこち痺れる……わ……」


 「……オーも向こうでやられておったし、敵はかなりの奴じゃな…………。してルナよ。奴の武器はなんじゃ? 痺れるということは毒か……?」


 「……ああ、それは……。……!? これは……!?」


 屋根から矢が降って来るような音がボコボコする。

 すぐにルナは察知した。

 

 あれで、屋根を突き破ってくるつもりだ。


 「……この音は……?」


 「バー婆!! 奴の武器は雲から降らせる毒の矢……!! この音はそれが屋根に降ってきてる音やっ……!!」


 「なるほど……」


 「だから…………なっ……!!!」


 屋根に穴が空いた。

 天井を突き破り、雨が入ってくる。


 「ルナレジェンよ!!! 奴の雲を凍らせることはできるか!? したらわしがあの雲を斬るっ!!」


 「……凍らせる……か……わかった……やってみる……!!」


 再び雲が頭上に広がる中、急遽結成されたタッグが最後の反抗を見せる。

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