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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第九章
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257/268

第二百五十六話 『見据える勝機』

 ――――つまらねえ……。

 

 上方を見ながらポツリと呟くダクライズ。

 

 彼が好きなのは、自分が優位に立っている状態で戦うこと。

 こんな風に、相手を見上げながら、攻撃手段がないまま戦うのは、血管が浮き出るほど腹が立つ。

 

 見下ろされるのは、許せない。


 自分もクソゲー戦法を強いていることは、完全に棚に上げているが。


 「(……あの顔……効いてるみたいやな。このまま、もう何発から喰らわせたるか……)」


 装填準備。

 怒りに狂う奴の顔面に、衝撃波をお見舞いする。


 「っっ!! くそおっ……!!」


 ダクライズの右目が潰された。

 ここまで苦戦を強いられた経験はない。


 「ぬっ……!!」


 棘を飛ばして見ても、空を翔べるルナに当たることはない。

 優勢なのは間違いなく、人間。


 「(……やはり流石だね……ルナちゃん……)」


 情けなくも戦いを傍観するオーが思う。

 どういう理屈であんな能力が使えるのかは知らないが、これほど頼りになるとは。


 『あらゆる生物に変形する力』

 その能力を強化させて使うこともできる。

 

 だが、一つ使うだけでもかなり体力が減り、併用すると著しく疲労がたまっていく。


 小一時間休憩すればまた使うことができるが。

 この状態での活動限界は、十数分程度だろう。


 だから、


 「(――――早めに決めな……)」


 あまり遠く離れすぎると、衝撃波の威力が弱まってしまう。

 敵の攻撃に対応できる距離を保ちつつ、できるだけ近づきながら。

 更にもう一発。

 ダクライズの胸に撃ち込まれた。


 「………………」


 まだ倒れない。

 それどころか、目をつぶってうつむき始めた。


 「(……何……? 何をする気や……)」


 警戒を強めるルナレジェン。

 彼女は射撃をストップさせた。

 敵の動きを観察するために。


 「(動かんな…………)」


 だが、何もしてこないダクライズに痺れを切らすルナ。

 勝負を急ぐべく、更に銃口を構えるが……。


 「……!! 動いたっ……!!」


 そのタイミングで、ダクライズが頭を上げた。

 

 笑っている。

 こっちを見ながら。


 「はあああっ……!!!」


 そして、咆哮。

 

 ――――とともに、体内から流れ出る例の毒液を固めた。

 それも、十数メートルにも及ぶ巨大な竿として。


 「…………なんやと……?」


 さらに、それを身体から抜くダクライズ。

 武器と呼ぶにはあまりに長すぎる武器が、彼の手に渡った。


 ただの人間ではないとはいえ、仮にも人間の女にこうも優位に運ばれたことへの怒り。

 戦いを自身が楽しめないことへの怒り。

 

 その怒りが、ダクライズに新しい武器をもたらした。

 

 「おらあっ!!!」


 取り出した武器を上空のルナレジェンに振り下ろすダクライズ。

 距離のアドバンテージを取っていた彼女だが、射程圏内へと入ってしまっている。


 「……ちいっ……!!」


 羽をバタバタさせ、ルナもさらに上空へ緊急回避。

 ギリギリ射撃をストップさせたことで、何とか回避を取れた。


 だが、


 「……!? これは……!!」


 振り下ろしたのと同時に、先端の凝固を解除するダクライズ。

 すると、勢いよく振り下ろされたことで、液体に戻った有害物質が空に飛び散った。


 「……!! やばいっ……」


 飛び散った液体は、空を舞いルナの元へ。

 勢いよく動かし続けていた彼女の翼に、触れた。

 

 「……っ……!? 羽がっ……!!」


 右翼が動かない。

 あれに触れたことで、その機能を停止した。


 それどころか――――


 「(侵食してくる……。こらあかんな……)」


 痺れはそこだけに留まらない。

 一発当たれば、全身へと徐々に侵攻を進めていく。


 ルナは翼を解除し、落下を選択した。

 

 身体を軽くすれば、落下自体に問題はない。

 問題はまた地上戦に戻ってしまうこと。


 ……そう思っていたが、


 「ああっ!!」

 

 落下するより早く、ルナレジェンは敵の攻撃を受けた。

 再び固体化していた武器が背中に振り下ろされていた。


 固体から液体、そしてまた固体に戻すのに、それをルナに当てるのに。

 その間、およそ三秒。

 

 横暴に見えたダクライズの器用な戦闘スキルが光った。


 勢いよく落下したルナレジェン。

 初めて彼女が、大きなダメージを貰った。


 「…………ミスったわ……」


 衝突間際で体重を変化させ、致命傷は避けたルナ。

 身体を起こし、歩いてきている敵へと目を向ける。


 「中々苦労したぜ。お前を引き摺り降ろすのによ。だが、これでお前はもう飛べない。それどころか、お前にもう勝機はないぜ。二発も受けた。それはジワジワとお前の動きを奪っていく。あいつのようにな」


 「……よう喋るな。もう勝ったと思ってるんか?」


 「そう言ったつもりだったが」


 「……甘いわ、あんた……」


 不敵な笑みを見せるルナ。

 だが、彼女の姿は痩せ我慢にしか見えない。

 一歩進めた足は膝をついてしまった。


 「言葉と姿がまるで合っていないな。でも、結構面白かったぜ、お前との戦い」


 「………………」


 「……顔も見せてくれねえか。……まあいい、じゃあ死ねっ!!」


 地面に顔をやるルナ。

 彼女にトドメを刺すダクライズ。


 ……が、


 「……悪いけど、まだ死ねんわ。――――やることがあるんでな」


 「!!? ぐっ……!!」


 ルナの笑みに気を取られた隙に、背中を斬られるダクライズ。

 ダクライズは後ろを振り返り、激昂する。


 「なんだよ!! またお前か!!?」


 ――――背後。

 

 鬼だ。

 さっき見たのより少し大きめの鬼が、爪で背中を削ってきた。

 しかも、笑っている。

 

 別にそんなに痛くないが、意識がそちらに向くだけの攻撃ではある。

 何より、あの重傷だったオーがまだこいつを呼び出す元気があったことに腹が立つ。

 

 「くそがっ!!! 引っ込んでろよ!!!」


 鬼をワンパンするダクライズ。

 やはり、相手にはならない。


 ――――だが、


 「――――ナイスや。鬼さん」

 

 「……!! なにぃっ……」

 

 その隙に起き上がっていたルナレジェンが、ダクライズの胸を串刺しにしていた。

 背中から生えた、鋭利な尻尾で。

 

 「……なんだと……。なぜ……お前……動ける……」


 「一発目は、ボクの身体に届く前に羽を消した。二発目は、粘液を纏ってただけや」


 「にぃっ……!!?」


 ダクライズが攻撃をした三秒間。

 動いていたのは、ダクライズだけではなかった。

 

 ルナレジェンもまた、聖鳳軍の主力を務める実力者。

 勝負を捨てるなんてことはありえない。

 耐え凌ぎ、敵に渾身の一撃を喰らわせるこの隙を狙っていた。

 

 鬼が来てくれたのは、ラッキーだったが。

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