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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第九章
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第二百五十五話 『銀髪の混成人』

 「――――ルナちゃん……」


 間一髪。

 颯爽と現れた彼女の背中を見ながら、オーが呟く。

 

 「……オーさん。えらい姿なっとるな……」


 ルナはオーへと目を向け、全身棘が刺さりまくっている彼の異様な状態に驚く。

 そしてそれこそが、奴の武器であり、オーを追い詰めた原因だと理解する。


 「……それ、抜いた方がええんかな」

 

 「……うん、抜けるに越したことはないけど……それは辞めておいた方がいい。ルナちゃん、君にまで危害が及んでしまう」


 「その必要はないぞ!! お前ら!!!」


 ダクライズが立ち上がった。

 嬉々とした表情で、二人との距離を詰めていく。

 

 やはり肉体からは有毒な液体が流れ出ているが、棘状態は解除している。


 「……その必要はないって……なんでや?」


 「その刺を抜いたところで、奴の体内には普通なら既に死んでいる程の有害物質が流れ込んでいる。死ぬのは時間の問題ってことだ」


 「……助かる方法は?」


 「ないぞ」


 「……そう。――――じゃ、君を殺してから探すとするわ。オーさん、それまで我慢しとき」


 戦闘態勢に入るルナレジェン。

 

 この魔物が一人で戦況を変えるほどの強さと厄介さを持っていることは分かる。

 だが、それは自分も同じだと理解している。

 

 こいつを倒すことが、己の仕事。


 オーも、死なせるわけにはいかない。


 ――――しかし、オーは自身の死を受け入れていた。

 

 ダクライズを倒すことを諦めたわけではない。

 ルナが倒してくれるなら、それに越したことはない。

 

 だが、そう簡単にいかないことは戦った自分がよく分かっている。

 一番マズいのは、ルナも同じように、この刺に串刺しにされること。


 「……ルナちゃん……。もし危なくなったら、僕を置いて逃げてくれ。……いや、他の仲間の所に行ってくれ」


 「……気が向いたらな」


 強敵の元へ駆けていくルナレジェン。

 仲間のあの惨状を見て尚、突っ込んでくる彼女をダクライズは笑顔で迎え撃つ。

 

 「面白れえ。何をするのか見てやるよ」


 一回目なので、相手の行動を見ることにするダクライズ。

 殺傷弾はまだ出さない。


 そんな余裕を見せるダクライズに対して、ルナは初めから飛ばしていく。


 両の腕を、ゴリラのように巨大化させた。


 「……何っ……!?」


 「ふんっ……!!!」


 そして、振り下ろす。

 

 突然埋まったリーチ。

 予想していなかった攻撃。


 ダクライズの回避は遅れた。


 「ごおっ……!!!」


 頭に叩き落とされた巨大な拳。

 彼が声を出さずにはいられない程の衝撃があった。


 更に顔面を叩くルナレジェン。

 両手を某ゴリラが地面を叩くようにバタバタさせる。


 「ぬうっ……!!」


 それは、ダクライズの表情から余裕の笑みを消し、たまらず回避を取らせるほどの威力があった。

  

 「お前……!! 人間じゃないな……!?」


 「……確かに、ただの人間やないけど。分類上は人間や」

 

 ダクライズの認識に大きく変化が生まれる。

 この女が、何故いきなり突っ込んで来たかよく分かった。


 強い。

 人間とは思えない力が、備わっている。


 「……どうやら、遊んでいる場合じゃなさそうだな」


 「(……何かする気や……。さっきのか……?)」


 オーに見せたように、全身に刺を作り出すオー。

 それを見たルナレジェンは、彼の変化と倒れるオーの姿を一致させる。


 「(……やっぱりそうや。オーさんはあれを受けて動けなくなったんや。――――ということは……)」


 一斉発射。

 数十発の殺戮兵器が、ルナ目掛けて飛んでくる。


 「……!! ルナちゃん!!」


 それを見ていたオーも、死が蝕む身体のことを忘れて彼女の名前を叫ぶ。

 自身の敗北の記憶が、頭の中で再現される。


 「……はっ……!!!」


 だがルナは、針が届く前に上空へと回避した。

 足を変化させての垂直跳びだ。


 しかし、


 「上に避ける……。それができればそうするのは当然だよな。――――だが、悪手だぜそれはよっ!!」


 四十年前にもその手は見ている。

 だが、それが上手く行ったことはない。


 人間なんだから落ちてくる。

 落下途中の人間に回避はできない。

 そこを狙えばお仕舞いだ。


 「……ん……!? 何ぃ……!!」


 だが、ダクライズは先程自分で言ったことを忘れていた。

 「こいつは人間ではない」と言ったばかりなのに。


 「飛べるのか……!! 奴は……!!」


 背中から鳥のような翼を生やすルナレジェン。

 バサバサと音を立てながら、上空に留まっている。

 飛ばした針が届かないほど、空に。


 「……くそっ……!!」


 とりあえずこの距離を保っていれば負けることはない。

 

 しかし、オーの安否もそうだし、他の戦場も気になる。

 時間に余裕があるわけではない。


 「(……さて……どうしよか……。あの針は毒……かな? ……どのくらいの威力か気になるけど、オーさんに刺さってる数を見るに、一発でアウトってことはなさそうやな……)」


 猛禽類の目で、オーとダクライズの様子を確認するルナ。

 ダクライズはまだ動いてこない。


 「(……かといって、安易には近づけん。このままってわけにもいかんし……。多分毒は効かんやろし……。しゃあない。あれ、やるか)」


 先にルナが動く。

 手をハサミのように変化させ、下方にいるダクライズに向ける。

 

 そして、大きな音と光とともに、衝撃波を放出した。


 「んん!?」


 音と光に反応するダクライズ。

 だが、腕を構える前に飛び道具は胸に撃ち込まれた。


 「ぐぅっ……!!!」


 この距離でこの速度でこの威力。

 ダクライズは天を睨み付ける。


 「ふぅ……。この音が嫌やねんな……。……それにこれ……しんどい……。まあ、そんなこと言ってられんけど……っ!!」


 もう二発、爆発と共に衝撃波を発射。

 二発とも、ダクライズに衝突した。

 

 だが、ルナの気持ちはきつい。


 クールな表情をしているが、能力の併用はかなりの疲労を伴う。

 人間離れした強力な能力なら尚更。

 視力を上げ、羽を生やして飛びながら、衝撃波を放出するのはかなりリスキーだ。


 それに、この戦い方はあまり気が進まない。


 「――――くそっ……!! なんてふざけた野郎だ……!!」


 イライラを募らせるダクライズ。

 小さくないダメージを受けていることよりも、こっちの手が届かない所から攻撃してくることの方がうざい。


 「……効いてるみたいで何よりや。このまま死んでくれたら、もっと助かるけどな」


 空中からの狙撃で息の根を止める覚悟を決めるルナレジェン。

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