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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第九章
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第二百五十四話 『進歩する達人』

 ――――なんだと……?


 こいつ、『遊んでいたのか』

 

 ただ、久しぶりに動ける喜びを、自らの血を見ながら味わっていただけだったのか。

 素手でしか戦わなかったのは、この戦いを終わらせないためだったのか。


 ――――驕っていた。


 勝手に、自らの力が奴に近づいていると勘違いしていた。

 奴にとっては、まだ戦いと呼べるようなものは起きていなかった。

 やはり、怪物は怪物だった。 


 「…………ふう……」


 オーは、湧き出てくる動揺を抑え込んだ。


 それが分かったところで、勝負を捨てるわけにはいかない。

 勝機がゼロになったわけではない。


 戦う前から分かっていたことだろう。

 奴が強いことなんて。


 「――――では、お前に思い出させてやるか。俺の、力を!!!」


 「(……来るか……!!)」


 戦闘開始。

 

 ダクライズの腕から、灰色の液体が零れ始める。

 それを見たオーは、苦い記憶に背中を引っ張られるように、ダクライズとの距離を取った。


 「はははは。そうだよな。お前は見るのは初めてじゃないんだ。そう距離を取るのは当然のことだ」


 「………………」


 『初めてではない』

 それがオーの行動の原因となっているのは、間違いないが、それ以上に『仲間が殺されていること』の方が大きい。

 

 あの液体を浴びせられた仲間は、時間が経つに連れ自由を奪われ、命を落としていった。


 彼の苦い記憶。 

 それらがオーの警戒を最大限に強め、ダクライズとの間に壁を作り出している。


 「――――だが、忘れたのか? そんな距離じゃ、意味ねえってことを」


 「!!!」


 更にダクライズが動く。

 体内から銃型の武器を取りだし、その中に身体から溢れ出る液体を注ぎ込んでいく。

 

 距離を取ったのか仇になってしまった。

 この距離では、奴に近づいている間にあれをぶち込まれてしまう。


 かといって、このまま見ているのはマズい。

 

 オーは剣を地面に突き刺し、眠っている戦いの記憶を鬼として呼び起こした。


 生まれてきたのは小さな怪物たち。

 平和な町の中では、巨大なものは生まれない。

 

 だが、それでいい。

 

 「……相変わらず妙な技だ。あの時よりも随分小さいがな……!!」


 ダクライズが銃を構えた。


 触れたものを蝕む液体を球状にし、銃弾のように飛ばしてくる。

 あれに触れたら、かなりの深傷になる。


 一方的に攻撃されるこの距離は良くない。

 オーは、飛び出して行った。


 「向かってくるかっ!!! 面白いっ!!!」


 オーの行動に戦いの面白味を見出だすダクライズ。

 彼に向けて、殺戮弾を撃ちまくる。


 「ふっ……!!」


 それに対し、オーも動く。

 剣を曲芸のように、振り回す。


 すると、生まれてきた鬼たちがオーの前に飛び出し、飛んできた球を受け止めた。


 「へえ!! 器用になったもんだなっ!!!」


 尚も撃ってくるダクライズだが、全て鬼がブロック。

 その隙に、恐怖で生じてしまった距離を詰める。


 「はっ……!!!」


 身代わり作戦が功をなし、戦闘モードのダクライズに数発入れるオー。

 さすがのダクライズもノーダメージとはいかない。

 

 「(……そうだ。僕の四十年間が無駄だった訳がない……。僕がこいつを倒すんだ。――――みんな、見ていてくれ)」


 今は無き同志たち。

 この男の手によって、命を落とした仲間たち。


 彼らの意思を背負い、成長してきた男。

 もう既に成熟していたかと思われたが、因縁の敵を前に命の危機に瀕したことで、その動きに更に磨きがかかった。


 人間の成長に年齢など関係ない。

 どれだけ達観しようが、どれだけ経験を重ねようが、上を見る限り成長は続いていく。


 「……やるじゃねえか。あの頃とは違うわけだ。人間。…………いや、オー・ラッセ。だったか」


 「…………僕も、負けるわけにはいかないんでね」


 四十年前に戦った時は、鬼たちはただゾンビのように邪魔してくるだけだった。

 それを手足のように扱い、ガードに使用するとは。

 長年の月日がこの男を変えていた。


 「……でもよ、変わったのは、お前だけじゃないぜ」


 「……!?」


 ダクライズの言葉と同時に、既に天井に達していたオーの警戒は、空へと突き抜けた。

 

 ダクライズの体内から溢れ出る液体が、みるみる固まっていく。

 全身に棘が生えたような歪な姿へと変貌していく。


 そして、


 「まだ、死ぬなよ」


 ボディビルダーのようなポーズを取った瞬間、身体に生えていた棘が一斉に発射された。


 見たこともない技。

 過去の戦いでは披露しなかった特技。


 いや、先の奴の台詞からして「新しく覚えた」というのが正解か。


 オーは、直ぐ様剣を振り、小鬼たちを防御に集中させる。

 鬼は生物ではないので、こいつを喰らっても死ぬことはない。


 しかし、『影響がない』というわけにはいかない。

 そこら辺にある物体のように、危害を加えられれば、針を受け続ければ、壊れる。


 体内から直接作られている、弾切れのない針の嵐。

 やり過ごすのは、至難の技。


 すぐに小鬼たちは、オーの壁という仕事ができなくなった。

 

 「くっ……!!!」


 小鬼たちが消滅して尚、二本の剣を用いて次々と針を叩き落とすオー。

 

 しかし、終わりがない。

 余りにも理不尽なゲームだ。


 数分後、

 

 「――――がはっ……!!!」


 オーの全身に、殺戮針が突き刺った。

 刺さっているのは服越しとはいえ、放置すれば確実に死に至るような状態だ。


 「おいおい、全然対応できてねえじゃねえか。死ぬなよ? もう少し、お前の技を見たいんだから」


 座り込むオーに、近づくダクライズ。

 

 そんなこと言ったって、単独の状態でこれを喰らえば、ほぼ全員が敗北必至の攻撃だ。

 むしろ、剣だけで数分耐えたオーの防御は、やはり達人というべきものだった。


 「(……くそっ……手足が痺れるように痛い……。この状態で、奴を倒す手は…………『一つしかない』……)」


 身体の自由が効かない。

 ただ思考を張り巡らせ、奴の顔面を睨み付けることしかできない。


 「……まあ、人間してはよくやったというべきか。俺も変わったな。こんな風に思うなんてよ」


 オーは刀を強く握った。

 そして、最後の作戦に向けた準備をする。

 

 「――――まあ、いいや。お前以外にも、面白そうなのがいたしな。悪いが、命は貰っておくぜ」


 オーに手を伸ばすダクライズ。

 オーは、刀を振り下ろす準備に入るが――――


 「ぬんん!?」


 刀は刺さなかった。  

 ギリギリで、助けに入った者がいたから。

 

 彼女は後ろからダクライズの顔面に飛び蹴りを喰らわし、オーの前に立ち塞がる。


 「……すまんオーさん、遅なった」


 「なんだ、お前は!?」


 「ルナレジェン・ペサンテ。よろしく」

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