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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第九章
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第二百五十二話 『レウラ』

 ――――またじゃ。

 またあの暗闇じゃ。

 

 何も映らないつまらない光景。

 生きているのか死んでいるのか分からなくなる空間。


 なんでまたこんなところに。

 わらわが来なくてはいけんのじゃ。


 ……ここに来ると来る前の記憶が欠ける。

 

 なんで結局ここに戻って来たのじゃ?

 少し考えれば思い出させそうな気がするが、言い様の無い怖さがそれを妨げている。


 フラフラと歩くレウラ。


 生物たるもの、いつまでもじっとしていることなどできない。

 目的が無かろうとも、何かを探しに勝手に足は動き出す。


 ……でも。

 これ以上先に進むのはやめろと、誰かが言っている。

 これ以上先に進んだら何か悲しいことが起こると、胸騒ぎがする。

 

 レウラは一歩後退した。


 そんな彼女の瞳に、またしても見えて来る光の影。


 「……!! これは……!! ダメじゃ……ダメじゃダメじゃ……!!!」


 レウラは後ろに駆け出した。

 明確な理由は分からないが、身体が、心が、進むことを激しく拒んだから。


 レウラは走る、走る。


 何も見えない真っ暗闇が広がる道を、どこを走っているかも分からないような場所を、ただひたすらに。


 「……あそこへ行ってはダメじゃ……!! あっちに行かなくては……!! わらわは……あっちに……!!」


 だがレウラがいる場所に、終点などない。

 戻ろうとしても、先へと進むことはできない。


 でも――――涙を流しながら、レウラは走り続けた。

 

 「はっ……!!!」


 レウラは立ち止まった。

 向こう側に見えた光が、後方にも立ち塞がったから。

 

 「いやあっっ!!!」


 それを見たレウラはUターン。

 逃げて来た方向へ逆戻り。


 どうしても、あの光が怖い。


 「ぎょえっ!!?」


 しかし、反対方向にも同じ光が現れた。

 振り向いた方にも健在。


 二つの光に、レウラは挟まれた。


 「くっ…………」


 レウラは膝を着いた。

 レウラは頭を着けた。


 「――――すまぬ……!! すまぬお前たち……!!!」


 そして地面に、水を零し始めた。

 彼らの前では決して見せなかった、屈辱の水を。

 

 「勝てなかった……!! お前たちの主として……わらわは役目を果たせなかった……!! 本当にすまぬ……!!!」


 もう分かっている。

 なぜ自分がここにいるのか。

 全て。


 この光は、『あいつら』だ。


 せっかく背中を押して貰ったのに、あの男を倒すと誓ったのに、果たせなかった。


 その悔いが岩よりも重い頭を下げさせている。

 滝のような涙を流させている。


 レウラに恥を忘れさせている。

 

 「いえ……。いいのですよ……レウラ様」


 「……!? なんだと……?」


 光が人の形となり、泣くレウラに声を掛ける。

 泣いている娘を慰めるような声が掛かる。

 

 ――――ジックルだ。


 「貴女はやはり、レウラ様です。私たちの主です。……見ていましたよ、貴女の強さを、貴女の力を」


 「……ジックル……」


 「……ただ、奴も……ショウエイ・キズキも強かっただけのことです。貴女ほどではありませんがね」


 「……でも……わらわ……」

 

 背後の光も形を成す。

 更に光は増えていき、レウラの周りを囲んでいく。

 

 レウラの人生とも言うべき部下達が、失意に暮れる彼女を見つめている。


 「……レウラ様……!! 俺はレウラ様の元で戦えて嬉しかったですよ……!! 怖かったけど……!!!」


 「……ステップラー……」

 

 「……私も、レウラ様と友達になれてよかった。あなたに会えたから、私は戦う理由を見つけられたの。ありがとう……レウラ様」


 「……ルラール……」


 「レウラ様!!! 俺はあなたに仕えられたことを誇りに思っています!!! だから顔を上げてください!!!」


 「……グーリュ……」


 「……そうです。貴女は私達の主として、役目を果たしてくれました。我々は全員、その姿をしかと目に焼き付けました……。……ですから、もう休んで下さい。貴女はもう戦わなくてよいのです」


 「……ジックル……ジックル……!!!」


 部下たちから言葉を貰ったレウラ。

 ジックルの胸の中に飛び込んでいった。

 

 悔し涙ではない。

 今度は、嬉し涙を流しながら。


 ジックルもまた、愛娘を抱き寄せるように上司を抱き寄せる。

 涙こそ出てはいないが、普段の厳格さからは考えられないほど穏やかな表情を浮かべながら。


 二人を囲むたくさんの部下たちも、溢れる涙を暖めに肩を並べる。

 

 歪だが、抱き合いながら悲しみを乗り越えようとする家族の姿が、そこにはあった。


 「……わらわの部下が……お前たちでよかった……」


 「…………お疲れ様でした……レウラ様……。――――では、行きましょう。我々と共に」


 「……うむ。この先でも、わらわたちの名をしらしめてやろうぞ……!!! さあ、わらわに続くのじゃ!!!!」


 行き先はなくても、彼らの行き着く場所は、同じ。

 生意気な少女を先頭に据え、異形の者たちはこれからも未来無き今日を突き進む。

 

 彼らの顔つきは自信に溢れている。

 長に影響を受けるように。

 

 彼らは規律に沿っている。

 副長の指導に従うように。


 舞台はガラリと変わったが、地獄の中で再始動。

 時代がどれだけ進もうとも、世界の狭間のどこかで、彼らは歩き続けているのだろう。


 だが彼らのような不届き者たちの名を語り継いでいく者は、いない。

 しかし、そのトップのことを一生忘れることの無い人間は一人、いた。


 ※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 「――――っ…!! いっっってえ!!?」


 現実。

 あちこちに痛みを感じながら、翔英が目を覚ました。

 というよりは、動きを取り戻した。


 レウラが死亡したことで、彼女の能力の効果が消滅したのだ。 

 一部の例外を除き、能力者の魔物が絶命すれば、その能力の効果は解除される。


 「…………レウラ……死んだのか……?」


 触れられた所までは意識があった。

 それが元に戻ったということで、レウラは死亡したと考える翔英。

 彼女がこの場にいないことがより確信を強める。


 「……ってことは……勝ったってことで……いいんだよな…………。うっ……!!!」


 思っていたよりダメージと疲労が大きい。

 翔英はその場に座り込んだ。


 特に首。

 動かすだけで痛みを感じる。


 「……休憩するか……。いや、休憩したところで治らないかこの傷じゃ……。どうする……」


 とりあえず、味方に会いたい。

 だが、下手に歩いて魔物に見つかったら、多分死ぬ。


 「……しょうがない。誰か来るまで隠れてやり過ごすか……」


 民家に身を潜めることにした翔英。


 しかし、その判断は極めて悪手に近いものだった。


 レウラほどの魔物が死んだことは、近くの魔物たちにも感じられていた。

 直ぐ様様子を見に、ミワルナの部下たちがそこへ引き付けられてしまった。


 「……!? やばい……!!」


 「……こいつがレウラ様を……? そんなわけねえか」


 やって来た一体の魔物。

 レウラを倒したのも束の間、またしてもピンチが訪れた。

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