第二百五十話 『最後の戦』
「(――――っ…!! しまった……!!)」
翔英が急接近してくる。
今度こそトドメを刺さんと駆けてきている。
翔英の方も、「この接近で決着をつけなければ」という思いは強い。
これが、最大最後のチャンスだからだ。
しかし、先の加速のダメージ、そしてここまでの積み重なった疲労が効いているのか。
マックススピードを出せていない。
「(……むう……!! 奴が来る前に何か考えなくては……!!!)」
その僅かに与えられた時間を使い、逆転の一手を模索するレウラ。
もう腕は限界。
伸ばしてもダメだ。
これ以上の痛みは耐えられない。
回避するか?
さっきの跳躍力を使って、奴の背後に。
いや、同じことだ。
それでも奴は追い掛けてくる。
遠距離攻撃も持っているのだ。
そんな風に逃げていても、勝ち筋は見出だせない。
……逃げるか?
いや、それは一番無い。
わらわに相応しくない、絶対にあってはならないことだ。
わらわは、一人で戦っているのではないのだ。
翔英の剣の効果が長く無いことが分かっていれば、レウラは回避に身を委ねることができただろう。
しかし、レウラはそれを知らない。
回避しても寿命が僅かに伸びるだけだと。
そう、考えている。
やはり、真正面から迎え撃つしかない。
レウラが覚悟を決め、翔英を強く見つめた時。
「(……レウラ様……!!)」
レウラの頭の中に、よく知った声が響いた。
先も暗闇の中で光となって、レウラの背中を押した者の声だ。
「(……その声……ジックル……!!)」
この土壇場。
視界には迫ってくる翔英の姿。
そんな状況で遠くから聞こえてきたのは、部下の声だった。
「(……レウラ様……!! あれを使うのです……!! 私の……力を……!!)」
「(……お主の力を……!? 無理じゃろそれは……!! 武器がいるではないか……!!)」
ジックルが言う自身の力。
彼が持つ、魔能。
その能力は、ジックルが愛用する「鎌」を振るった場所に次元の裂け目が一瞬生まれ、ターゲットをそこへと吸い寄せるもの。
ジックルと交戦した翔英やオーは、この能力に苦しめられた。
が、レウラは武器を持っていない。
ここまで、部下の身体的特徴、あるいは能力の一部が付与されているとはいえ、その力を使うには装備が足りない。
レウラはそう思っているが……
「(……いいえ、レウラ様。貴女ならできるはずです。――――武器は私……私です)」
「(……武器は……お主じゃと……?)」
「(そうです。――――奴はもう目の前まで迫ってきています……!! レウラ様……!!)」
長らく共にした副官の心からの叫びを耳にしたレウラ。
彼女の顔つきが、更に変わった。
そして、
「(……レウラが動いた……!! だがあの構えは……!?)」
人差し指を立て、居合いのような体勢に入る。
そのまま立てた人差し指を、前に振った。
……すると、
副官のように、大気に亀裂が入った。
「……!!? あれは……!!! ……うわっ……!!!」
翔英は地面から足が離れ、その亀裂へと勢いよく吸い寄せられていく。
身体の自由が、効かない。
「(やったあ!! うまくいったぞ……!! ありがとう……!! ジックル……!!)」
もうジックルの声は聞こえない。
返事は返ってこない。
だがそんなことはどうでもいい。
彼が遺してくれた意志が、危機を突破する道を開いていくれた。
彼のためにも、必ずこの好機をモノにし、勝利を手にして見せる。
レウラの方に飛ばされる翔英。
翔英に右手を構えるレウラ。
このままでは、レウラの右手に吸い寄せられてしまう。
「……くそっ……!!」
でも、身体の自由は無い。
かろうじて腕だけ振ることはできるが、レウラの方に向けることは難しい。
宇宙空間を泳いでいるようなイメージだ。
翔英は吸い寄せるままに敵を斬った、オー・ラッセの凄さを身に染みて理解した。
――――だが、今の翔英は、このまま何もせずに捕まるような男ではない。
「終わりじゃ……!!」
レウラの顔が近くに見えた頃。
翔英は動いた。
「……なっっ……!!」
吸い寄せられて尚も強く握り締めて、剣を槍投げのようにレウラに向かって投げた。
身体は宙に浮いているとはいえ、この距離ならばレウラを捉えることは不可能ではなかった。
「ごおぁっ…!!!」
投擲された雷剣は、レウラの胸に突き刺った。
身体の中心が焼け焦げるような痛みに、苦悶の表情で悲鳴を上げるレウラ。
だが、
レウラは右手を構え続けた。
「……く……まじか……よ……」
――――タッチ。
レウラの右手は、翔英の胸に力無く触れた。
「……は……はは……やった……やったぞ……!!」
ついに、レウラの真骨頂が炸裂。
翔英は青ざめたような顔をしながら、足を地から離しながら、その場に停止した。
完全に翔英は身動きが取れない。
そこには意識すらなく、もはや今の翔英は人というよりは置物だ。
「(……見ておるかジックル……お前たち……!! とうとうわらわの勝利が訪れたぞ……!!)」
勝ち確。
とうとう翔英を捕らえたレウラは、彼の元へ。
いや、その前に、
胸に突き刺っている剣をどうにかしなくては。
今こいつは完全に止まっているのだ。
焦る必要は無い。
「(……この剣……元に戻っておるぞ……。……しまったのう……あの力は時間制限付きであったか…………)」
剣に触れたレウラは、その変化に気付く。
刺さった瞬間から数秒は燃えるような痛みが胸を焼いていたが、今は収まっている。
レウラは、その剣を胸から引っこ抜いた。
「ぐあああ……!! ああ…………。うぅ……」
抜いたことでまた激しい痛み。
レウラは苦悶の表情で痛みに抗う。
「(……もう一発喰らっていたらわらわの敗けじゃったかもしれんのう……。――――じゃが……!!)」
レウラの手は翔英に届いた。
ピクリとも動かない彼の表情を見てレウラは考える。
この戦いが始まる前、あるいは始まった頃は、顔と腕の傷の恨みを返すことを一番に考えていた。
停止してからゆっくり、少しづつダメージを与えていき、翔英の苦痛の叫びで癒そうと思っていた。
だが、今のレウラにその思いはない。
今はただ、この男に勝つことだけを考えている。
「……遊びはせん。一撃で葬ってくれるわ……」
最優先事項は、宿敵の命。
不必要に痛ぶるような真似はしない。
レウラは翔英の命を刈るべく、首に渾身の手刀を放った。




