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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第九章
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第二百四十九話 『進化対進化』

 今見せた跳躍力、そして硬さ。

 これまでのレウラには確実に無かった物だ。

 やはり先の爆発の際に、精神だけではなく肉体にも変化が生じていた。


 だからこそ、翔英は彼女から複数の魔物の姿を感じ取ったのだ。


 重ねって見える。

 他の魔物の影が。


 「(――――にしても……さっきの硬さ……あれはまずい……)」


 平気とは言えないダメージを受けた翔英。

 だがそれ以上に、精神的なダメージの方が大きい。


 ここまでレウラの右手に対し、先に斬ることでやり過ごして来た。

 

 だが、あの硬さ。

 もう斬れないかもしれない。


 そうなれば、いよいよまずい。


 次にあれが伸びてきたら、避けられない可能性が高い。

 あえて吹っ飛ばされての回避も、もう身体がもたない。


 ――――剣の威力を上げるしかない。

 頑強になった奴の皮膚を怯ませることができるくらいに。


 翔英はレウラの方を確認した。


 まだレウラは動きを見せていない。

 向こうも戦略を練っているようだ。


 だったら、

 これを作る時間がある。


 翔英は一旦剣を突き刺した。

 そして掌にエネルギーを構築する。


 先の試験で偶然生み出した技。

 あれから時間があれば作り出せることも確認済みだ。

  

 「ふっ……!!」

 

 剣に魔法をぶつける翔英。

 翔英が放った雷エネルギーは、剣が吸い取っていく。

 

 「よしっ……!! これで……!!」


 剣の力が上昇する。

 一時的とはいえ、魔法の威力を加えた攻撃を発揮することができる。


 これならば、レウラの甲殻のような肉体を傷つけることができるかもしれない。


 翔英は、剣を再び構えた。


 対するレウラは……

 

 生まれ変わった自身の能力を計算しながら、次の行動を考えていた。


 先は両腕四本を同時に伸ばした。 

 

 右二本は停止、左二本は加速の力を持っている。

 

 でもまさか、左の力を回避に利用してくるとは思わなかった。

 奴は能力の詳細を知っているだろうに、痛みがあることは分かっているだろうに、自ら飛び込んでくるとは。


 まだ奴の覚悟を甘く見ていた。

 

 ならば、右だけを伸ばすか?

 いや、また同じように左に飛び込んできても、奴の身体は持たぬはず。


 この能力、片方だけの解除はできない。

 手を叩くと解除されるのは、両方同時だ。


 ……やはり、両方出そう。


 レウラは結論を出した。


 「(……次は、どう行こうか……)」


 続いて、翔英への接近方法を考えるレウラ。

 

 自身の肉体の変化は勿論理解している。

 背中を押してくれた彼らの身体的特徴が、強化されて表れていることも。


 「(……そうじゃ……!!)」


 レウラが動く。

 

 上の両手を地面に着けたまま、伸ばしてみた。

 両手はがっちりと地面にくっついている。


 「……!! なんだと……!?」


 毎度レウラの行動には驚かされる。


 地面にくっついた両手をどんどんと伸ばし、そのまま手長族の倒立のような体勢になった。

 

 「何やってんだよ」と思わずツッコミたくなるような姿だ。


 だが、翔英が行動を起こす前に、レウラは元の体勢に戻った。


 「(……はは、うまくいったぞ……!!)」


 レウラは拳を握りしめて笑った。


 実験の成果ありだ。


 身体的特徴だけではなく、一部の能力をも受け継がれている。

 今、この能力を左手に付与した。


 これでもし翔英が左手を逃げ道としてきても、この左手は彼に吸い付いたまま離れない。

 能力の併用がうまくいくかは分からないが、もし加速が健在のままなら永遠に加速の力だけが送り込まれて数秒で廃人にできるかもしれない。


 「……では、勝ちにいくかの。お前たち」


 とうとうレウラが翔英に仕掛けた。

  

 先程と同様足に力を込め、大ジャンプで一気に距離を縮めてくる。

 

 「……来たかっ……!!」


 迎え撃つ体勢に入る翔英。

 今度のレウラは突進ではなく、上空から両手を伸ばしてきた。


 「……さあどうする……!! ショウエイ・キスギ……!!」


 四本の腕、一斉発射。


 腕を斬ることはできないことは分かっているはず。

 ならば、回避に出るしかない。

 しかし、先の手は対策済み。

 

 これで、チェックメイトだ。

 

 「(……斬ってやる……!! この力で……!!)」


 だが、翔英は迎え撃つ。

 レウラのゾーンに、突っ込んでいった。


 「なんじゃと……!! 自ら入ってくるなんて……!! ……じゃがそれも無意味なことじゃ……!!!」


 四本の腕との距離を詰め、避けながら斬り掛かる翔英。

 魔法を混ぜたその力は――――


 「……がっ……!! なにぃ……!!? わらわの腕を……!!!」


 斬った。


 甲羅のような硬さを誇っていたレウラのボディだが、斬った物を焼く程の力を秘めた翔英の新剣は、早くも傷を付けた。


 「(……!? 何をしたんじゃ……!! 本気を出してなかったのか……!? いや……!! 今はそんなことはどうでもよい……!!! 重要なのは…!!!)」

 

 また、翔英がレウラの腕に対応できるようになったこと。

 しかも、さっきよりもダメージがでかい。

 このままあの力で斬られ続ければ腕は持たない。

 

 「(くっ……!! 手を引っ込めるか……!!? いや、それではわらわの勝ち筋はなくなる……!! じゃがしかし…!!!)」


 翔英のこの力が、数分しか続かないことをレウラは知らない。

 彼女は今、終戦まで剣は強化されたままだと思っている。


 このまま腕を引っ込めれば、翔英は直ぐ様接近してくるだろう。

 かといって腕を出し続けていても、受けるダメージがキャパオーバーとなる。


 とりあえず今は、翔英に腕を伸ばしているが。


 「(……どうすればよい……。どうすればよいのじゃ………ううっ……!!)」


 更に焼けるような痛み。

 レウラの表情がきつくなっていく。

  

 「(……しぶといな……レウラ……!! 後二分あるかないか……!!)」


 だが、それは翔英の方も同様だった。


 腕を斬り続けているのに、確実に怯んでいるのに、その手が動きを止めることはない。

 復活前は、一々時間を置いていたのに。

 

 やはり変わった。

 

 翔英はレウラという魔物の執念を目の当たりにした。


 もし時間切れとなれば大ピンチだ。

 

 もう一度魔法を込めれば作ることができるが、そんな隙をこいつが与えてくれるか分からない。

 また剣が跳ね返されるようになったら、今度こそ動きを奪われるかもしれない。


 「うらっ……!!」


 「ぎゃあっ……!!」


 また斬った。 

 また傷んだ。

 

 「(……止まってくれ……レウラ……!!)」

 

 「(……!! も……もう腕が……!!)」


 だが、翔英の攻撃がレウラの上を行く。


 残り数十秒を残し、レウラへの道を切り開いた。

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