第二百四十八話 『宿敵として』
「――――っ!? なんだ……!!?」
トドメを刺しに入った翔英の腕にストップが掛かる。
重症のレウラの身体が、太陽のような目映い輝きを放っていたためだ。
「まだ何か……!? ……させるかっ!!」
翔英は剣を握り直し、その光へと振り下ろす。
しかし、その剣が彼女の身体へと届く前に、翔英の身体は反対方向へと吹き飛ばされた。
レウラの身体が爆発を起こしたのだ。
「くそっ……!! なんなんだよあいつ……!!」
すぐに体勢を建て直し、相手へと目を向ける翔英。
視線の先では、爆発による砂塵が舞っている。
彼女の姿は見えない。
翔英は舌打ちした。
『仕留め損なった』
戦闘不能かに思えたレウラだったが、まだ彼女の精神と肉体は戦うことを望んでいたのだ。
砂煙が晴れていく。
レウラの姿が目に映る。
「……あいつ……!?」
その姿に変化はない。
先程と同様、似合わない四本腕を生やしていることも同じだ。
違うのは――――眼。
初めて見る眼だ。
いや、初めて「相対する」眼と言った方が正しいか。
隣で、あるいは前で、共に戦ってくれる者が見せてきた眼だ。
誰かのために戦うという、勇気をもらえるような力強い眼。
その眼をレウラは魅せていた。
「(……何が起こったんだ……。あいつがあんな眼をするなんて…………)」
少なくともこれだけは分かる。
奴は、変わった。
「……さあ、ショウエイ・キスギ。第二ラウンドといくかのう?」
レウラが一歩前進し、口を開いた。
翔英は息を整えると、初めて、
「……何があったんだ……? レウラ。今の一瞬で……」
彼女との対話を試みた。
これまで、ただ有害な暴君としか青年の眼に映らなかったレウラ。
いや、倒すべき暴君であることは今も同じだ。
だが、少なくとも、話すこと自体を脳が拒否するような嫌悪感は薄れていた。
「……よかろう。教えてやる」
レウラ側も、翔英の質問に答えることを許した。
レウラもまた、彼の認識を僅かに改めていたのだ。
ただの恨みを募った仇敵から、自身が倒すべき宿敵へと。
翔英の質問に答えることにしたのは、自身を限界まで追い詰めたことに対する、敬意の現れだと言っていいだろう。
「――――背中を押されたのじゃ。遠くにいる、わらわの部下たちにな」
「……背中を……部下に?」
翔英はレウラの答えを耳にし、自身の記憶を辿った。
彼もまたレウラ達、即ちレウラ軍とは関わりの強い人間であった。
トップのレウラとはこうして二度も激突。
副官のジックルとも剣を交えているし、ステップラーからは命を奪っている。
そしてさらに、レウラ軍が全滅するに至った戦いにも参加しており、ここ最近のレウラ軍との戦闘にはほぼ全て関わっている。
「……あいつらにか……」
「そうじゃ。わらわには背負う者があるというわけじゃ。 ……さらにお前は、わらわの部下を殺しているな?」
「……ああ、そうだな」
「……別に貴様が悪いことをしたとは思っておらぬ。命を懸けた戦闘に置いて、死者が出るのは当然のこと」
「(……お前がそんなこと言うなんて……)」
「――――じゃが、それはそれとして、わらわは許さんぞ、貴様を。元々そのつもりではいたが、あいつらの顔を見てさらに強く思ったわ」
「……なるほどね……」
レウラ軍が全滅してすぐにレウラは、「部下たちの敵を討つ」ということも念頭にいれていた。
しかしそれは、あくまで理由の一つ。
レウラが翔英との戦いに臨んだ一番の目的は、自身を傷つけたことに由来していた。
自身を傷つけた人間と、レウラ軍の全滅に関わっていた人間が別であったならば、レウラは間違いなく前者の元に向かっていただろう。
だが、今の彼女はそうではない。
部下たちを代表する者として、組織のトップとして、軍を、仲間たちを破壊した人間に対し、最高の戦意を抱いていた。
彼女の心境の変化は、翔英との戦いに対する思いに、強く影響を与えていることは明白だった。
「――――質問はもうよいか?」
「……ああ、構わないよ」
レウラの眼に変化が起こった理由を一連の問答で理解した翔英。
これ以上の対話は必要ないと判断する。
理由を知ったことで、この戦いに対する認識のズレを修正することができた。
しかし、逆にレウラの強さにバフが掛かっているという可能性を知ってしまったことは、必ずしも良しとは言えない。
「……では、貴様を殺そう」
「……来やがれ……!!」
臨戦態勢に入る翔英。
対するレウラは、身体を縮めながらしゃがみ込んでいる。
「!!? 何をする気だこいつ……!?」
敵の妙な動きに、更に警戒を強める翔英。
これもまた、レウラに訪れた変化によるものだと、翔英は理解した。
「……!? 何ぃ……!?」
次に見せたレウラの動きに、驚きながらも備える翔英。
レウラは遥か上空へと飛んだ。
足にエネルギーを溜めて一瞬で放出して。
先程も急接近してくることはあったが、それは「前」の話。
今回は、「上」に飛んでいる。
だが、わざわざ空中へ舞台を移したのは好都合。
空中では回避はできないはずだ。
レウラが落ちてくる前に、魔法を噛まそうと構える翔英。
だが、
レウラは、更に空中で加速した。
落下の勢いのまま、翔英に突っ込んでくる。
「(……何をする気だ……!? まさか体当たり……!?)」
これまでの彼女からは考えられない戦法。
別に頑丈でもないだろうに、捨て身で突っ込んでくるなんて。
「(……いや違う……!! あくまであいつの狙いは右手で触れること……!! 体当たりを交えながら、その衝撃に乗せて触れに来るはずだ……!!)」
翔英は落下ギリギリで警戒の集中を一点に戻した。
この突撃は、次の攻撃へのアシストという予想に辿り着いた。
「(だったら避け……!!)」
回避を選択。
体当たりを横に回避する翔英。
「(な、何て威力だ……!!)」
その距離もあってか、地面を破壊するほどの威力を出したレウラの体当たり。
瓦礫や砂煙が舞っている。
だが、これじゃ、レウラもただでは済まないんじゃないか?
翔英がそう思った時、
再び、四本の腕が死角から伸びてきていた。
体当たりで視界が悪くなったことにより、腕への反応が遅れる。
「(でも……!!)」
居合抜きのように集中して構え、何とか近づいてきた腕を斬った。
しかし、
「……!! 硬い……!!」
腕が先よりも断然硬い。
翔英の斬撃を耐えられるようになっている。
ここで翔英は気付く。
恐らく、レウラの全身が硬くなっている。
あの体当たりの結果もその後の行動も、硬い故に起きたものだ。
「……やばい……!! 来る……!! ……はっ……!!」
右手が触れようとしたその時。
左からも手が伸びてきているのが見えた翔英。
翔英は考える間もなく、左の方に飛び込んだ。
「ぐあっっっ!!!」
左の能力は健在だった。
左手に触れた翔英は一瞬で、遥か後方へと吹き飛ばされる。
「……ごはっ……!!」
そのまま民家に打ち付けられた。
激痛。
全身から血が流れている。
――――だが何とか、あっちは回避した。
「……よく避けたのう。さすがじゃ……。じゃが、次はそうはいかんぞ」
レウラが姿を見せた。
その姿を見て、翔英は思う。
まるで、『数体の魔物を相手しているようだ』と。




