第二百四十七話 『始まりの軍』
――――ここは……どこじゃ……?
視界には闇が広がるばかり。
わらわが目に移す光景にしては色が無さすぎる。
四方八方、何もないではないか。
わらわは、何をしていた……?
どこへ行こうとしていた……?
思い出せぬ……。
ただ、理由が分からないやりきれぬ思いだけが、わらわの心に染み付いている。
……あれは……。
声も届かないほど離れた場所。
少し光が見えた。
どうせ何をすればいいのか分からないのだ。
そこへ向かうしかない。
……これは……。
近づいていくと、その光は人の形を成していった。
それも一つではない。
距離を縮めるに連れ、二つ、三つ、四つと更に数を増やしていく。
中には人とは言えないものもあるが、少なくとも生物であることは言える形だ。
……こやつらは……。
レウラは思い出してきた。
この光は、よく知っている者。
自身の人生に、深く関わってきた者たちだ。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
レウラ。
現在は、不本意ながらラスドラーゴの配下として活動している彼女だが、かつては自身がリーダーを努めるレウラ軍を率いていた。
今は一人もいないとはいえ、現在もレウラ軍のトップである彼女だが、当時は魔凰軍には所属していなかったのだ。
レウラは生まれた時から誰かの上に立つことを良しとする性分だった。
産声と同時に冒険へと向かったレウラは、その道中で出会った魔物と戦い、あるいは話をして、自身の配下に加えていった。
当時はラスドラーゴたちも軍の再建に手一杯だったので、どこにもに所属していない野良魔物が多くいたのだ。
レウラはそんな彼らに、自身の部下という居場所を与えていった。
彼女が特に印象に残っているのは、ステップラーという虫の姿をした魔物とルラールという少女の姿をした魔物だ。
初めて会った時から、二人は一緒にいた。
少し話をすると、二人は「行くところがない」と言っていたので、「わらわが探してやる」とレウラは提案した。
だがステップラーは、「誰かの下に付きたくはない」と断り、あろうことかレウラが持っていた食料や物資を奪おうとしてきた。
レウラはステップラーを叩きのめした。
「わらわの思いを踏みにじりおって」と激怒するレウラだが、ルラールが止めに入った。
「何でも言うことを聞くから殺さないでください」と頭を下げられた。
ちょうど部下が欲しかったレウラは、二人を仲間に引き入れることにした。
レウラ軍誕生の瞬間だ。
レウラは嬉しかった。
誰かの上に立つという目標が叶ったから。
レウラは二人に、自身のために戦い、尽くすようによう命令した。
「もしそれを破ったりしたら絶対許さない」と告げた。
「それさえ守ってくれれば、行き先はわらわが決めてやる」とも告げた。
ステップラーは、レウラの圧倒的な強さに胸を打たれ、彼女の配下になることを受け入れた。
ルラールの方は戦うことは嫌だったが、二人の居場所をくれたレウラに感謝も抱き、彼女の下に付いた。
それからも続々とレウラの配下は増えていき、数ヵ月後には二十名を越える大所帯となっていた。
さらには人数だけではなく、自分等の領地も開拓していった。
すると当然、他の者にも彼女たちの活動は耳に入る。
ある日、レウラ達の前に現れた一人の魔物。
彼は小さな少年の姿をしていた。
いつも通り、レウラは彼をスカウトするが、逆に部下になるように命令された。
レウラは少し驚いたが笑って見せ、勝った方の下に付くことを提案した。
……だが、彼が戦闘モードに入った途端に、レウラは前言の撤回を心の中で望んだ。
……勝てないと、勝てるはずがないと悟ってしまったのだ。
レウラも怪物であったが、彼は自身の数段上にいる、遥か怪物だった。
彼の名は、ラスドラーゴと言った。
当然、誰かの下に付くのは死ぬほど嫌だったが、自身がラスドラーゴに挑み死亡した時、残していく部下たちを考えた結果、彼女は降伏を宣言した。
自身初めての完敗だ。
それも、戦わずして。
こうして、レウラ軍は軍ごとラスドラーゴに引き抜かれ、魔凰軍の一員となった。
それから、少し経った後。
レウラ軍の活動が認められ、東にある拠点を任されるようになった。
当時は拠点は一つしかなく、レウラが初めての支部のトップなった。
その際にラスドラーゴは、本部からレウラ軍に副官となる人材を派遣した。
候補として上がったのが、まだ若かったロジェの側近の枠を争っていた、デゼスポとジックルという魔物だった。
ラスドラーゴは二人との対話を試みた。
さらにはレウラも交え、二人と話す機会を設けた。
レウラは、ジックルの実直さと厳格さを気に入り、ジックルの加入を望んだ。
彼がいれば、部下たちの指導が任せられると判断したからだ。
さらに、自身のわがままも聞いてくれるのも嬉しかった。
ジックルもまた、レウラの奥底に持つ野心を見抜き、彼女に尽くすことを選んだ。
こうしてレウラ軍は、現在に至るまで活動してきたわけだが……。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
――――そうじゃ、お主たちは……。
光が完全に形を成した。
彼らだ。
ジックルをはじめとした部下たちが、目映い光を放ちながらこちらに目を向けている。
「お前たち……!! 会いたかったぞ……!!」
母親が迎えに来ているのを見た幼稚園児のように、笑顔で駆けていくレウラ。
だが、中心のジックルは手のひらをこちらに向けながら首を振っている。
「……? どうしてじゃ……。なぜわらわを拒む、ジックル……」
「……レウラ様……。……貴女はまだ、此方に来ては行けません……」
「何を言っておる……。なぜそんなことを言う……」
「貴女はまだ、生きているからです」
「……!! 生きている……!? ……ということはそなたらは…………はっ……!! ……そうじゃ……わらわは……」
「思い出したようですね、レウラ様。今、貴女は何をしていたのか」
「……うむ……。……でも、せっかくそなたらに会えたのに……」
「行って下さい。戻って下さい。貴女はまだ、此方に来るべきではないのです。――――貴女が誰なのか、今一度考えて下さい。レウラ様」
「…………そうじゃ、わらわはレウラ。そなたらの主……。……うむ、確かにまだ早いか……貴様らに会うのはな……」
「レウラ様……!!」
「お前たち、そこで見ておれ。わらわの活躍を」
一転。
レウラは不敵な笑みを部下たちに見せながら、来た道を引き返していった。




