第二百四十五話 『月日は変える』
――――やっぱり、こいつの右手に捕まったら終わりだ。
今でも覚えている。
こいつの必要以上に相手を痛ぶる癖。
この能力とは嫌な意味で相性抜群だ。
誰かに助けを求めることが出来ない以上、あの時とは違ってマジで永遠に続くかもしれない。
だからその前に、何としても決着をつける。
さっきの超加速。
気を付けなければ。
――――随分技が多彩になっておるの……。
身体能力の向上に加えて、あの剣を盾に変形、さらに魔法まで使えるようになっていたとは……。
この短期間でこれほどの成長。
やはりこの男。
侮れん奴じゃった。
……じゃが、その方がいい。
この傷が、ただの雑魚に付けられたものではないと分かったからの。
右手は痺れるが、触れれば関係ない。
さっさと動きを止めて、たっぷりとお返しをしなくては。
一定の距離を保ちながら向かい合う両者。
変わらずレウラは攻める隙を見計らい、翔英は守りを固める。
「(来いレウラ……!! 必ず見切ってやる……!!)」
完全集中で待ち構える翔英。
さっきの超加速をやられても、何とか対応できるはずだ。
「(……自信たっぷりという顔じゃのう……。さっきので自信をつけたか……。じゃが、同じようにはいかんぞ)」
レウラが動く。
やっぱりいきなり懐に入って来た。
そういえばリュノンと戦ってた時もこんな動きをしていた気がする。
「はあっ……!!」
「……なっ……!!」
驚いた。
さっきと全く同じだ。
やはり右の一点狙い。
両右手をくっつけようとしてくる。
どうしても動きを止めたいようだ。
「(……まあ狙いは分かるが……同じだよさっきと……!!)」
翔英の対応を全く同じ。
レウラがかざしてきた右手に合わせるように、盾を変形させながら繰り出す。
ブロック――――成功。
だがレウラも、二度目はさすがに驚かない。
翔英に左上の掌を突き付ける。
しかし、「驚かない」とはいえ、盾の位置は確実にレウラの動きを邪魔している。
「(そっちも警戒済みだ……!!)」
どんな能力か割れているのだ。
そっちの手にも当然、注意はしている。
「うげえっ!!」
レウラの掌が触れる前に、右ストレートが顔面炸裂した。
回避絶対の右手は盾でブロック。
左手は触られる前に潰す。
作戦成功だ。
「(……どうする……!! 奴は怯んでいる……!! 畳み掛けるか……!! ああ……!! 行ける……!!)」
顔面に入った右ストレート。
実に、効いている。
この隙に、動きを封じてしまおう。
ここで安全に回避を取れば、また同じことを仕掛けて来るはずだが、こんなにうまくはいかないかもしれない。
三秒で結論を出し、盾を剣に変え斬り掛かる翔英。
だが、
「(……!! 何だ……!?)」
レウラが笑っていた。
狙いを定めた翔英の目に、レウラの笑みが入った。
「(……あいつのあの顔……!! 何か仕掛けている……!! …………!! これは……!!)」
気づくのが遅れた。
レウラの右下の手がない。
いや、伸びている。
伸びているのは、
「後ろだっ……!!」
盾を出した瞬間に右下の腕を翔英の後ろに伸ばしていた。
そういえばこいつ、腕が伸ばせるんだった。
盾の死角を利用していたのか。
「……!! あぶねえ!!」
おにごっこで鬼が気づかれないようにそっとタッチするように、レウラの右手が翔英の真後ろに迫って来ていた。
だがギリギリ届く前に、翔英は振り向き様に剣を振るう。
「……なにいっ……!? ぎゃあっ……!!」
レウラの右手を切り裂いた。
右手は力を無くし、メジャーのように元のサイズに戻っていった。
「(……なぜ……!! バレていたのか……!! おのれ……!!!)」
顔に出ちゃったことでバレたことに気付かないレウラ。
死角と隙を突いた作戦だったが、これも失敗に終わった。
逆に、
翔英が切り込んで来る。
今のを斬れたのはかなりでかい。
腕を斬れば、怯んで動きが止まることが分かった。
これ、攻めた方がいいかもしれない。
レウラの手が触れる前に動けば、動きを封じられるかもしれない。
――――翔英のその読みは、当たっている。
スピードでは完全に翔英に分がある。
普通に触ろうとしても、一瞬で腕を斬られて触ることができない。
能力に任せて戦ってきたこと、痛みへの弱さをそのままにしていたことへのツケが回ってきている。
「……なぜじゃ……なぜ触れることができ…………ぎゃあっ……!!」
吹っ飛ばされるレウラ。
翔英は彼女から目を離さない。
こうして対応できているとはいえ、一瞬で状況が変わる戦いなことには変わりない。
「(……馬鹿な……なぜ……!! なぜじゃ……まさか……こいつ……わらわの上に立っているのか……!? こんな人間がこのわらわの上に……!?)」
激高するレウラ。
数か月前には圧倒していた人間に防戦一方では、こんな顔にもなるだろう。
しかし、翔英が経験した戦いの中では、レウラはかなりやりやすい相手だということも事実だ。
なぜならレウラは、攻撃のバリエーションが少なすぎる。
さらに、動きが鈍い。
そして何より、翔英の剣との相性が悪すぎる。
掌ではなく、腕に来るのだ、痛みが。
しかもリーチも長い。
さらに遠距離攻撃も使うことができる。
レウラにとって翔英は、最悪の相手と言えるかもしれない。
だが、
「(……いや……!! そんなはずはない……!! こいつはわらわの下じゃ……!! あの時と何も変わらない……!! わらわが……上なのじゃ……!!!!)」
そんなことを認められるレウラではない。
「ふんっ……!!!」
「……うわっ……!!」
翔英はびっくり。
レウラが四本同時にびよーんと伸ばして来た。
本人は座っている。
ただ腕だけが、四方から翔英に襲い掛かる。
「(……そう来たか……!! だが……!! 一番警戒すべきは右の腕……!! そいつは絶対斬りつつ、左の二本もできれば避ける……!!)」
高速で伸びてきた四腕。
しかし、高速には目が慣れている。
宣言通り、右から伸びている二本の腕は一振りで斬る。
「(次はこっち……!!)」
右両手が怯んだ隙に、左に目をやる翔英。
回避しながらこっちも叩き斬る。
四本斬った。
四本怯んだ。
まだ伸びているが、この隙に本体のとこへ。
腕が怯んでんだから本体は丸腰だ。
「(じゃあなレウラ……!!!)」
座り込んでいるレウラにトドメと斬り掛かる翔英。
レウラは恐怖への怒りで叫んでいた。




